月隠の迷路 ~ 上海

 

心の中には
幻想が迷い込む|月隠《つきごもり》の迷路がある

月が隠れ
星が沈んだ暗夜の路を行けば
闇が幻想を膨らませるばかり
光を求める人影もない

川面に鈍色の光を放つ街灯は点々と
暗い橋のたもとへと私を導く

|黄浦江《こうほこう》に架かる橋の下に宿る影
橋を渡った沿岸の樹木は小暗く茂り
四角い穴のような窓々を擁した建物群に
空から鉛色の光が降っている

彼岸と此岸の狭間で見る夢のようでもあるが
これは眠る前に眺めていた写真の風景だ

どこか懐かしさを覚えるのは
心の迷路とリンクしているからだろうか

モノクロの街を俯瞰した後
何かを探したくなった私は
黒い窓から繁茂した雑草を眺め
橋から|煤《すす》色の川面をのぞく

探しているものは多分見つからない
わかっているけれど
何を探しているのか知りたくて
色のない静かな街を
今夜も彷徨ってみる