背中のトカゲ ~ カールスルーエ

 

ドイツの町の小さな墓地には
下草が青々と茂り
|紅《あか》い小花が揺れていた

そのただ中に
白い像は立っていた

|梢《こずえ》を仰ぎ
小鳥のさえずりに
耳を澄ませているようにも見えた

同じ方向を見上げると
眩しい風が通り過ぎ
サワサワと枝葉が揺れた

光をください

声が聞こえたような気がして
あたりを見まわす

乙女像の後ろに回り込むと
シニヨンにまとめた首筋の下
ロングドレスの背中には
一匹の小さなトカゲがいた

色彩をもつトカゲなら
人の気配でスルスルと
どこかへ逃げ去ったかもしれない

けれども
白いトカゲは乙女と同化して
その背中に在った

守り神なのか
魔性の象徴なのか

分かつことのできないトカゲを背に
天を仰ぎ続ける永遠を想う

わたしの背中にも
はりついている
かもしれない

そんな思いを
夏の風がひと撫でした