顧客と企業の第一線の接点である"真実の瞬間"(顧客が組織の一面と接触し、そのについて、何らかの印象を得るような出来事のこと)を、顧客の視点から的確に管理することこそが、サービスクオリティ向上の鍵である。従来型のトップダウン方式の管理手法では、サービスの質的向上は望み得ない。発想を180度転換し、すべてを顧客の視点からとらえ、顧客の満足を最重要課題と認識した、新しいマネージメントが必要である。
このシステムの特徴は、まさに"誰にでも顧客はいる"という、この一文を実践することである。
第一線の従業員が、顧客にとって最大の支援者として機能するためには、彼らを支援すべき諸部門がお互いを顧客(内部顧客)ととらえ、セクショナリズムに陥ることなく、相手の便益を最優先するという意識が醸成されなくてはならない。
企業内部の従業員が、"内部顧客"を重視するようにならない限り、真の顧客志向の企業というものは生まれ得ない。特にサービス産業においてはそうである。実際に顧客に対してサービスを提供している人たちを、組織全体で支援していく、という考え方が、サービスマネージメントの最も重要な原理であり、まさにこれは、時代の最先端をいくアイディアであるといえる。
たとえ自分の職務が、直接顧客に対してサービスを行うことでなくても、その職務は顧客にサービスをしている人に対してサービスをする、という形で関連しているのである。
第一線の従業員が、顧客の支払ってくれる代価を上回るような傑出したサービスを提供しようと考えても、それだけでは不十分である。一人でそれを実現することは不可能だからである。そのためには、従業員から支援部門、職長やマネージャー、職務の流れを管理する統括部門、さらには企業全体を監督する経営者にいたるまで、全社的な"サービス向上のためのつながり"ができていなくてはならない。
多くのサービス業では、顧客との接触という重要な職務を、最も経験や能力のない人が担当している。その上、組織が全体として顧客との接触に一生懸命になろうとせず、加えてセクショナリズム的な組織内部の論理によって、従業員の行動が顧客との接触を排除する方向に向けられてしまう。これでは、顧客との接触やそれに対する支援がどのようなものになるかは、まさに成り行き任せといっても過言ではない。サービスにおいて競争優位を確立するために、ということが、結局はまったく理解されていないに等しい。
顧客と直接接触する仕事が敬遠される主な理由は、おそらくそれが非常にきつく、心理的な負担が大きいということであろう。第一線では顧客からの電話で振り回され、常に満足を提供する側の人間に徹しなくてはならず、さらにその仕事ぶりは、その時々の顧客の評価に委ねられるのである。常に顧客の顔色を伺っていなくてはならない。これぞまさしく第一線の職務が"情緒的労働"といわれる由縁であり、多くの人々がそれを敬遠する理由である。
一方"頭脳労働"の人は絶え間ない顧客の来訪に気を配る必要などもない。顧客の要望に応えたり、苦情を聞いたり、怒り狂っている人をなだめたり、説明しようにも説明できないような会社の方針を伝えたり、間違いを詫び再度来店してもらえるようにするといったことは、誰か他の人がやってくれる。
"情緒的労働"をしている従業員に対しては特別な配慮が求められる。まず心理的に近ずかねばならない。というのも、その態度が、日々顧客との接触を行っている従業員の質に、即座に反映されてしまうからである。
第一線の従業員が、契約決定に際して上司の指示や確認を求めたり希望をたずねたりしていれば、顧客はその度に待たされることになり、ついにはそれが顧客の信頼を失うことになる。つまり顧客は、企業が自分を信頼してくれないと感じ、さらに正しいことをしようとする従業員に対して、不信感をいだくようになる。
ミドルマネージャーが組織のなかで、変化を起こす上での障害になっているということは、多くの人が広く認めているところであるが、当人は自分自身が変化の妨げとなっていると考える人はほとんどいない。
奇妙に聞こえるかもしれないが、企業を効果的にサービス志向に変えるための第一歩は、まず顧客が誰であるかを知るということである。インターナルサービスの場合、お金を払ってくれる普通の顧客に直接サービスの提供を行う場合と比べて、内部顧客との関係は非常に複雑で、期待される役割も多岐にわたり、対象とすべき内部顧客が誰であるかということを明確に理解できていない部門も多い。
どうしても顧客が誰かわからないのであれば、簡単に見つけることが出来る方法を教えよう。今やっていることをすべて2週間やめて、誰が文句を言ってくるかじっと観察する。
文句を言ってきた人があなたの顧客ということになる。もし誰も文句を言ってこなかったら、早急に転職のための履歴書の準備に取りかかった方がよい。
内部顧客に対するサービスの提供について"真実の瞬間"の例を挙げると
1、 顧客が当部門に電話をかけてくる。
2、 受付係が顧客の要望に応える。
3、 顧客が、当部門から情報を受け取ったり、追加を要求する。
4、 顧客が、手続きの変更や特殊なサービスの実行をもとめたり、書類に記入する。
これらは 、"これこそが我々の、すべての顧客との接点だ"と断言できるまで、自分たちの活動を見つめ直し、顧客に何らかの印象を与えるような出来事を、洗いざらいとりあげてみる。そしてこれらの"真実の瞬間"が管理されないまま放置されれば、サービスの質は凡庸なものになってしまう。