季語:竜田姫(たつたひめ)

 

竜田姫夜うたふ鳥みえぬ鳥 たつたひめよるうたふとりみえぬとり


三秋の季語。

漆黒の秋の夜に紛れて幽かに聞こえるのは
金銀糸の錦織にしきおりを纏い御扇(おんおうぎ)で顔を隠された
竜田姫の御歌なのか
女神の想いを紡ぐ聖鳥の鳴き声なのか
ひととき目を閉じて想像してみる


奈良平城京の西に位置する竜田山の秋の女神、竜田姫
ちなみに、春の女神は佐保姫
ともに特技は染色や裁縫とされる

山を豪奢な錦に染めるのは竜田姫
夢見るような春霞をあしらうのは佐保姫
山が美しく変容するさまを擬神化した
いにしえの人々の想像力

「雲上(うんしゃうなる)」 女神さまとは、さて?
ただ、人間の顔をもってしまうと天上感が薄れてしまうような気もするのだけれど…


竜田姫は鮮やかな紅葉とともに描かれることが多い。
竹久夢二が描いた竜田姫は、紅葉を思わせる真っ赤な着物の嫋やかな風情だ。
前で結んだ帯が花魁(おいらん)風でもある。
女神というよりもエロティシズムを湛たたえた女人のように見える。

夢二は佐保姫も描いているが、こちらも真っ赤な着物姿。
最愛の女性 笠井彦乃(ひこの)をモデルにしているのだという。
彦乃は25歳という若さで「永遠の人」と呼ぶ夢二を残して夭折している。

一方、日本画家 松岡映丘(えいきゅう)の描く佐保姫は、いかにも春らしいパステルカラーの衣装を纏っている。
民俗学者の柳田國男らの著名な兄をもつ映丘は「松岡五兄弟」のひとりでもある。


ちなみに、夏は「筒姫」、冬は「宇津田姫」