夢境逍遥

 

幻聴のようなせせらぎに
耳を澄ませば
静寂はなお深まる

鳥のさえずりと
梢のささめきだけが
現世である証

千年の山門を抜けると
左に此岸の三重の塔
右に彼岸の浄土の庭

赤い唐衣の吉祥天女は
極楽の中心に立ち
優しく怜悧な眼差しで
この世をご覧になっている

此岸で摘んだ蓮の実を
足元にお供えして
静かに手を合わせると
背後で光明が
揺らいだような

天女の左手には
桃の形の如意宝珠(にょいほうじゅ)

宝珠の素材を唱えると
まるで不思議な呪文のよう

仏舎利
黄金
白銀
沈香
白檀
紫檀
香桃(こうとう)
桑沈(そうじん)
白心樹沈(びゃくしんじゅじん)
柏沈(びゃくじん)
真漆(しんしつ)