APX

ATARI プログラム エクスチェンジ
ATARIホームコンピュータ用ユーザー製作ゲーム


東部戦線1941


ドイツ軍によるロシア侵攻を題材とした一人用シミュレーション・ゲーム
(13歳以上推奨)

必要ハードウェア:
カセット:16K(APX-10050)
ディスク:32K(APX-20050)
アタリジョイスティックコントローラー1個


東部戦線1941

by
クリス・クロフォード


プログラム・マニュアル双方ともにクリス・クロフォードの著作物です。

このコンピュータプログラムとドキュメントにおいて、作者はプレイヤーに対してプログラムを実行するための非排他的権利を与えます。
このソフトウェアは法的に保護されており、再販・移植・再配布等許可無く実施する事は禁じられています。


コンテンツ

イントロダクション

概要
必要機器

ゲームの始め方

東部戦線1941のロード方法

東部戦線1941のプレイ

お試しプレイ
マップの確認
ユニットの確認
命令を与える
命令の実行
新しいターン

移動
歴史的背景
仕組み

ゾーン・オブ・コントロール
歴史的背景
仕組み

戦闘
歴史的背景
仕組み

補給
歴史的背景
仕組み

季節
仕組み

ゲームの終了
ハンディキャップ
ゲームの再開
コンピュータの思考
戦略上のヒント

デザイナーズノート

東部戦線1941地図



イントロダクション

概要

 東部戦線1941は、第二次世界大戦においてドイツがロシアへ侵攻した、バルバロッサ作戦のシミュレーションである。 この作戦は4年間におよび、2,000万人の命が失われた。 プレイヤーはドイツ軍司令官となって軍団を指揮し、冬の訪れと共にロシアが反撃を開始する前に、要所を占領しなければならない。

 このゲームは例外的なまでに複雑なゲームである。 プレイヤーはゲームを開始する前にこのマニュアルを読まなければならない。 もしルールを把握せずにゲームを開始すれば、混乱しフラストレーションが溜まるであろう。 もし初めてウォーゲームをプレイするのであれば、少し奇妙なコンセプトに戸惑うかもしれない。 ゲームにおける要素の全てには、何らかの肯定的な意味が存在する。 このゲームは完全に合理的なのだ。 お試しプレイをする場合、参考例を読み、それら全てを考察する事。 これにより、何も考えずにジョイスティックを握ってプレイを開始する場合と比較して、より楽しく価値ある体験を得る事ができるであろう。

必要機器

カセットテープバージョン
16K RAM
ATARI 410 プログラムレコーダ

ディスクバージョン
32K RAM
ATARI 810 ディスクドライブ

ATARIジョイスティックコントローラ1個

ゲームの始め方

東部戦線1941のロード方法

1.コンピュータのカートリッジスロットから全てのプログラムカートリッジを抜いて下さい。
2.ジョイスティックコントローラを、コンピュータ前面にあるコントローラジャック1に差し込んで下さい。
3.カセットバージョンの東部戦線1941をお持ちの場合、次の指示に従って下さい。:
a.コンピュータの電源を切って下さい。
b.東部戦線1941のカセットをプログラムレコーダーのカセットホルダーにいれ、テープが完全に巻き戻るまでREWINDボタンを押して下さい。その後PLAYボタンを押してプログラムをロードして下さい。
c.STARTキーを長押しし、コンピュータの電源を入れて下さい。
d.ビープ音が鳴ったのならばSTARTボタンを離し、RETURNボタンを押して下さい。プログラムがコンピュータのメモリにロードされ、自動的にゲームが始まります。

ディスクバージョンの東部戦線1941をお持ちの場合、次の指示に従って下さい。:
a.コンピュータの電源を切って下さい。
b.BUSYライトの消灯を確認し、ディスクドライブドアを開け、ラベルを右手前下にして、東部戦線1941のディスクを挿入して下さい。
d.コンピュータとテレビの電源を入れて下さい。プログラムがコンピュータのメモリにロードされ、自動的にゲームが始まります。

プログラムが実行された後、モニター上の明るさ調節により、色を調整して下さい。

東部戦線1941のプレイ

お試しプレイ

 ゲームの仕様に慣れるため、お試しプレイを開始せよ。

マップの確認

 マップにはロシアの一部が表示されており、その中心にあるピンク色の四角形がカーソルである。 (テレビには個体差があるため、文中通りの色が表示されるとは限らない。) ジョイスティックのレバーを倒すと、カーソルが移動する。 カーソルが画面端まで到達すると、画面がスクロールし、新しいマップが表示される。 マップの端は白色の帯で表現される。

 地形を確認するため、地図上のカーソルをあちこち動かしてみる事。 いくつかの地形シンボルはすぐには表示されない。 沼は青色のv字形で表現される。 都市は小さな四角形の集合である。 山はオレンジ色の三角形である。 軍事ユニットは二つの色・二つの形で表現される。 四角形の中にX印が記載されているユニットは歩兵である。 四角形の中に四角形が記載されているユニットは戦車あるいは騎兵である。 赤いユニットはロシア軍で、白いユニットはドイツ軍かその同盟軍である。 ゲームで使用される地図の全図は、このマニュアルの最後にも掲載されている。

ユニットの確認

 どのユニットでも構わないので、カーソルを合わせて、赤色のジョイスティックボタンを押す事。 これによりユニットが消え、その下の地形を確認する事ができる。 同時に、ユニットを選択した事を示すために、カーソルが白色に変化する。 画面下部の暗いオレンジ色のテキストウィンドウに、選択したユニットの情報が表示される。 テキストウィンドウの上部にはユニットの部隊名が記載され、下部にはユニットの戦闘力が記載されている。

 戦闘力には二つの意味がある。 一つ目はMUSTER(最大戦闘力)で、ユニットが保有する最大の兵員・戦車・銃器を意味する。 2つ目はCOMBAT(現戦闘力)で、戦闘に投入可能な戦力を意味する。 戦闘の衝撃において、完全に作戦を遂行可能な軍事組織は存在しないため、これら二つの異なる値が存在する。 戦闘における混沌と危険は組織を混乱させ、持ち得る力が完全に発揮される事を妨げる。 物資の不足も似た効果を持つ。 ユニットの戦闘力は指揮官による軍事的ポテンシャルによって計算される。

 ユニットタイプ(歩兵(infantry)・民兵(militia)・戦車(armor)・戦車(panzer)・騎兵(cavaly))はプレイする上で重要である。 歩兵・民兵ユニット(四角形の中にX印が記載されて表現される)は 戦車・騎兵(四角形の中に小さい四角形が記載されて表現される)よりもゆっくりと移動する。 ユニットの戦闘力は各ユニットごとに計算され、人員・戦車・銃器の絶対数とは直接関連しない。 ユニットタイプは歴史的事実によってのみ決定されており、タイプそのものがゲームに影響する事はない。

命令を与える

 ドイツユニットにカーソルを合わせてボタンを押すと、黄色い十字架が現れる。 その十字架はマルタクロス(独:Maltakreuze、英:Maltese cross)であり、長年に渡るドイツ国のシンボルであった。 このゲームにおいて、マルタクロスは現在選択しているドイツユニットを意味する。

 ボタンを押しながらレバーを好きな方向(斜めは除く)へ倒すと、ビープ音が鳴り、 マルタクロスがジョイスティックの方向へ1ステップ移動する。 レバーを離すとビープ音は止まる。 これでユニットに命令を与える事ができた。 ユニットの位置に緑色の矢印が現れ、マルタクロスが移動する事により、ユニットの移動経路が表現される。

 他の方向や元の方向にレバーを倒し、そのレバーを離す事によって、さらなる移動命令を与える事が可能である。 移動命令を与える毎にマルタクロスはその方向へ1ステップ移動する。 各ユニットには最大8回の移動命令を与える事が可能だ。 それ以上の命令を与えようとするとブザーが鳴り、黄色いテキストウィンドウにエラーメッセージが表示される。 赤いジョイスティックボタンを離した場合、新しい移動命令を追加する前に、マルタクロスが表示されるまで待たなければならない。 もし移動命令を間違えたのならば、キーボードのスペースバーを押しながら赤いボタンを押すことにより、移動命令を取り消す事ができる。 マルタクロスがカーソル指定したユニットの位置まで戻り、再度移動命令を与える事ができる。

命令の実行

 近隣のいくつかのユニットに命令を与えてみる事。 それが終了したのならばSTARTボタンを押し、ユニットを観察せよ。 コンピュータがユニットに与えられた命令を実行するだろう。 ユニットは移動のルールに従って移動する。 もしユニットが敵の支配する場所への侵入を試みた場合、コンピュータは戦闘ルールに従って戦闘を解決する。 戦闘が発生した場合、コンピュータは銃撃音を発生させる。 移動中に多くの戦闘が発生した場合、その銃撃音はマシンガンのように聞こえるであろう。 またコンピュータは防御側ユニットの色を点滅させる。 これらにより、戦闘の経過を見たり聞いたりする事が可能である。

新しいターン

 移動終了後、コンピュータは3秒程度時間を取り、時間の経過に関連した様々な計算を実行する。 これにより画面上部の日付メッセージと季節表示が更新される。 またマップ上に援軍が現れたり、既存ユニットの戦力が変更されたりする。 この変更は補給と物資欠乏によるペナルティを意味する。 暗いオレンジ色のテキストウィンドウの左上部角には現在の得点が表示される。 最後に、コンピュータはこのターンに得られる増援を知らせる。 増援があれば、暗いオレンジ色のテキストウィンドウの右上にアスタリスクが表示される。 増援処理が終了すれば次のターンが開始され、プレイヤーの命令を受け付ける。 プレイヤーが大きな戦果を上げたのならば、ゲームは1942年3月29日まで続けられ、さらに得点を稼ぐことができる。

 これでお試しプレイは終了である。 実際に東部戦線1941をプレイする前に、マニュアルの続きを読む事。 マニュアルの続きにはゲームにおけるサブシステムについて記載されている。 ルールの各項目は歴史的背景の説明から始まっている。

移動

歴史的背景

 近代戦争において、移動は火力と同程度の重要性を持つ。 ナポレオンの「攻撃力は移動回数と等しい」という言葉は真実である。 またBlitzkrieg(独:電撃戦)におけるBlitz(電撃)とは攻撃ユニットの移動速度を意味している。 従って、指揮官は可能な限り迅速に兵を移動させる事を第一に考える。

 多くの要素が移動を難しくさせる。 第一に、多くの地形的要素が兵士を阻む。 開けた平原は高速移動に最適な地形であるが、沼・川・山・森はユニットの移動速度を減少させる。 第二に、天候が戦闘ユニットに重大な影響を与える。 第三に、同じ場所に数千の兵士が集合すると交通渋滞が発生する。 第四に、移動は順次行われる。これは移動が中断された時に、別の移動命令が与えられていても、うまく機能しない事を意味する。 指揮官はこれらの要素を考慮して命令を下さなければならない。

仕組み

 移動はリアルタイム動作のシミュレート過程によって中断される。 各ターンは32のサブターンに分割される。 移動命令を受けたユニットが直ちに移動するわけではない。 移動命令を受けたユニットは、実際に移動する前に、いくらかの遅延が発生する。 遅延の総量は移動先の地形・ユニットの種類・季節・他のユニットの存在に依存する。

 海を渡る時は最も大きな遅延が発生するため、いかなるユニットも海のスクウェアに入ることはできない。 沼はその次に大きな遅延を発生させる。 その次は川と海岸のスクウェアである。 次は森と山だ。 都市はわずかな遅延しか発生させず、平地の遅延は最小限である。 またユニットは海や湖の狭い場所のほとんどを抜けることができない。 このルールの例外は、アゾフ海と黒海の接続部に存在する、ケルチ海峡の横断である。 ケルチ海峡ではユニットの移動が可能である。

 泥土季を除けば、戦車ユニットは歩兵より早く移動する事ができる。 泥土季において、ロシア軍ユニットは自発的に移動する事ができない。 ロシア軍ユニットは通常の退却はできるが、攻撃や移動はできない。

ゾーン・オブ・コントロール

歴史的背景

 このゲームにおけるドイツ軍・ロシア軍といった通常ユニットは、3~4万人の人員で構成される。 もし戦場にいるユニットの上空を飛ぶ事ができても、5万人の人間が一箇所に集合する様子は見る事ができないであろう。 その代わり、多数の兵士が前線に集結し、その後方に少数の予備兵が待機している様子を見る事ができる。 ユニットの戦力は長い線のように伸びているのだ。

 これをウォーゲームのマップで表現するのは困難である。 正確に表現するには、びっしりと連なったユニットを沢山積み上げるしかない。 ただ、一人の人間が扱えるユニットの数には限度がある。 ウォーゲームデザイナーは、ゾーン・オブ・コントロールと呼ばれる手法を開発することによって、この問題を解決した。 ゾーン・オブ・コントロールはユニットの周囲に存在する支配地域を意味し、敵の動きを制限する。 これはユニットの周囲にフォースフィールドが存在すると想像しても良い。

ゾーン・オブ・コントロールは、周囲のスクウェアにユニットの支配力が広がっているという考えである。 ただし、その真意は常識的な範囲にユニットの数を制限する事にある。

仕組み

 ユニットは既に友軍ユニットが存在する地域に入ることができない。 もし友軍ユニットが存在する地域に入るよう命令を受けた場合、そのユニットはスクウェアが空くまで待つことになる。

 ユニットの移動は敵が作ったゾーン・オブ・コントロールの存在によって邪魔される。 下記の図のように、各ユニットはその周囲のスクウェアにゾーン・オブ・コントロールを発揮する。


 Zで記されたスクウェアがゾーン・オブ・コントロールである。 1/2で記されたスクウェアは、周囲に友軍ユニットが存在した場合のみ効力を発揮する、ゾーン・オブ・コントロールである。 ユニットは敵のゾーン・オブ・コントロールにのみ影響を受け、味方のゾーン・オブ・コントロールには影響を受けない。
+-----+-----+-----+
| 1/2 |  Z  | 1/2 |
+-----+-----+-----+
|  Z  |  U  |  Z  |
+-----+-----+-----+
| 1/2 |  Z  | 1/2 |
+-----+-----+-----+

 ある敵が支配しているスクウェアから他の敵が支配しているスクウェアに移動することはできない。 (例外:戦闘の項目を参照せよ) ユニットは敵が支配しているスクウェアに入ったり出たりする事ができるが、 ある敵が支配しているスクウェアから他の敵が支配しているスクウェアへ直接移動する事はできない。 例えば、下記の図左側のような移動は可能であるが、右側のような移動は不可能である。

  □       □
□→→→→  □→→→→
          □
  □
図2 敵が支配しているスクウェアへの移動

戦闘

歴史的背景

 東部戦線1941おける戦闘は、通常三つの可能性によって解決される。 一つ目の可能性は、数千人が死亡する激しい戦闘が発生せず、相手が逃げ出すほど十分な損害を与えていないという可能性である。 これはロシア軍の攻撃において頻繁に発生する。 二つ目の可能性は、ドイツ軍の攻撃がロシア軍を貫通し、突破する可能性である。 ドイツ軍におけるこの分野の戦略スキルは、ロシア軍と比較して進んでいた。 戦闘おける第三の可能性は頻繁に起こりえない。 その第三の可能性とは、圧倒的な戦力と共にロシア軍が攻撃し、ドイツ軍が崩壊する可能性である。 戦闘における全ての可能性において、ドイツ軍はロシア軍よりも団結して戦う。 ロシア軍の反撃に遭遇し、崩壊が予想される不利な状況下にあっても、ドイツ軍は踏みとどまる。 これは初期のドイツ陸軍を成功させた重要な要素である。

仕組み

 敵が存在するスクウェアへ侵入を試みると、戦闘が発生する。 この侵入は連続する小規模戦闘を引き起こす。 小規模戦闘において、各ユニットは相手ユニットへ損害を与える事を試みる。 ユニットがどの程度損害を与える事ができるかは相手の戦力と比例する。 損害を与える可能性には地形も影響する。 森・山・都市を防衛するユニットは防御力にボーナスが与えられる。 川が存在するスクウェアから攻撃するユニットはペナルティが与えられる。 損害を与える可能性は防御側における移動の影響も受ける。 静止している防御側の軍隊は、移動中よりも効率的に戦うことができる。 もし攻撃の試みが成功したのならば、防御側のMUSTER(最大戦闘力)は1減少し、COMBAT(現戦闘力)は5減少する。 攻撃・防御双方のユニットは、ターンの終わりか一方が破壊されるまで、戦闘を継続する。 ユニットはCOMBAT(現戦闘力)がしきい値を下回った時に破壊される。 ドイツ軍ユニットのしきい値はMUSTER(最大戦闘力)の1/2である。 その他のユニットのしきい値はMUSTER(最大戦闘力)の3/4である。 したがって、ドイツ軍ユニットは他のユニットよりも長く抵抗する事が可能である。

 攻撃側が破壊された時は、単純に攻撃が終了する。 防御側が破壊された時、防御側は撤退する。 撤退時は、敵味方関係なく他のユニットが存在している場所に入る事はできない。 加えて、敵のゾーン・オブ・コントロールに入る事もできない。 撤退するユニットは、攻撃ユニットから単純に離れる事を最初に試みる。 もしその経路が防がれている場合、横へ移動する。 経路が防がれている場合に移動すると、毎回COMBAT(現戦闘力)を5消費する。 防御側が撤退した場合、攻撃側は防御側がいたスクウェアへ直ちに前進する。 この前進は敵のゾーン・オブ・コントロール内であっても、発生する。 COMBAT(現戦闘力)が0になったユニットは破壊され、マップ上から永遠に取り除かれる。

 ユニットは自動的に再編成され、COMBAT(現戦闘力)が回復する。 COMBAT(現戦闘力)を使い果たさない限り、最終的にユニットはMUSTER(最大戦闘力)まで回復する。 回復力はユニットのMUSTER(最大戦闘力)に依存する。 大きなMUSTER(最大戦闘力)のユニットは、小さなMUSTER(最大戦闘力)のユニットよりも早く回復する。

 フィンランド軍は攻撃できず、通常防御のみである。

 これらのルールは、野蛮な側面を超越した、戦争の組織化された側面を強調している。 正面からの単純な突撃の場合、決定的な結果を得られず、双方の損害も少ない。 しかしながら、一つの敵ユニットに力を集中させる事により、1ターンでしきい値を超えさせる事ができる。 単純な火力による攻撃の損害よりもはるかに大きくしきい値を超えた場合、大きな損害となる。 さらにユニットが包囲されているか撤退できない場合、正面からの攻撃よりもはるかに少ない手間で全滅する。 この効果は機動作戦(包囲)と集中攻撃(ユニットの破壊)で用いられる。

補給

歴史的背景

 近代戦争の遂行は、兵士に対していかに大量の物資を供給するかという点に依存する。 軍隊によって消費される物資の量は、信じられないほど多い。 この時代における一般的なドイツ軍は各日150トンの物資を必要とした。 物資には弾丸・食料・燃料・衣類・武器の部品・医薬品が含まれる。 中でも、弾薬が通常その大部分を占める。 大砲は数分で大量の弾薬を撃ち尽くす。 同じ時間で、マシンガンは50ポンド(約22kg)の弾を発射する。 近代的軍隊の効果的な戦闘において、補給は必須なのだ。

仕組み

 マップ端への補給線を伝うことにより、各ユニットに対して補給は自動的に実施される。(例外:季節の項を参照せよ) ロシアの補給源はマップ東端であり、ドイツの補給源はマップ西端である。 補給線はユニットを起点としてマップ端まで真っすぐに続く。 大海を除いて、補給線は地形の影響を受けない。 補給線は敵のユニットや敵のゾーン・オブ・コントロールによって遮断される。 しかしながら、補給線の決定において、敵のゾーン・オブ・コントロールは味方ユニットの存在によって無効になる。 補給線は直線でなくとも良く、遮断要素を迂回する事ができる。 ただ、ジグザグになったり繰り返し迂回する事はできない。 ユニットの補給線が敵ユニットの背後によって脅かされた時、補給量が減少する場合もある。 したがって、複雑な状況下において、ユニットが補給を受け取ることができるかは定かではない。 ロシア軍ユニットは海を超えて補給線を伸ばす事は不可能だが、ドイツ軍ユニットは可能である。 一方、ロシアの補給線はドイツの補給線よりもより複雑に伸ばす事が可能だ。

 各ターンの最初に補給線の評価と補給が実施される。 この処理には約3秒間の時間が必要であり、その間ユニットに命令を下す事はできない。 ロシアのユニットは補給によりMUSTER(最大戦闘力)が増加する。 ドイツのユニットといくつかのロシアのユニットは補給が切れても削除されず、COMBAT(現戦闘力)が半分になる。 もし補給切れのユニットが数ターン残っていた場合、補給切れの累積的な結果により弱体化するが、削除されるには至らない。

季節

 季節の変化によって戦争の形態は劇的に変化した。 夏の乾季において、ドイツ軍は補給における全ての機動的優位性と、ロシアを撃退するための柔軟性を発揮する事が可能である。 10月に泥土季が到来すると、ドイツ軍の車両は泥に埋まり、大地に釘付けになる。 その後冬が始まると、ドイツ軍は再び息を吹き返す。 ただし、ドイツ軍の攻勢は気温の低下と共にすぐに消失する。 兵士は凍てつき、装備は故障するのだ。

仕組み

 ロシアの天候による効果をシミュレートするために、季節による効果が加えられている。 季節は三種類存在し、それらは地面の色によって表現される。 夏季は茶色の地面によって表現される。 泥土季は灰色の地面によって表現される。 泥土季の間、全ての移動と戦闘は這うように遅くなり、全てのドイツ軍ユニットは補給を失う。 したがって、泥土季は戦闘が多く発生しない。 これは両陣営に対して一息つける時間を与える。 ただし、時間の経過はロシアに有利に働き、ドイツには不利に働く。 冬季は白色の地面によって表現される。 冬季における車両は泥土季よりも順調に作動するが、夏季ほどではない。 ただ、補給線が確立していても、ドイツ軍は補給を失う。 これは補給状況だけではなく、冬季におけるドイツ軍は戦闘能力が低下する事を意味している。 補給は届くのだが、エンジンは凍り付き、銃は弾づまりを起こし、人員は凍傷になる。 戦闘力に関する影響も、補給の減少とおおよそ同じである。 はるか東に位置するドイツ軍ユニットが補給を受け取ることができるチャンスは、わずかしかない。

ゲームの終了

 ゲームは1942年3月29日までの42ターン継続する。 このターンにおける得点(左上隅のオレンジ色テキストウィンドウに表示されている)がプレイヤーの最終得点である。 勝利得点は、可能な限り東へ突出したMUSTER(最大戦闘力)の量によって加算される。 また勝利得点は西へ押し込んだロシア軍のCOMBAT(現戦闘力)によって減少する。 したがって、可能な限り多くのロシア軍のCOMBAT(現戦闘力)を破壊しながら可能な限り東へドイツ軍のMUSTER(最大戦闘力) を突出させた時に、最大勝利得点を得る事ができる。 さらに、モスクワの占領と維持により20ポイントを得る事ができ、レニングラード・スターリングラード・セバストポリの 占領と維持で各10ポイントを得る事ができる。

 取得可能最高得点は255点である。 この得点の取得は難しくないが、ゲーム終了時まで維持する事は難しい。 ゲームは繰り返しテストプレイされたが、この得点を達成した者はいなかった。 我々自身の経験としては、200で優秀、100から200でとても良い、50から100で良い、50以下であまり良くない、となる。 一般的な得点は0点である。 これはとても難しいゲームなのだ。

ハンディキャップ

 東部戦線1941はビギナー向けの機能を用意している。 OPTIONキーを押すことにより、ドイツ軍のMUSTER(最大戦闘力)がいつでも50%増加する。 この機能はゲーム開始時すぐに使用すると効果的であり、ロシア軍に対する大きなアドバンテージとなる。 しかしながら、この機能にはペナルティが存在する。 この機能を使用すると、得点が半分になるのだ。 それゆえ、ロシア軍がモスクワの守備を十分に固める前に使用する事。 この機能を使用すると、消印代わりとして、テキストウィンドウの色が暗いオレンジから黄褐色に変化する。 この機能はゲーム中一度しか使用できない。

ゲームの再開

 このゲームにはセーブしたりロードする機能がない。 ただし、このゲームは2~3時間あれば終了する。

コンピュータの思考

 コンピュータはプレイヤーが考えている間にユニットの移動を計画する。 コンピュータはユニットの移動を一個一個熟考し、一つずつ移動させる。 最初の移動計画はあまり賢くないが、プレイヤーが移動させている時間に、移動計画は向上していく。 コンピュータに考える時間を与えない目的で、自分の移動を急いではならない。 コンピュータは1.79MHzで作動しているため、時間の競争で勝ち目はない。

戦略上のヒント

 このゲームにおける基本的な流れは、歴史的な出来事の順序によく似ている。 最初にドイツがロシアを蹴散らすが、その後ロシアの新しい軍隊が大地をうめつくす。 ドイツ軍は長い遠征によって激減し、モスクワを前にして崩壊が始まる。 モスクワに手が届いた時は泥土季にあたり、占領する事はできなかった。 冬が始まるとドイツ軍は攻勢を中断して回復に務めたが、決定的な結果を得るには至らない。 ドイツ軍の急激な弱体化にロシア軍の急激な増強が重なり、ドイツ軍は必然的に撤退を始めた。 ゲームはこれらの出来事を公平に再現する。

 機動と戦力の集中に関する戦略が必要だ。 戦車ユニットはロシア軍の前線における弱点へ集中する事。 前線が一度分断されれば、その穴に対して、戦車ユニットは躊躇なく投入されなければならない。 その後ロシア軍の背後へと貫通し、退却するロシア軍を包囲する事。 包囲する事により、やがてロシア軍の補給は尽きる。 ロシア軍は包囲している戦車軍を激しく攻撃し、罠からの脱出を試みるであろう。 この場合、ドイツ軍歩兵の速度が決定的な要素となる。 ロシア軍がドイツの戦車軍を破壊する前に、ドイツ軍歩兵は戦場へたどり着けるであろうか?

 もし自軍を大胆かつ巧みに扱うことができるのならば、戦いに勝利するであろう。 歩兵軍が戦車軍から離れすぎたり、破壊されないよう注意せよ。 夏季に戦車軍を失うような余裕はない。 一度に六個以上のロシア軍を攻撃しない事。 ロシア軍は大量に存在しており、減らす事は難しい。

 自軍ユニットにおける攻撃経路を慎重に計画せよ。 計画が十分でない場合、交通渋滞を引き起こす。 交通渋滞を整理している時間はない。 ユニットの移動に関して、優先順位を確立する事。 機動力はロシア軍に対する大きなアドバンテージである。 軍隊は常に移動させておく事。 沼にはまっている時に正面攻撃を仕掛けない事。 弱点を探し、そこへ戦力を集中させる事。 前線を突破した時、撤退するロシア軍を足止めするために、前線に空いた穴の両端にユニットを配置する事。 これにより、戦車ユニットの前進に対する干渉を防ぐ事ができる。

 前線に取り残されたロシア軍ユニットを掃討するために、価値あるユニットを無駄に使用しない事。 穴の両端に配置したユニットで十分である。

 ロシア軍による冬季の反転攻勢は脅威である。 ロシア軍は圧倒的に強力で、止められないように見える。 ただし、的確な指揮によってロシア軍の攻勢を遅らせ、被害を最小限に抑える事はできる。 占領地にしがみついて死守せず、必要な土地は明け渡す事。 戦車は機動力に余裕を持たせておくように。 ロシア軍の補給線を切り、弱体化させた上で叩く事。 この機動防御には高度な技術を必要とするが、ロシア軍の攻勢を遅延させる大きな効果がある。 冬季にスコアが減少しても気にしない事。 これは、ロシア軍による冬季の反転攻勢を受けての、通常の結果である。

 より東に位置するドイツ軍ユニットは、冬季に補給が減少する。 より多くの補給を得るために、冬季は引き返す事を計画した方が良い。 引き返せば多くの補給を得る事が可能となり、回復できる。

 このゲームは複雑であると、最後にコメントする。 最初のプレイにおいて、プレイヤーは叩きのめされるであろう。 だが、落ち込む必要はない。 これによりプレイヤーは技術を学ぶのである。 アーケードゲームとは異なり、プレイヤーの集中した時間投資と知的努力を、このゲームは必要とする。 こういった努力は必ず報われるであろう。

デザイナーズノート

 テストプレイ中に、ゲームデザインに対する不平がいくつか発生した。 最初の不平は、補給ルールが誤っているというものだ。 補給に関するランダム要素が、幾人かのプレイヤーを苛立たせた。 東部戦線1941における補給は確実ではない。 補給物資は時に素通りし、時に届かない。 この現象は二つの状況により起こり得る。 その状況とはねじれた補給路と冬季における補給である。

 他の不平は、交通渋滞に関する苛立ちである。 二つのユニットが挟撃している時に、この不平は特に発生する。 挟撃されたユニットは破壊されるだろうが、その時、挟撃していた二つのユニットはお互いに衝突する。 これは経路における移動を妨げ、進行不能にしてしまう。 熟考した後、この交通渋滞を取り除く事に決めた。 東部戦線1941の戦闘において、交通渋滞は頻繁に発生していた。 ただ、慎重な計画によってこの問題の影響を最小限に留める事ができる。 例えば前後からロシア軍ユニットを挟み撃ちしていた場合、図のように命令すれば良い。
     +----->独A
     |
独A----->露<----独B
      |
      +---->独B
図3 挟撃ユニットの通り道

 最も明らかなゲームの傷としてグラフィックス要素が指摘されたが、私はゲームの長所であると言い換えたい。 それらは最低限信頼し得るゲームの一側面である。 ATARIコンピュータにおけるグラフィックスデザインは暴れ馬に乗るようなものであり、手綱を緩めると振り落とされる。 このゲームはハードにおけるグラフィックス性能の全てを出し切っていない。 二人同時プレイ・飛行物体の全て・プレイヤーや戦場の優先度・戦闘発生の検知・4色のキャラクターセット・ 不正リアルタイムカラーレジスタ・動的表示リストを、このゲームでは使用していない。 それゆえ、ハード性能の75%しか用いていない。 このコンピュータにはマシン語のマスターが必要である。

 このゲームにおける入力/出力構造には誇りを持っている。 ジョイスティック・グラフィックス・サウンドはゲームシステムに自然に統合されている。 この整理には一ヶ月近くを費やし、実装にはさらに一ヶ月を費やした。 ジョイスティックだけでプレイ可能なゲームデザインを求めたのだ。

 最後に、ゲーム中に使用しなければならない三つのボタン(START、OPTION、スペースバー)に関して、失敗したと考えている。 これらは痛みを伴う譲歩であった。 キー入力なしでは実装できないと判断した他の機能は、削除された。 デザインを優先させるために、奇妙な人間工学を捨てたのだ。

 私が最も誇りとしている機能は、ゲームで使用している人工知能である。 もっとも、それを人工知能と呼ぶには図々しいかもしれない。 なぜならコンピュータは誤りから学習せず、プレイヤーの移動による直接的反応から戦略を調整しないからだ。 しかしながら、 自分の位置の分析・危険とチャンスの認識・状況に応じた反応・予防できなかった場合における交通渋滞の回避を、 この人工知能は可能である。 また地形効果を考慮しての戦闘や移動計画も可能だ。 コンピュータはプレイヤーがユニットを移動させている間に思考する。 これはマルチタスクと呼ばれる、二つの処理が並列で実行されるテクニックにより達成された。 このテクニックの実装は困難であったが、効果は良好であった。 他の気が利いた知的アルゴリズムは、近似値の積算だ。 コンピュータは最初移動を雑に計算し、その後少し改良して計算し、さらに少し改良し、プレイヤーがSTARTキーを押すまで改良を続ける。 この手法によってコンピュータは常に移動完了状態となっており、時間があればそれをさらに改良して、 プレイヤーが待たされる事がなくなったのである。

 販売されたこの東部戦線1941におけるプログラムのバージョンは317である。 完成までに八ヶ月の時間を要した。 当ゲームの完成を喜ばしく思う。(もちろん、妻に対しても。)




東部戦線1941

byクリス・クロフォード

中学生以上に推奨。マシン語使用。

 エディッターズノート: クリス・クロフォードの東部戦線1941は、 ホームコンピュータ部門におけるベスト・アドベンチャーゲーム賞である、チャーリーズ・ロバート賞を1981年に受賞した。 また優秀なプログラミングに贈られるクリエイティブ・コンピューティングス賞も同年に受賞している。

 第二次世界大戦において、ドイツ軍がロシアに侵攻した。 この作戦はバルバロッサ作戦と呼ばれ、4年の月日を要し、2,000万近くの命を奪った。 実在のドイツ軍司令官を超越し、より良き結末を迎える事ができるだろうか? ロシア軍による反撃が始まる冬を迎える前に、ドイツ軍を指揮してより有利な土地を確保できるだろうか?

 東部戦線1941はとても複雑な一人用ウォーゲームである。 東部戦線1941は地形効果・季節・軍事ユニットの種類を含めた軍事作戦の状況を再現し、かつ、これらの要素を調整する。 ゲームは実際に発生したイベントの時系列にほぼ沿って進行する。 当初侵入したドイツ軍がロシア軍を各所で蹴散らすが、ロシア軍は新しい軍隊を投入し、ドイツ軍は長期に及んだ戦闘で疲弊する。 モスクワを前にして進撃速度が落ち、モスクワに手がかかった時には泥土期となって、市街を占領できなかった。 ドイツ軍は冬季に攻勢を再開したが、決定的な結果を得るには至らない。 ドイツ軍の急激な弱体化にロシア軍の急激な増強が重なり、ドイツ軍は必然的に撤退を始めた。 プレイヤーの目的は、ドイツ軍と物理的に同じ状況において、可能ならばこの歴史を変更する事にある。

クリス・クロフォード

著者紹介

 カリフォルニア州フレモント在住のクリス・クロフォードは、ATARIホームコンピュータの偉大なファンであり、 最も想像力あふれるプログラマーである。 特にグラフィックスのポテンシャルにおいて、東部戦線1941と他のゲームの開発により、 クリスはATARIホームコンピュータの可能性を開拓した。 クリスは、アーケードゲームがターゲットとする若年ではなく、大人向けのゲームをデザインする事を得意としている。 高校で物理学教師を務めていたクリスはプログラミングを独学で学び、現在はATARIの開発チーム兼ゲームリサーチスーパーバイザーである。 クリスはソフトウェアも書くが、書籍も書く。 De Re ATARIはクリスの著作である。(この著作はAPXを通じて購入可能だ。) De Re ATARIとはATARIコンピュータの本質と概念に関するプログラマー向け指南書である。 クリスは俳優の一人ともいえる。 クリスはミスター・チップ(Mr.Chip)と共に多くのATARIセミナー参加者をもてなし、 コンピュータにおけるチップの相違と内部動作について説明した。 この卓越した才能より生み出される、知的シミュレーションゲームに刮目せよ。

 東部戦線1941における各ターンは、歴史上における一週間を表現している。 ユニットのMUSTER(最大戦闘力)とCOMBAT(現戦闘力)に注目し、慎重に移動を計画せよ。 歴史通りに、軍隊を可能な限り東へと送れ。 コンピュータは全力でロシア軍を指揮するため、勝利に戦略は不可欠である。 またプレイヤーが移動に時間を取れば、その時間を使って、コンピュータは自分自身の戦略を改善させる。 (ただし、初心者ウォーゲームプレイヤー向けにハンディキャップ機能も搭載している。) プレイヤーの思考と同時にコンピュータも思考しているのである。 その思考にはユニットの移動・戦闘・地形効果・ユニットの種類・季節・他のユニットの存在、に関する思考も含まれる。 その後、時間の経過・日付の更新・季節の切り替えに伴うマップの再調整・援軍・ユニットの削除・補給・ 補給物資の欠乏に伴うペナルティ、に関連付けられた様々な計算を実施する。 各週の終わりにおいて、コンピュータはプレイヤーのパフォーマンスを評価し、得点をつける。

 難解な人工知能ルーチンの使用は、東部戦線1941を挑戦的なウォーゲームに成し得ている。 東部戦線1941もまたATARIホームコンピュータにおける特別な技術を用いている。 これにより、東部戦線1941は他の追随を許さない素晴らしいウォーゲームとなっている。

レビューコメント

東部戦線1941は今まで見た中で最高のウォーゲームである。
特にグラフィックスは信じられないぐらい素晴らしい。

東部戦線1941は伝統的なウォーゲームスタイルから脱却している。
多くの人々がこのゲームによってウォーゲームに目覚めた。

ゲームは2~3時間で終了するため、セーブや長期戦の準備をする必要はない。

とても良くできたユーザーマニュアルである。


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