つれづれに・京都あれこれ (2014年発表分)

【北原白秋 「桐の花」より】

朝の雪に林檎の詩(2014年12月)

   「君かへす朝の舗石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ」(雪)

 林檎を食べると思いだす。かしかしとナイフを動かす、皺だらけの手。がぶりとかぶりつくのを見守る、二重瞼の目。ふふふっと流行歌のフレーズを、繰り返し唄う声。しゃくっと出る汁は甘酸っぱく、手に残ってほのかに匂う。さくさくと歯にしみる実は、おなかの中にしっとりと納まる。形は舟がいい。手にしっかり馴染んで、口の中にすっぽり入る。皿に盛るよりも、大切そうに手で渡してくれるのがいい。食べている横で、寄り添ってくれる人。信じていられる、体温を感じる人。そう、今はもういない人。林檎を食べると思いだす。

 12月は伝統。鹿ヶ谷の泉屋博古館では、京の名物を屏風で楽しむ展示会が開催中。四季草花図、柳橋柴舟図、扇面散図など、なるほどこれこそ「おもしろの花の都や」。ガイド役は、寛永3年の後水尾天皇の二条城行幸を描いた、二条城行幸図屏風。これを、高性能スキャナーによる拡大画像で見てみましょう。7日までです。
 鷹峯は太閤山荘にある、古田織部美術館。14日まで、「古田織部と京・堺の茶人たち」と題した展示会が開催中です。独自の伝統文化を持つ堺から、針屋釜で有名な針屋家や、津田家(天王寺屋)ゆかりの品が50点展示。ノ貫の竹茶杓、宗珠の書状、針屋宗実の画像などとともに、三好長慶の短冊「夕顔」が特別展示されています。
 伝統の京料理。毎年恒例の京料理展示大会が、13日から2日間開催されます。たん熊、美山荘などの一流料亭による京料理教室、狩衣姿で魚に手で触れずに料理する生間流式庖丁など、しっかり押さえておきたいです。マグロの解体と即売、舞妓はんの京舞、だし巻き作りコンテストなど、これは楽しそうです。会場は、みやこめっせです。
 甲斐の名刹、恵林寺の伝統ある至宝をあなたは見たか。13日までに、花園大の歴史博物館に行って、見てみよう。鎌倉時代に創建され、戦国期と明治期に主要伽藍が消失する災禍を乗り越え、価値ある文化財を守ってきました。夢窓疎石像、快川紹喜像とその自賛、渡唐天神図、羅漢図、武田信玄の書状などなど。おお、心頭を滅却すれば火も自ら涼し。
 伝統なら、東山の霊山歴史館。別名、幕末維新ミュージアム。26日まで、秋・冬の特別展が開催中。「日本を変えた男たち」と題して、鎖帷子の小片、血染めの小旗、兜、軍扇、書状などの維新資料、約100点が公開中。大画面3Dで見る禁門の変は、初公開です。ここまで来たら、霊山護国神社にある志士たちの墓も訪ねてみましょう。
夜の匂いに白い露(2014年11月)

   「にほやかに君がよき夜ぞふりそそぐ白き露台の矢ぐるまの花」(白き露台)

 庭にしまい忘れたテーブルに、露が降りている。知らない間の夜のドラマ。雲が流れ、星が輝き、月が傾いていた。ゆりのきの上にはキジバト、サフランの陰にはクツワムシ。犬小屋は閉まっている、裏木戸のかんぬきは下りている。じゃあ、だれが。テーブルに残った、かすかなにおい。人じゃない、獣じゃない、草花でもない。ああ、これは風。まくった腕をさわり、かわいた頬をなで、丸めた背中をくすぐる。昨日よりもつめたく、先週よりもさりげなく、風が空気を集めている。11月の風が、詩人の庭にふりそそいでいる。

 11月は歩く月。詩人の大好きな、京都一周トレイル。その東山コースに、新しく伏見・深草ルートが加わりました。御香宮神社を出て、明治天皇陵、伏見桃山城、伏見北掘公園、大岩山展望所、大岩神社を経て、伏見稲荷大社の奥社に向かう、約9.5km。歩きやすい道です。15日には、記念イベントあり。御香宮さんに集合しましょう。
 その東山コースを歩いていると通るのが、みてら泉桶寺。15日から24日は、「泉山七福花めぐり」のイベントがあります。「華道 月輪未生流」を堪能する、スタンプラリーです。悟りの窓で有名な大黒さんの雲龍院、布袋さんの来迎院、もみじがきれいな今熊野観音寺、毘沙門天の悲田院、弁天さんの戒光寺など。スタンプを集めて、記念品をもらおう。
 逍遥、それは気ままにあちこち歩き回ること。では、「花逍遥」とは? そうです、池坊による全国華道展のこと。全国約1600名の華道家たちが、いけばな作品を展示します。高島屋では12日から6日間、烏丸六角の池坊では14日から4日間。高校生による花の甲子園全国大会、旧七夕会による花行列も楽しいですよ。
 紫式部が源氏物語を執筆した、邸宅址を歩いてみるのはいかが。10世紀に船岡山南麓に創建され、出雲路を経て現在地に移って来た、廬山寺です。この地で、紫式部がほとんどの作品を書いたことから、世界文学発祥の地ともいわれています。皇室と縁が深い廬山寺、秋季特別展では光格天皇の御尊牌、逢春門院像などが見られます。16日まで。
 国宝の鳥獣戯画を見るのに、高山寺まで歩くのは大変ですが、国立博物館まで歩くのは簡単です。平成知新館がオープンした国立博物館では、24日まで「国宝鳥獣戯画と高山寺」展が開催中。なんと、保存修理後初の、全巻一挙公開です。また、明恵上人の樹上座禅像や、神鹿木像も公開されます。さあ、館内を思いっきり歩きましょう。
硝子の光と人の恋(2014年10月)

   「日の光金糸雀のごとく顫ふとき硝子に凭れば人のこひしき」(秋)

 秋が硝子越しにとおりすぎる。晴れた昼前、遅い朝食をすませる。椅子に座りチェロを弾く。ト長調のアルペジオが部屋を満たす。玄関の戸を開けて、誰かが来た。置かれた贈り物。花梨、山ブドウ、どんぐり。その横の、ヤマゴボウで書かれたひらがなの手紙。 「しゅうかくさいへようこそ。ほんじつ6じからです。」 白いシャツに着替え、蝶ネクタイを締める。硝子の向こうの澄んだ空。ひこうき雲が曲の続きを書いている。

 10月は謎。音楽の謎は、人を癒すこと。京都文化祭典恒例の円山コンサートで、癒されましょう。11日は、「京の旅人」でフォーク。谷村新司、イルカ、尾崎亜美らが楽しみ。茶木みやこも健在です。12日は、「カントリードリーム」でカントリー。お馴染、永富研二とテネシーファイブにチャーリー・マッコイが堅実。
 地球が作った鉱物の結晶、太古の生物の化石、宇宙からやって来た隕石など、石は謎がいっぱい。世界中の石が集まる、「石ふしぎ大発見展」に行こう。特別展示は、関西で注目の地学スポット。あなたの身近に、謎の石があるかも。サヌカイトの演奏、古代ゾウのお話、お宝無料鑑定会も楽しみ。11日からの3日間、みやこめっせです。
 京都を縦に縦断する運河、高瀬川と京都の水運には、謎があります。高瀬川開削400年記念の展覧会、「高瀬川と京都の水運」で、謎を解いてみよう。国宝・摂津国垂水荘差図などの絵図、宇治川帆船などの写真、古典籍や古文書などの資料がいっぱいです。府立総合資料館で、12日まで。
 こころの謎を研究するのが、心理学。ノートルダム女子大の公開講座で、心理学を勉強しよう。基調講演は、群馬大名誉教授・下田先生による「液晶画面に吸いこまれる子どもたち」。パネルディスカッションは、「スマホ時代の若者像」。ネット依存や違法サイト利用などの、最新の問題を取り上げます。18日です。
 疑惑は謎か。女たちのバトルの結末で、残った謎とは。松本清張の「疑惑」が初舞台化されて、南座で上演中。前科4犯の悪女に浅野ゆう子、すご腕の女弁護士に高橋惠子。「どうせあたしがやったと思ってるんでしょ。」、「あんたなんかの弁護したくなかったのよ」。おおこわ、でも観てみたい。決して、ネタばれはしないでください。26日まで。
秋の庭に鶏頭と刃(2014年9月)

   「ひいやりと剃刀ひとつ落ちてあり鶏頭の花黄なる庭さき」(清元)

 今朝、私は庭でかみそりを拾った。球根を植える時に、土の中から出て、私の指を裂く。白く開いた傷口、そこから出る赤い血。痛みはなく、私は指先を見る。昨日、私は家でかみそりを握りしめていた。斜めに構えた刃は、誰かを傷つけるでもなく、冷たく光っていた。頬にあてたときの鋭さ、皮膚に沈んでいく重み。私は頬を触る。明日、私は湖でかみそりを捨てた。真新しい懐紙に包み、水面に押しやったとき、流れながら見せる殺意。縦に切り開かれる目、そこにある忘れていた真実。私は靴を脱ぎ、空を仰いだ。

 9月は愛でる月。まずは、名月を愛でよう。大覚寺では、6日から3日間、観月の夕べです。特設舞台で満月法会、大沢池でお舟遊びと、秋の夜長を過ごしましょう。8日は、府立植物園でムーンライトステージ。杉真理と村田和人のライブ、まゆまろとくまモンのコラボとは、楽しそう。ツキミソウ、ヨルガオなど、夜に咲く花の特別展示もあります。
 太閤はんが愛でたのは、浪花の夢か、京の夢か。13日から3日間は、東山界隈で太閤まつり。豊国神社を中心に、泉涌寺、東福寺、智積院、方広寺、法住寺、養源院と、太閤はんゆかりの寺を訪ねてみましょう。国立博物館の平成知新館オープン記念で、豊国神社のお茶席、お寺二か所の拝観、博物館入場のセットが、なんと1500円です。
 西陣織の中心地、千両ヶ辻をご存知ですか。江戸時代に、立ち並ぶ糸問屋や織物商が千両の商品を売買したという、今出川大宮界隈のことです。当時の活気を再現しようと、町内会が「伝統文化祭西陣千両ヶ辻」を開催します。老舗や町屋のコレクション公開、西陣織の展示・販売、講演会開催と、これはもう行くしかない。晴明神社の祭礼巡行も、併せてどうぞ。23日の秋分の日、西陣織を愛でよう。
 ベニシア・スタンリー・スミスさんの、四季を愛でる心とは? 大原の古民家でハーブガーデンを作りながら暮らす、イギリス人の彼女のお話を聞いてみましょう。京都の素晴らしさ、自然の大切さなど、四季の美しさは尽きるところがありません。映画「ベニシアさんの四季の庭」の上映、和ばらのブースもあり。19日の国際会館です。
 京都岡崎ハレ舞台で、マンガを愛でよう。神宮道にレッドカーペットの大空間を作り、多彩なパフォーマンスを展開するレッドカーペット2014。参加型のプロジェクション・マッピングで大興奮の、あかりとアートのプロムナード。そうして、みやこめっせのマンガ・アニメフェア2014。マンガ業界からの出展、誰でも参加できるオープンステージ、アニメのコラボフードなど、こりゃ行きますよ。20日と21日です。
夏の光に青空と傷(2014年8月)

   「指さきのあるかなきかの青き傷それにも夏は染みて光りぬ」(公園のひととき)

 残酷な太陽が姿を消した。街はまだほてっている。うすぼんやりした夕暮れに、影が立ち上がる。ゆらゆらと、ゆよよーんと、ゆるゆると。揺れながら歩き始める影。うつむいて、声を出さず、ふらふらと。どこへ行くの、何を見ているの、どうして出てきたの。ぼくは1日立っていた。手のひらを上に向けて、目を開けて、息を吐いて。誰も見ない、誰も語らない、誰も立ち止まらない。その空白、その隙間、その喪失。ぼくの1日の終わり。手のひらを戻す。指先にある小さな傷。痛みはなく1日が静かに染みてくる。影は歩く。夜が広がる。ぼくのため息が空に消える。

 8月は酔い。京都の七夕は8月? そう、2日から11日までの、「京の七夕」イベントです。堀川会場は、メッセージが書かれた大型行灯、LEDで再現する天の川、水面に浮かぶ友禅流しなど。鴨川会場は、西陣織の七夕飾り、竹かごに風鈴を入れた光のオブジェなど。光と闇のコントラストに、酔いしれましょう。和装で行くと、特典あり。
 京の七夕の、関連イベント。京都に酔う、期間限定のスペシャルイベントとか。そう、先斗町歌舞練場の舞妓茶屋です。舞妓はんの踊りが観賞でき、一緒に記念撮影もできる。もちろん生ビールもあり、甘党の人にはあんみつとアイスグリーンティーもあり。これはもう、行きますよ。2日から11日まで。
 先斗町を逃した方は、上七軒歌舞練場のビアガーデンで酔えますよ。ここのお茶屋の定紋は、御手洗団子。その由来は、北野の大茶会で献上した団子を、太閤はんがたいそう気に入ったからとか。春は北野をどり、秋は寿会、夏はビアガーデンで、上七軒を満喫しよう。浴衣姿の、舞妓はんや芸妓はんが楽しみどす。9月5日まで。
 青は人を酔わせる。岩倉の実相院では、31日まで「星図屏風」が展示されます。幕末にもたらされた、その醒めるような青色。同時に、初めての写真展「実相院ブルー」が開催。床もみじの緑、紅葉の紅、そうして夏の青。書院奥の庭池にいる、モリアオガエルが迎えてくれます。その、ころころした涼しい声よ。
 美しい絵画は、人を酔わせる。市内に帰ってきて、広大なキャンパスを建設中の同志社。そのキャンパスがカンバスに広がるとか。ハリス理化学同志社ギャラリーの第4回企画展で、大学とその周辺が描かれた、絵画を見てみましょう。重要文化財である、久良留久神学館建築設計図も公開されます。31日まで。
薔薇の日と経た年(2014年7月)

   「ゆくりなく庚申薔薇の花咲きぬ君を忘れて幾年か経し」(女ともどち)

 思いだすのは薔薇の日々。風ゆるやかな夏の暮れ。そぞろ歩きの京の町。君の語りとやすらぎと。ふと見上げればつばくらめ。何を運ぶか何を唄うか。流れる汗は君ゆえに。進まぬ歩みは君のため。丸太町から今出川。川を渡れば鎮守の森。夜の帳に影を見る。淡い空気は心を満たす。忘れゆくのは薔薇の日々。

 7月は語り。12日と13日は、人類の叡智の最前線を語ってもらいましょう。京都賞の対象分野のうちから、生命科学、思想・倫理、情報科学のトップランナー20名が、世界から日本に集まります。癌分子機構のワインバーグ先生、生命倫理学のキャンベル先生、深層学習のルカン先生などによる、シンポジウムとワークショップです。京大百周年時計台記念館で。
 31世紀のこころは、語ることができるのか。京都文教大・臨床心理学部のシンポジウムで、問うてみよう。地球の未来にかかわる諸問題を語り合い、臨床心理学の課題と可能性を探る狙いです。6日は小説家の西加奈子さん、13日は漫画家の萩尾望都さん、20日は小説家の角田光代さん。京都駅のキャンパスプラザです。
 能楽のおもしろさは、語るより体験するとわかる。京都観世会の中堅・若手能楽師36名が企画・運営する、「面白能楽館」。9回目のテーマは、「京の寺社と祭り」。囃子、装束、謡、所作、能面の体験は、楽しいですよ。実演では、能で小鍛冶、舞囃子で賀茂、仕舞で橋弁慶、百万、鉄輪です。岡崎の観世会館で、26日の12:00から。
 白石加代子の百物語。明治から現代までの小説を、「恐怖」のキーワードで選び朗読する、たった一人の公演。平成4年の岩波ホールから始まり、14日の第32夜で、いよいよファイナルを迎えます。京都公演は、これが13回目。第98話は三島由紀夫の橋づくし、第99話は泉鏡花の天守物語。 え?百話め? それは語ってはいけないのですよ。場所は、京都御所東の文化芸術会館です。
 サトウサンペイの世界は、昭和を語る。朝日新聞の四コマ漫画、「フジ三太郎」で記憶に残るサトウさん。その原画、記事、出版物をはじめ、学生時代の写真や履歴書が展示されます。今見ると、ちょっとどぎつい風刺とお色気。でも、その底辺にはユーモアとペーソス。先月8日には、記念講演会がありましたが、本人はいたってお茶目なお爺ちゃんです。母校の工芸繊維大で、来月9日まで。
梔子と梅雨の後先(2014年6月)

   「夏の日はなつかしきかなこころよく梔子の花の汗もちてちる」(雨のあとさき)

 梅雨のころ、外を歩こう。しとしと雨に、ジャケットをはおって、つばひろの帽子をかぶって。目はぼんやりと、耳はゆるめて、口はつぐんで。そう、こんなときは鼻だけ。やってくるのは何? 落ちてくる水のうるんだにおい。濡れた土のふっくらしたにおい。さやさや揺れる木々のひろがるにおい。そうして、どこからか漂う、ほのかでつやっぽいにおい。歩くのをやめずに、ゆっくりとつかまってみよう。抱きしめられすぎると、息がつまってしまいそう、心臓がはじけてしまいそう。そのぎりぎりの、しろい花。目では見つからない。耳では聞こえない。口では語れない。鼻だけでそっと感じてみよう。くしなしの花を楽しんでみよう。

 6月は幻なるや。君よ、幻の行事、「嘉祥の日」を知るや。6月16日に、宮中や将軍家で行われてきた行事、「嘉祥」が京町屋・杉本家で復活します。16文で菓子を買い、厄除けを祈願してきた、この行事。当日は、七種の菓子のうち、桔梗餅とお茶がふるまわれます。場所は、綾小路新町西入るですよ。
 戦国時代の大名が幻のごとく求めた、古田織部。鷹峯の太閤山荘内に、古田織部美術館が開館しましたが、その記念に展示会が開催中。織部作の梅鉢香合、溜茶桶、黒中次などはもちろん、「その周辺」と題するとおり、秀吉、千利休、有楽斎などによる消息も展示されます。15日まで。
 その世界は、まさに幻(ファンタジー)。週刊モーニングの「ハートカクテル」でブレークし、今も雑誌の表紙、CDジャケット、企業広告などを手がけるわたせせいぞう。その世界展が、美術館「えき」で22日まで開催中。初連載の「おとこの詩」から、新作「アンを抱きしめて 村岡花子物語」まで。どうぞ、うっとりしてください。
 源氏物語は、まさに幻の物語。南座の4月、海老蔵特別講演は、オペラとのコラボや解釈の斬新さに驚かされましたが、その舞台が宇治の源氏物語ミュージアムで再現されています。舞台映像、衣裳、かつら、小道具など、見飽きることがありません。企画は、恍惚皇子(詩人命名)の海老蔵本人。さあ、どうだ。
 え? 講談が幻になるって? 「滅びゆく伝統芸能 絶滅危惧種講釈の修羅場読み」と、過激なタイトルの催しに行こう。語るは、旭堂南湖。修羅場読みとは、張り扇をリズムよく叩き、読み上げる話法です。25日は橋弁慶、7月2日は本能寺の変、9日は真田幸村大阪入場など。京都芸術センターで。
庭の食卓と飛ぶ燕(2014年5月)

   「燕、燕、春のセエリーのいと赤きさくらんぼ啣え飛びさりにけり」(庭園の食卓)

 庭の欅の下、古い木のテーブル。小さなライ麦パンと、少しだけの白ワイン。こちらにはぼく、向かいにはきみ。大きく枝を広げ、今年もたっぷりと若葉をつけた欅。上を見たら、世界中がみどり。半そでだとまだ寒い風、靴下は脱いで素足にデッキシューズ。語ることはないけれども、ぼくはきみを見ている。きみは何か言いたそうに、ぼくを見て微笑む。誰かこちらを気にしていると思ったら、つばめの子。右へ左へ、横へ斜めへ。そちらからは、ぼくらはどう見える? テーブルを横切って、冒険してみるかい? 世界は始まったばかり。ぼくらはその中の風景さ。

 5月は語る月。名取裕子朗読による、瀬戸内寂聴の源氏物語を聴こう。朗読に箏、二十五絃箏、ヴァイオリンの演奏が付き、更に舞踊がある演出です。「夕顔」を中心に語られる、愛と哀しみの世界は、あなたの心にどう響くのか。場所は蹴上将軍塚近くの、東本願寺東山浄苑で、25日です。
 語りと言えば常磐津、常磐津と言えば京都出身の人間国宝、一巴太夫です。30日は、一巴太夫の語る浄瑠璃の世界に遊んでみよう。観世会館事務局長を務めた権藤芳一さんとの対談があって、閉幕後は交流会も予定されています。演目は、睦月連理たまつばき・道行と、宗清です。府立文化芸術会館で。
 語り継ぐべきは伝統。5月は葵祭が有名ですが、もともとは下鴨神社と上賀茂神社が行う、賀茂祭の神事の一つ。壬生にある京都産大・むすびわざ館では、企画展「賀茂祭 受け継がれる神事」が開催中。葵祭(斎王代列)、流鏑馬、競馬などの神事に関する、貴重な資料を見てみましょう。15日まで。
 絵本の中の物語は、人の心を癒します。「絵本作家から子どもたちへ3.11後のメッセージ 手から手へ展」へ行こう。日本の作家が呼びかけて集まった、7カ国、110人の作品。強烈な問いかけあり、柔らかな暗喩あり、淡いメルヘンあり。共通にあるのは、未来を生きる子供たちへの温かい想い。国際マンガミュージアムで、18日まで。
 言の葉に頼らない語りもある。13日から19日まで、バロック音楽の一週間を楽しもう。13日はフランス作曲家の作品、14日と19日は、ヴィヴァルディのフルート協奏曲と四季。15日は、バロック楽器でバッハ、コレルリ、ラモの作品を。18日はカウンターテノールによるアリアです。柳馬場夷川の、カフェ・モンタージュで。
温か愁いと傘の舞(2014年4月)

   「温かに洋傘の尖もてうち散らす毛莨こそ春はかなしき」(春愁)

 野の花がひっそりと咲いている。子供が傘でうち散らす。自転車が車輪で引きちぎる。犬がしっぽで舞いあげる。うんうん、でも平気。散らされて空に広がっていく。舞いあがって、遠くへ飛んでいく。ちぎられてたくさん増えていく。ぼくは自由。名前がないから誰も知らない。どこへも気ままに飛んでいく。赤、白、黄に、紫、緑。世界が明るいのは、ぼくらのおかげ。うきうきするのは、春のせいだけじゃない。散らされてもおしゃれに笑って、季節を染めている、ぼくたちがいるから。

 4月は舞台。春の恒例、南座の特別舞台体験は、24日から29日まで。花道、迫り、廻り舞台など、舞台の楽しさを30分で楽しめます。また、館内全体を30分で巡る歌舞伎体験も面白そう。駕籠、舟、馬などに乗ってみたり、雨や風の音を出してみたり。五段目の猪も待っているぞ。
 赤い雨とは何だ。19世紀、東欧の町レインタウンが舞台の、ダークファンタジー。迷宮事件を追う刑事を惑わせる、痕跡を洗い流す奇妙な雨。いったい誰が? 彼は町を踏みしめながら、石畳に染み込んだ赤い雨の正体を知る。グラス・マーケッツによる朗読公演、京都府庁旧本館で12日と13日。
 流れる歴史の舞台、近世の伏見展に行こう。秀吉が伏見城を築いてから、城下町として発展し、江戸時代には水上交通の要としてさらに発展した伏見。竹田の京セラ美術館で、26日まで。慶長丁銀、三十石船模型、竹田街道で使われた車石、淀川両岸一覧、鳥羽伏見の戦い錦絵など、興味深いです。
 京都初の大道芸フェスティバルが、27日に。全国で活躍中のプロパフォーマー13組が、集結します。アクロバットのカキツバターズ、曲芸のさくら組、回遊パフォーマンスのミラーボールマン、ジャグリングのリスボン上田、シンクロニシティなど。わくわくしますね。舞台は新風館、11時から18時まで。
 歌舞伎が舞台を変えて、京都絞り工芸館に。京鹿の子絞り・歌舞伎名作展で、絞り染め絵の連獅子、絞り染め押し絵の京鹿の子娘道成寺、巻き糸絵の矢の根などを見てみよう。直径1m以上の円形額に表現された、独特の立体感と色彩は迫力十分。絞り染めスカーフ体験も楽しそう。30日までです。
街に惹かれ春の宵(2014年3月)

   「美くしき「夜」の横顔を見るごとく遠き街見て心ひかれぬ」(春)

 さんざしの枝で切ったらしい。指から血が出ている。生ぬるい風でぷるぷるとゆれる。初舞台のうぐいすたちは目を閉じている。自転車が横たわる。コーラ瓶が立っている。古新聞がくくられている。締めたばかりの靴のひもが緩んでいる。洗いすぎたシャツの裾がはみ出している。曇ってばかりの眼鏡が右にずれている。街は黙っている。美しい夜に浮き上がっている。おいおいこのままどこかに消えてしまうんじゃないだろうな。春だから春のように春らしく。新酒の雨でも降ったようにすっかり酔っているぞ。

 3月はフェアの月。21日からの3日間、みやこめっせでは京の匠の技が集結する、伝統産業の日。これに関連して、14日から23日までに着物でお出かけすると、地下鉄と市バスが無料、二条城の入場が無料、21日の京響コンサートが無料。まだまだ、15日の国際ホテルである、「きもので乾杯」パーティが無料!
 ちょっとおしゃれなフェアは、いかが。八坂のシチリア料理店、ガイアマーレでは、14日から3日間、アンティークフェアがあります。「貴婦人たちの午後へのいざない」と題した、ヨーロッパアンティークの展示販売会です。19世紀英国のアフタヌーンティーや、ルネッサンス期の肖像画の講演会もあります。
 京もの工芸品のオークションなら、烏丸三条の京都伝統工芸館で。一般出品はもちろん、趣旨に賛同した陶芸家の今井政之、釜師の十六代・大西清右衛門、塗師の十三代・中村宋哲などの協賛出品もあります。一般作品は1万円、協賛作品は3万円からスタート。事前展示は13日から17日までで、オークションは18日です。
 堀川団地である、「記憶の街」イベントとは何か? 店舗付集合住宅として60年の歴史がある堀川団地を舞台に、12人のアーティストが記憶をアートにします。「記憶の部屋」では、朝昼晩と続く時間の流れの中で、記憶を長時間体験できます。「記憶の倉庫」では、住民から集めた記憶の断片達が蓄積されています。まずは行ってみよう。23日まで。
 美味しいフェアはうれしいね。30日まで、嵐電沿線ではスイーツラリーが実施中。駅チカおすすめスイーツとして7店舗、駅チョウおすすめスイーツとして5店舗が選ばれました。フリーきっぷを使ってお店を廻って、おいしいスイーツを楽しんで、スタンプを集めて、プレゼントをもらう趣向。え? ぜーんぶ食べるって。
春は早く水仙吹く(2014年2月)

   「その翌朝おしろいやけの素顔吹く水仙の芽の青きそよかぜ」(早春)

 2月。モノトーンの街に、そこかしこ佇む黄色。肩をすくめて歩いていると、霜に冷えた畑にすっと寄り添う水仙。朝出かけに、背中からほのかな香水をかけてくれる、庭の蝋梅。露に濡れた葉をゆらゆらさせながら、花であいさつする八手。雪がしみ込んできた靴を止めた横で、恥ずかしそうに微笑む福寿草。枝にからんだマフラーをほどくとき、春はもうすぐという顔を見せる満作。みんな、おはよう。詩人は冬も唄います。

 2月は未来を見る月。利休が見た未来がここに。映画「利休にたずねよ」を、見ましたか。映画公開記念として、大徳寺塔頭・芳春院が特別公開されます。加賀百万石前田家の菩提寺で、小堀遠州作の楼閣山水や枯山水を拝観しよう。辻村史朗の茶器による呈茶もあり。8日から16日まで。
 未来の新喜劇は、笑いとアートの融合か。大阪出身の現代美術作家ヤノベケンジが、社会的メッセージを吉本新喜劇に吹きこむ。受けるのは、座長の内場勝則、池乃めだか、未知やすえなど。舞台は1970年の大阪万博と2020年の東京五輪。よしもと祇園花月で、14日から3日間です。
 未来の途中は、工芸繊維大の美術工芸資料館で。関西を拠点に、時代の美術、工芸、デザイン界を担う若手クリエイター12人の、フレッシュな表現を紹介する展示会。その名も、「未来の途中」。作品の感想、意見、批評を待っています、との企画がいい。観賞して作家を育てよう。14日から28日まで。
 未来のエネルギーは太陽。11日は、京都産業会館で「太陽エネルギーフェア」。太陽光発電と太陽熱利用システムの展示・設置相談会、設置助成制度と景観に関する新運用基準の案内など、京都市主催で真面目な内容です。ソーラーグッズや色鉛筆プレゼントもあるので、ほっとしますね。
 これからの地域まちづくりの担い手は、誰ですか。23日の「景観・まちづくりシンポジウム」で、考えてみましょう。全体会では、次世代への継承法、地域外の人材との連携等の、事例が紹介されます。分科会では、コミュニティ形成への貢献、創造活動と地域との関係構築が述べられます。河原町五条の、ひと・まち交流館で。
冬に歩み猫柳の暮(2014年1月)

   「猫やなぎ薄紫に光りつつ暮れゆく人はしづかにあゆむ」(冬)

 冬の日、ぼくはゆっくりと歩む。上を見あげず、うつむかず。人が前から来る。右へ左へ通りすぎる。新しい年? 新しいって、なにが? ぼくは去年のままだ。何も変わっていない。いや、街は少しずつ変わっている。とうふ屋、ポスト、軒下、ふろ屋、リヤカー、電柱、くだもの屋、三毛猫、碁会所。ぼくも少しずつ変わっているのだろう。あはははは。きっとね。そっと笑ってみた。思いだせない唄を口ずさんでみた。ぼくは、街をゆっくりと歩く。庭先に、ねこやなぎが顔をみせていた。気の早いジョウビタキが、枝をけって飛びたった。

 1月は文化の月。11日は、岡崎の国際交流会館で、京都文化の真髄を味わおう。府立総合資料館開館50周年記念として、学問体系「京都支那学」と京都書壇の再生で見出された「書」の美が焦点です。羅振玉から寄贈された13点の資料を手がかりに、3人の講師が現代京都文化新生の道を、国際交流の視点から語ります。
 18日は、和の文化の真髄を学ぼう。伝統文化(お茶、邦楽、お香、歴史作法)を体験することで、おもてなし文化を伝える人材を育成する企画です。お正月のお茶とお菓子のおもてなしが学べる、呈茶席のお席入り、聞香会と源氏物語ゆかりの演奏を観賞する、香席・演奏会への入場など。御所西側の、京都當道会会館で。
 平成知新館の開館準備のため、4月21日まで全館休館中の国立博物館。再開を記念しての特別シンポジウムが、25日にテルサホールで開かれます。館長の挨拶と基調講演のあと、国宝絵巻、黄金と漆の宝箱、東アジアの染織、文化財修理と、講演が続きます。博物館文化大使の井浦新と館長との、特別対談もあります。
 浪曲は、日本の大切な文化だ。日本伝統音楽研究センターの第37回公開講座は、「浪曲の音楽性について考える」です。演奏家の実演を交えて、浪曲の音楽性を分析する試み。難しく考えなくても、浪曲師で四郎若、佐知子、浦太郎、曲師で友美、さくら、純子と聞けば、行きたくなります。堀川音楽高校で、25日に。
 おばけも文化、節分におばけはどうですか。2月1日から4日まで、三条商店街とゼスト御池が楽しい。おばけパレード、おばけギャラリー、化け方コンテストなど。化けるかどには福きたる、とか。一方2日は、豆まき発祥地の貴船神社に、節分おばけ詣に参ろう。叡電おばけ電車で、出町柳を13時に出発だ。
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