
赤茶けた鉄の欄干の根元に
大雨を凌ぎ切った雑草が揺れていた
一人しか通れない狭い橋の下を
キャラメル色の水が流れている
台風が過ぎ去った後の前線が
この土地にたたきつけた雨の量が
尋常でなかったことがうかがえる
橋の上から眺めると
泥を掃き出した家があり
強雨に倒れた野菜の畑があり
遠いむかしに迷い込んだ
あの場所に似ている気もしたけれど
そうであってほしくない思いもあり
橋を渡り切らずに
引き返した
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
川が干上がった荒れ地には
雑草ばかりが茂っていた
軒下に雨ざらしの洗濯機が錆びていて
小さな畑には萎びた野菜が育っていて
首輪のない犬がやって来て
ついて行った先はどこかの縁側で
暗がりに小さな老女が座っていた
こっちへおいでと手招きするので
靴をぬいで座敷に上がる
「どこから来たの?迷子かね?」
老女はしわくちゃの紙を広げて
帰り道の地図を書いてくれた
「早くおうちに帰りなさい」
そう言って
わたしが帰るべき方向を指さした
老女と犬に見送られて
あちらとこちらを分かつ鉄の橋を渡った
紫の太陽が沈みかけていて
空がラベンダー色に染まっていた
雑草が茂るばかりのあの場所に
ときどき無性に帰りたくなる
空の色は少し恐ろしかったけれど