つれづれに・京都あれこれ (2015年発表分)

冬の空に走る汽車(2015年12月)

   「昼間の風に 飛ばされて、 空には雲の ない寒さ。 煙すかして 光る月、 汽車は汽笛を 鳴らしてく。」(冬空・柴野民三)

 きのうの夜は、汽車に乗っていた。外はくらいね。町がすぎていくよ。静かな夜だね。何だか疲れてしまった。きみは、子供のときのぼくの顔をしている。あのころ弾いていたギターは、どこにいったんだろう。みんな優しくて、ぼくだけ怒っていたんだろうか。ありがとう。おにぎりがあたたかいね、おいしいね。次の駅で降りるのかい。ぼくはこのまま乗っていくよ。どこまでかは分からないけど、ずっと乗っていく。ああ、きみは行ってしまった。もう、戻らない。さようなら、さようなら。ぼくは立ち上がって、ドアの前に立つ。ぼくは窓の曇りをぬぐって、流れる星をみつめる。

 師走の京都は、文化でいっぱい。9日からの5日間は、文化博物館で京都写真ビエンナーレ。「写真のもつ意味や独自性、創造性を生かした表現に挑み、現代に発信する」と聞くと、ちょっと身構えてしまいますが、要は写真を楽しむこと。京都を中心に活躍している写真作家の、公募作品約160点を見てみましょう。
 若者のための伝統音楽入門とは、楽しそう。12日と13日は、和の文化体験の日。大江能楽堂では、三味線、太鼓、笛など、常磐津の演奏と解説を、身近で聞くことができます。一方、御池のちおん舎と宮川町歌舞練場では、実際の演奏のチャンス。それぞれ、小鼓と三味線を、職人さんと能楽囃子方さんが教えてくれます。
 12月の二条城は、イベントが盛りだくさん。築城400年記念の展示はもちろん、放鷹術の実演、クイズラリー、クリスマスリースづくりなどが楽しい。見逃せないのが、二の丸御殿中庭のアートアクアリウム城。ここにも琳派、ということで、キーヤンの金魚や錦鯉のアートなどが楽しめます。その名も、「京都・金魚の舞」。14日まで。
 琳派イベントは、まだまだ続く。こちらは、「檜舞台 琳派ロック」。タブーなし、能書きなし、絵画・音楽・舞踏のクロスオーバーとのこと。キーヤンのアートはもちろん、HIROのダンス、石間秀樹のシターラ、ワサブローのシャンソン、斉藤ノブのパーカッション、茂山あきらの狂言など、もう何でもあり。15日から2日間、アルティで。
 本能寺大寶殿宝物館で、静かに織部を楽しもう。織部本人デザインによる茶道具25点、書状200点などが展示される、没後400年特別巡回展です。有名な「へうげもの」、宇宙船のようにも見える香合、信長・秀吉・秀頼・家康・秀忠からの書状などが、一度に見られるのがうれしい。25日まで。
秋の夜更に銀の唄(2015年11月)

   「唄を忘れた金糸雀は 象牙の船に、銀の櫂、 月夜の海に浮べれば 忘れた唄をおもいだす。」(かなりあ・西條八十)

 私はうたふ。祝福されし人々の日々を。つつましくささやかな暮らしの喜びを。 私はうたつてゐた。終わつてしまつた夢と消へない悔恨を。幼い傷あとと帰らぬ思ひ出を。 私はうたはない。栄光に包まれた高みからの声を。あからさまに振り下ろされた憎しみを。 私はうたふだらう。笑ひあひ助けあひ信じあふ未来を。苦しくとも乗り越へるべき試練を。 さうして、私はうたひ続ける。再び巡りあふ恋人に捧げる愛を。晴れた空に高らかに響きわたる森の声を。

 秋は、毎年恒例の非公開文化財の、特別公開があるのがうれしい。第51回の今年は、8日まで。上京区では、清浄華院、三時知恩寺、妙蓮寺など。左京区では、西方寺、法然院、信行寺など。東山区では、妙法院、雲龍院、大統院など。ああ、もう書ききれません。とにかく、いっぱい。拝観料は、一律800円です。
 こちらも恒例。14日と15日は、関西文化の日。京都はもちろん、周辺の2府8県で、美術館や博物館約600施設が入館無料になるんです。ふだんちょっと行く機会のない、施設に行くチャンス。詩人は、堂本印象美術館、伝統工芸館、宮井ふろしき・袱紗ギャラリー、紫織庵あたりですかね。え? そんなぎょうさん行けるかって?
 まだまだ、大琳派祭は続きます。7日からの3日間の夜は、国立博物館に集合。「琳派 京を彩る」を開催中の博物館で、素敵なプレゼント。そうです、「美の継承」と題したプロジェクションマッピング。音楽監督と演奏は、岡野弘幹。19時からの2時間、立見観覧ですが、何が映されるのか楽しみです。無料です。
 文化博物館では、8日から15日まで、井堂雅夫展が開催。染織工房を開く一方で、木版画の絵師としても創作活動を続ける彼。70年の人生で、1500点以上の作品を発表している彼。琳派を平成に引き継ぐ、彼の作品を是非見てみましょう。14日には、桂塩鯛の落語会があります。
 国立近代美術館では、琳派イメージ展が開催中。近代から現代にかけての、ファッション、グラフィック、絵画、工芸、版画などに息づく、琳派の広がりを見せる、ユニークな展覧会です。そう、琳派とは流派ではなく、作者のイメージ。3つの章に分けられた約80作で、それを感じてみましょう。23日までです。
秋の暮れに鐘の音(2015年10月)

   「なんなん七つの 鐘が鳴る。 梨のたんぼの日暮れです。 遠い細道 あかりが見えて 誰か来そうな 日暮れです。 」(梨のたんぼ・山口喜市)

 夜道に腕を振って歩こう。題名もわからないメロディを、口笛で吹こう。スニーカーの紐をしっかり結んで、ベルトはちょっときつめに締めて。大通りではなく、脇道をすいすい歩く。顔を上げてしっかり前を向いて、早足で歩く。あれ、誰かが横を歩いている。同じメロディを、口笛で吹いている。いちにいちに、同じ足並みで歩いていく。ぼちぼち汗が出るころ、上着を脱ぐかどうかのタイミング。どこかで会いましたか。いえいえ二人だと楽しいから、気持ちいいから。それならご一緒しましょうか。道を曲がったところで、気づくと一人。ああやっぱり。お月さま、ちょっぴりいたずらしましたね。

 雨が続いた九月から、爽やかな青空が続く十月です。こんなときは、北山の府立植物園に行ってみましょう。ちょうど、野外彫刻展が開催中。主催の京都彫刻家教会によると、「その日の風、光、そして周りの景色の中で感じていただきたい」とか。自然な感じがとても気持ちいい、府立植物園。自然に彫刻を楽しんでみましょうか。12日までです。
 自然にできた石のふしぎを、見つけてみましょう。今年もやってきた、「石ふしぎ大発見展」。鉱物の結晶から、太古の化石から、宇宙からやってきた隕石から、石なら何でもあり。石はただそこにある、感じるのはあなた。ぶらぶら見るのもよし、思い切って値段を交渉するのもよし。和歌山で見つかった、海の王者モササウルスの化石は必見です。10日からの3日間、みやこめっせで。
 パラソフィアでもはじけていた石橋義正が、「禅」をテーマに舞台で実験。「人工知能は陸橋で積み木をつむデスか」とは、いったい何デスか? 気になる人は、17日に芸術センターに行ってみよう。女優、ダンサー、シンガー、僧侶まで、異才が集まって演じる、非日常な空間。鬼才カントルへの、オマージュなんですね。
 自由奔放に、恋に生きた母。母を慕いつつ、病気を克服して心象世界に生きた息子。精緻なデッサンと、大胆な色遣いの画家。構図はあいまいでも、深い色で存在を描く画家。そうです、ヴァラドンとユトリロの親子。その展示会が、京都駅の美術館「えき」で、18日まで開催。まったく違う画風の二人の絵が、互い違いに並ぶことで、見えてくる世界が深すぎる。
 「ミステリー、おおミステリー、事件は突然起きた〜」ということで、山村美紗のサスペンス「京都都大路 迷宮の恋めぐり」が、南座で18日まで開催。浅野ゆう子、水野真紀、原田龍二の同級生が、事件にどうからむのか。小野寺昭と山村紅葉が、いい味出してます。その山村美紗の家では、SYOモデルサロンの展示即売会が開催中。山村家は、霊山観音の南側です。
風の町に心が舞う(2015年9月)

   「通の風と 横丁の風と、 犬の脊中で 合いました。 −たかいマストのてっぺんで 風とひらひら舞いましょう。」(風・寺田宋一)

 ぼくと君とは横町で出会った。そのとき風が吹いていた。風は遠い国の話を語った。ぼくらは顔を見合わせ笑った。猫がまるくなって眠っていた。夜になるとぼくらは街灯に照らされそぞろ歩いた。くちなしの香りがぼくらに寄りそった。あおばずくの声がぼくらを包みこんだ。ぼくらは公園のベンチで夢を語り合った。ああ、ぼくらの居場所はどこにあっただろう。高いところの星のまたたき。足もとの夜露にやどる淡い光。ぼくらは手をつないでから別れた。さようならを言わずに別れた。風がぼくらの歩く道を吹いていた。そこには遠い未来の物語があった。

 9月はアートでいっぱい。70年代にロックのイベントでぶいぶい言わせた、木村英輝さんを知っていますか。通称キーヤンは、還暦を過ぎてから絵描きになり、アトリエを飛び出す生命力と斬新さで、一躍時代の人になりました。その画風は、ど派手で緻密。そのキーヤンのコレクションが、「檜舞台 琳派ロック」と題して、高島屋で開催中。17日まで。
 これは歌舞伎か? いやアートか? なんと、きむらゆういちの「あらしのよるに」が歌舞伎化され、南座で26日まで公演中。歌舞伎×絵本の、新たな世界の誕生とか。今井豊茂の脚本と、藤間勘十郎の振付が、どうマッチするのか。がぶの獅童と、めいの松也の友情は認められるのか。オオカミに月乃助や萬次郎など、ヤギに梅枝、萬太郎、橘太郎など。こりゃすごい。
 日本伝統のアートは、百物語でしょう? 27日は、地下鉄北大路駅の北文化会館に行きましょう。そこで待っているのは、百物語の館。涼しくなった京都が、一気に寒くなりそう? 古典的怪談の研究を通じて、現代表現文化の可能性を追求している、京都精華大研究室の協力・出演。伝統的な作法と舞台を蘇らせ、江戸、明治から現代までのお話が聞けるとか。
 もうすっかり世界のアート、それがマンガ。今年もありますよ、京都国際マンガ・アニメフェア。50社以上の企業と団体が出展し、トークショーやライブが開催されます。マンガとアニメのコラボフード、京まふ公式商品の販売、出版社編集部による自作の校閲とは、いいですね。「ダイヤのA」原画展も、見逃せない。みやこめっせで、19日と20日です。
 日本酒を飲めば、アートができる? いくら京都で日本酒条例ができたって、そのサミットとは何? いえいえ大丈夫、日本酒を楽しんでイベントを楽しむこと。22日のみやこめっせは、3000円の入場料で、全国の日本酒が試飲可能。地元飲食店から、オリジナルメニューも揃います(要するに、あてか)。よしもと芸人も来て、大騒ぎです。市長さんも来はるかな。
夜中の星に眠る海(2015年8月)

   「夜中に、海が 眠ってるまに。 栄螺は、雲の かげを食べた。 海月は、風の かげを食べた。 小魚は、星の かげを食べた。 」(夜中に・岡田泰三)

 夜中に砂浜に来た。誰かが作った砂の城に、蟹が2匹這っている。そこから、向こうの丘まで続いている足跡。丘の上に、顔が見えない人が立っている。その人は、黒い顔で両手を挙げる。あっ、あぶない。山から海に何かが落ちた。なあんだ、流れ星。海に浮かんだ光のかけら。そっと足を浸していると、ふわふわと集まってくる。見ていると、それは銀色の魚になって潜っていく。足下の砂が崩れて、波がひいていく。沖に向かって歩きながら、背中越しの光をあびる。そこに伸びる、長い影。影は少しずつ欠けながら、消えていく。ああ、誰かが影を食べる。誰かが夜を泳ぐ。

 八月は、妖怪だらけ。え? 現代音楽で百鬼夜行を描くって? 気になる人は、7日に京都芸術センターに行ってみましょう。主催が京都妖怪音楽協会とは、何だか怪しそうですが、ご安心を。市立芸大卒業生らによる、まじめな?演奏。妖怪にちなんだ音楽作品を、曲や特殊演奏法の解説をしながら、紹介してくれるそうです。
 こちらは、奇々怪々のお化け浮世絵展。何だか怪しそうですが、ご安心を。北斎、広重、豊国、国芳、芳年などの浮世絵師が描いた、お化けをテーマにした作品が約100点、展示されます。有名な、北斎の「百物語」、国定の「東海道四谷怪談」、芳年の「新形三十六怪撰」が楽しみ。めずらしい、男と女の幽霊肉筆画も見られます。美術館「えき」で、16日まで。
 みなさん、その昔、比叡山山頂遊園地にお化け屋敷があったのを、御存じですか。京都芸術センターで人気の、月イチ古典芸能シリーズ。第26回の8月は、「お化け屋敷を知る」です。いえいえ、怪しくないですよ。この方面に詳しい、堤さんと縣さんが、比叡山のお化け屋敷を題材に、お化け屋敷の文化的・歴史的側面を語ってくれます。21日です。ひえー。
 松ヶ崎の工芸繊維大では、何がある? そうです、「妖怪パラダイス」。西洋の異形のモノたちがひたすら恐ろしいのに対し、日本の妖怪たちは古典から現代のアニメまで、どこか愛嬌があって憎めないのです。この展覧会の副題は、「現れる異形のモノたち」。秘蔵の作品で、楽しんでみましょう。美術工芸資料館で、来月5日まで。
 その昔、愛宕山の山頂にスキー場や遊園地があったのを、御存じですか。って、昭和初期ですよ。京都では、昭和3年の昭和御大礼をきっかけに、観光ブームが起こり、電車などの交通網、劇場、百貨店、ホテル、飲食店などが、一気に発展しました。嵐山にある、小倉百人一首殿堂・時雨殿では、嵯峨と嵐山を中心に、そんな時代のコレクションが展示されます。23日まで。
夏に火照る渚と砂(2015年7月)

   「夏の日でりの はますげは、 はますげは 砂のほてりに あつかろな、 あつかろな。 なぎさは ななつの 子が一人」 (はますげ・土井良三吉)

 昨日、薔薇が焼けた。7月の正午、雲は出ていない。僕の探偵は、落とした時間を探しに立ち上がる。窓の外の立葵が揺れる。蟻が茎を這いながら、頭を上げる。風鈴草の紫、片喰の黄、鶏頭の赤。探偵は赤い色に見入る。蝉が櫟の葉に隠れて、声を出す。風船が枝に掛かって、紐が真っ直ぐに垂れている。赤が体を突き抜けて、冷たい汗が浮き出てくる。家の中の書棚に、背表紙を裏返した本。その題名は、「午後の冒険」。探偵はちぎれた頁を見つける。そこにある焦げた臭い。探偵は薔薇の欠片をつまんで、頁にはさみこむ。斜めになった柱時計から、蟋蟀が飛び出してくる。

 夏の京都は、祇園祭で賑やか。そんなとき、「京の祭から考える 祈りのかたち」と題した、講演と実演があります。出演は、観世流能楽師の林宗一郎と、玲月流篠笛奏者の森田玲。森田さんは、株式会社「民の謡」を経営しながら、玲月流の初代になった人。時節柄、悪霊退散の御霊会が起源の、夏祭りの話題が楽しみ。19日に、芸術センターで。
 能楽のイベントに、行きませんか。25日に観世会館である、面白能楽館です。題して、「HITAMEN」。 え? イメケン? いいえ、直面。能面を付けない、素の状態のことです。「夜討曽我」を、総勢35人で演じるとは、これいかに。謡、所作、能面、かぶり物、装束の体験も楽しみ。前半と後半の2回で、要予約です。写真、動画OKです。
 PARASOPHIAでもひと際目立っていた、やなぎみわ。「ゼロ・アワー」のアメリカ・カナダツアー凱旋公演は、見逃せないぞ。太平洋戦争中のプロパガンダ・ラジオ番組を巡る、「声たち」の物語。はたして、東京ローズは存在したのか。あなたは、永久に惑わされることでしょう。18日の春秋座。英語の上演で、日本語字幕付きです。
 服飾評論家の市田ひろみさんのライフワークは、世界各地の民族衣装の収集、保存、研究。今、西本願寺東側の龍谷ミュージアムで、「世界の衣装をたずねて」展が、開催中。シルクロードでつながったアジア、アフリカ、ヨーロッパ、中南米など。まさに、これが世界。「仏教の博物館から見つめる 文化の多様性」とは、いい言葉。20日まで。
 教育の基本は「倣う」、その応用は「創る」。その意味を、工芸繊維大の美術工芸資料館で、考えてみましょう。京都高等工芸学校と、京都市立美術工芸学校で行われた図案教育。その関連資料は、明治時代に始まった「図案学」の歴史であり、今も種々のデザインに生きています。理屈はともかく、見ていて楽しい。31日まで。
露の夜に光る金魚(2015年6月)

  「とびうお 光る 波止場に、 月夜に とまる 商船。 夜店の 小さな あかりに、 金魚 かった 船長。」(夜店・有賀連)

 そっと掌にのせる。 そこにある、小さいけれど大きな命。ちょっとずつ、温まってくるよ。 ほら、目覚めてくるよ。こんにちは、こんにちは。 ぼくは詩人。 君とは遥かあとに生まれた詩人。ゆっくりとでいいから、君のことを語っておくれよ。うふふふふ、こんにちは、こんにちは。 そうなの、ぼくはここにいるよ。誰がぼくを造ったなんて、ぼくは知らない。 でも確かに、ぼくはここにいる。君の掌の上ですましている。 ぼくを感じてほしい。 ぼくを知ってほしい。それからね、お願い、お願い。 どうか、ぼくをしっかり使ってほしい。うんうん、ありがとう。 ぼくは詩人。 君と出会って、うきうきしている詩人。よろしく、よろしく、これからよろしく。 君とぼくとで、楽しい時がありそうだね。

 個性的な作品をさりげなく展示する、芸術センター。静かで深い、映像・写真展が始っています。タイの作家アラヤー・ラートルチャムルーンスックによる、「無名のものたち」。生と死、現実と夢、人と動物の境界を曖昧にし、自分がいる次元から離れることを問いかける彼女。京都滞在中の様々な撮影とインタビューは、何を語るのか。14日まで。
 大正ロマンとは程遠い、こんなど派手な画家がいた。新潟生まれの三輪晁勢は、京都で堂本印象に師事し、日本画を学びました。その特徴は、鮮やかな色彩と独創的な抽象表現。今回の大回顧展では、日本画、水彩画、新聞・雑誌などの挿絵から、約120点が紹介されます。晁勢ゆかりの堂本印象美術館で、14日まで。
 古典文学と古典音楽を、もっとよく知りましょう。琵琶の伴奏で演奏される平家物語は、鎌倉時代に誕生し、琵琶法師によって語り継がれてきました。その音楽は、古代の雅楽、声明、能楽と共通する特徴があり、近世の三味線音楽にも影響したとか。13日のウィングス京都で、その演奏と講義を聞いてみましょう。主催は市立芸大です。
 感動に、東洋も西洋もない。京都バッハ合唱団のアカペラコンサートで、西洋の古典詩と古典音楽に触れてみよう。「バッハの系譜」というとおり、バッハのカンタータを始め、シュツ、メンデルスゾーン、クーラ、マカロフ、クヴェルノ、ヤイロ、グリーグなど、様々な作家の音楽が登場。文化博物館の別館ホールで、21日です。
 琳派でもない、主流でもない、それでも時代を切り開いた。京都は、明治時代に様々な流派の画家たちが交流し、切磋琢磨しながら新機軸を目指した街です。そんな、「明治を生きた京の画家」展が、学校歴史博物館で30日まで開催中。巨勢小石、幸野楳嶺、田能村直入、望月玉泉などの、開拓精神を見てみましょう。7日と14日は、講演会があります。
光に惑い緑を探す(2015年5月)

   「小屋のひさしの仔猫です。 おりよおりよとしています。 ひろい牧場の日の出です。 たかい穀塔がひかります。」 (牧場の朝・柳曠)

 小さな丘の上。大きな木の下。 目を閉じて、風の声を聴く。 東へ西へ、上へ下へ。風がぐるぐる回っている。 体をさわさわとくすぐる。するすると透りぬける。 うふふ、何をしているの。 こっちへおいでよ。 ううん、べつに。 ふふ、いっしょに行こうよ。 ほら、むこうへ。 うん、でもね。 あはは、こわがりだね。 おくびょうだね。 じゃあね、じゃあね。 あはははは。 あああ、行ってしまった。 それから、そっと目を開ける。 あっ、まぶしい。 そこにある、さっきとまったくちがう世界。 美しすぎて、とまってしまった世界。 この世にたったひとり、取り残されたボク。 あれっ、肩の上になにかいるよ。 ああ、なんだ、風のこどもか。 ちょこちょこ、くすくす、笑っている。 じゃあ、一緒にあそぼう。 ボクはもう、とっても身軽。 小さな丘の上、大きな木の下で、一緒にあそぼう。

 5月はアート。3月から始まったPARASOPHIA(京都国際現代芸術祭)も、10日で終わり。京都市美術館を主会場に、文化博物館、芸術センター、堀川団地、鴨川デルタ、河原町塩小路など、あちらこちらで作品が見られるのが楽しい。映像、音楽、写真、サウンド、彫刻、造形など、あらゆる題材のインスタレーションを楽しみましょう。
 次は、ジャズ。「すごいジャスには理由がある」って、何のこと? グレン・ミラー・オーケストラなどで活躍した、ピアニストのフィリップ・ストレンジと、音楽評論家の岡田暁生による、ピアノと楽しいトーク。琳派の映像も登場するとか? 初心者もマニアも、16日に府民ホール・アルティに集まりましょう。
 今年の京都は、やっぱり琳派。文化博物館では17日まで、「京に生きる琳派の美」と題した展示会が開催中。京都には、琳派の伝統が今も息づいている! 京都の日本画家協会と工芸美術作家協会から、約200人が琳派をキーワードに作成した、新作を発表します。たった今、ここにあることが「伝統」。京(今日)に生きる、美を感じましょう。
 今ここにあるアートは、どこにある? そう、国立近代美術館にある。「現代美術のハードコアはじつは世界の宝である」との触れ込み。更には、「アート、開きました」って、どこまで弾けるの? アメリカのヤゲオ財団コレクションから、約40作家の約75点が集まる。作品も過激だけど、何かおもしろい仕掛けがあるみたいですよ。31日までです。
 能は伝統、能はアート。24日は、今宮神社御旅所にどうぞ。ここの能舞台を使った、楽しい能舞台フェスタです。同志社、京大、立命館大、京都女子大、仏教大などの同好会から、小鼓や仕舞が奉納され、ジブリの名曲集やソーラン節まで登場します。西陣の朝市マルシェがあるのも楽しみ。朝9時から午後3時まで、たっぷり。雨天決行です。
四月の空と深い色(2015年4月)

   「お家を出れば空がある。 きっとお頭の上にある。 屋根の上にも空がある。 いつも見あかぬ空がある。」(空がある・輿田準一)

 かあかあかあと、からすが鳴くよ。 きらきらきらと、金の汽車が来た。くんくんくんと、黒犬をくすぐる。けらけらけらと、今朝の化粧を消す。こんこんこんと、子狐のこだまする声。さあ、探していたサロンに誘うよ。知らないの、しっかりしてよ幸せよ。進もうよ、隅まですましたスキップで。先頭で、せわしなく背伸びしてせめぎ合い。そらそら、それなら素知らぬそっぽかい。たちまち他人で、企みはたくさん。ちがう力が、ちらちら近寄る。次はつかまえるって、ついつい角隠し。てんてん手まり、手妻で転倒。とうとう飛んだよ、隣のトランポリン。

 4年に1回の日本医学会総会が、今年は京都で開催されます。その関連で、一般向けのイベントが盛りだくさん。テーマは、「医と健康を考える、市民のための9日間」。会場は、京都劇場、メルパルク京都、京都駅前広場などが中心。参加費は無料ですが、事前申込制なので要注意。関連イベントで、マンガミュージアムの「医師たちのブラックジャック展」も、是非どうぞ。4日から12日。
 忘れ去られた場所で、君は何を見つけるのか。「壁の染み、はがれた土壁、いつもの見慣れた風景。もう一度その中で話をしよう。」 そう、やぶくみこの音楽、帰山玲子のダンスのコラボ。場所は、西陣織のネクタイ工場跡。長い間人目にさらされることのなかった、西陣織の織機、織物などがある、西陣ファクトリーガーデン。18日です。
 島原で、輪違屋の伝統美を見ましょう。芸妓や舞妓はんのいる花街とは別に、太夫はんがいる、日本最古の花街である島原。ここに残る唯一の置屋でお茶屋である、元禄時代創業の輪違屋。ここで、17日から3日間、写真展と撮影会があるんです。案内は、花街写真家で有名な、溝縁ひろしさん。予約制なので、急がないと。
 二条城に、イタリアの靴が並ぶ? そう、京都市とフィレンツェは、姉妹都市提携50周年。これを記念して,フィレンチェ本拠のサルヴァトーレ・フェラガモのコレクション展が、二条城の御殿台所で開催されます。30年代から50年代のシューズ、アイコンシューズを18Kペンダントにしたジュエリーと、おおこれはもう、うっとり。16日から22日まで。
 くつろいだ雰囲気で、アートを語りませんか。座談会の「偶然の芸術」で、誤解や勘違いが芸術の創作にどう関係するか、受け入れられるものなのか、存分に語り合いましょう。場所は、荒神橋東上ガルのゲーテ・インスティツゥート・ヴィラ鴨川、日時は25日。ドイツ人芸術家5人と、日本から3名が参加します。座談会のあとは、ドイツビールが楽しみ。
菜花と風は月の中(2015年3月)

   「月の中には 菜の花が一ぱい、 菜の花、菜の花、 月の中から 風は黄いろい、菜の花が とんで来るから」(月の中・佐藤義美)

 菜の花はなんの花? 菜の花はきいろい花 菜の花はあかるい花 花をみていたの? それはゆれる それはうたう それはなんの唄? 背中におぶさり聞いた唄 みんなで並んでうたった唄 みんなはどうしたの? とおい国とおい空 いえいえそこにいるよ いるのはだあれ? 僕かもしれない君かもしれない 彼のようで彼女のようで 用をすませたあとは? あとから来るのは夕日ばかり とてもさびしい影ばかり さびしい時はどうするの? 気持ちをこめてうたうよ 祈りをこめてうたうよ 祈りの向こうにはなにがある? ゆれる心ゆれる花 明るくて黄色い菜の花

 3月は美の月。琳派400年記念のイベントが、いよいよ始まります。光悦、宗達、光琳、抱一、雪佳と続く系譜を、細見美術館のコレクションで見てみましょう。屏風や掛け軸など、細見家で実際に飾られているお宝が、出展されるのもうれしい。高島屋で23日まで。11日と15日は、館長のギャラリートークがあります。
 京菓子の美を、あなたは見たか? 烏丸上立売の京菓子資料館では、22日まで「近現代の京菓子の歩み」企画展を開催中。和菓子が大成された江戸時代以降の、図案帖、出版物、文人たちの絵図などが、公開されています。京菓子には、伝統を守った先人たちの意志と努力が、息づいているのです。俵屋吉富の呈茶席も、是非お楽しみを。
 桃の節句といえば、お雛さま。日本が誇る、繊細な美です。等持院の東にある櫻谷文庫は、日本画家の木島櫻谷の旧邸。今ここでは、お雛様を飾って、29日までの金土日に公開されています。ここから東に歩いた、旧衣笠村絵師の家、わざ永々棟でも、「雛さまと御所人形の勢ぞろい 愛らしさの競演」と題して、お雛様の展覧会が開催中です。
 14日から22日までは、「伝統産業の日」。今年は「琳派の世界が花ひらく」のテーマで、色々なイベントがありますが、着物の人には特典がいっぱい。着物でお出かけすると、なんと市バスや地下鉄が無料。21日は、コンサートホールのクラシックコンサートに、無料招待。国際会館のさくらでは、お酒とワイン、老舗料亭の花見弁当が楽しめる。
 ひっそりとたたずむ、美のお家。東九条にある、長谷川歴史・文化・交流の家です。29日まで、川端彌之助の作品展が開催中。慶應大を卒業後フランスに留学し、故郷の京都に戻った後は、市立芸大教授、嵯峨美大教授などを務めた、一人の画家。そのけれんみのない、作品を見てみましょう。友人であった、長谷川良雄の水彩画も同時公開されます。
辛夷は咲き鶯鳴く(2015年2月)

   「こうこう 辛夷 咲いた。 鷽が 鳴いて、日暮。 こうこう 辛夷 あかれ。 田螺 とってる こども。」(辛夷・巽聖歌)

 辛夷に近い春がいる。風が素知らぬふりをして背中をくすぐる。仔猫が細い目でひげをぴくつかせる。青い空に途切れ途切れの雲。土が浮かれるように足を持ち上げる。入門したての鶯が首をくるっと傾げる。詩人は書きかけの画帳を開けてパステルを重ねる。寝坊した朝だから大きめのベーグル。たっぷりのお湯で入れた熱々のコーヒー。遠くから聞こえてくる山の声。そこに乗って流れるソプラノとアルトのハーモニー。詩人は譜面を取り出して装飾音を付け足す。夜露が遠慮がちに掌を濡らす。白い蝶がステップを踏んで辛夷の横を通りすぎる。そこには近い春がいる。

 2月は演じる月か。最近何かに感動しましたか? 感動を演じてみませんか? 11日は、感動エピソードコンテストの決勝大会。感動エピソードで選ばれた6作品から、投票で最優秀賞を選びます。場所は北大路の大谷大。パワフルかつ繊細な歌声を演じる、小林未奈のアコースティックライブもあり。若者の祭りだけに、就活コーナーもあります。
 え? 電車で日本酒が飲み放題? ここは、ちょっと気取った酒飲みを演じてみますか。7日と21日、京阪三条から中書島までの特別電車。時間は、100分間。京都の酒蔵10蔵の、飲み比べができます。しかも、山ばな平八茶屋やIL GHIOTTONEなどの、京料理やイタリアンのおつまみ付き。ああ、よだれが。
 Kyoto演劇フェスティバルは、今年で第36回。15日まで、府立文化芸術会館で、1日4題の楽しい催しが続きます。ミュージカル、市民劇団、放送劇団、人形劇、朗読劇など、市民、中学生、高校生、その他謎の人たちが、演じています。2作品以上見たら、一般部門の観客賞に投票できますよ。
 世界のインディペンデント・アニメーションて、何? そう、海外の若手アニメーションクリエーターを招き、日本のアニメーション文化との交流を図る企画。第一部では、アニメの上映と、海外招聘者3名によるトーク。第二部は、アジア圏6人による、望郷と追憶をテーマにしたアニメの上映。21日に、芸術センターでどうぞ。
 21日と22日は、市立芸大でオペラを楽しもう。学生やOBが演じるのが楽しい、このイベント。管弦楽は市立芸大アカデミーオーケストラで、合唱は音楽学部の合唱団です。まず、ドニゼッティ作曲の「愛の妙薬」全2幕、次はベッリーニ作曲の「カプレーティ家とモンテッキ家」より第3幕。入場無料がうれしいですね。
吹雪の夜に鴨の声(2015年1月)

     「吹雪の晩です、夜ふけです。 どこかで夜鴨が啼いてます。 燈もチラチラ見えてます。」(吹雪の晩・北原白秋)

 夜の声を聞いたのは、いつの頃だろう。凍てついた闇を抜けて、街に届く。ボクは無力な少年だった。家を出て、風呂屋に向かう。街の明りは消えている。高すぎる空。そこに映るボク。あるく、あるく。うごく、うごく。あれはボク? いやちがう。じゃあ、あれは。 学校では教えてくれない。家のみんなも知らない。友だちも気づいていない。でも、確かにそこにいる。聞こえる、聞こえる。うおおおーん。ぐおん、ぐおん。うあああーん。ボクは百円玉を握りしめて、足をしっかりとふんばっていた。

 新春1月は、創る月。型絵染の人間国宝、故・芹沢_介の世界に出会いましょう。その多彩な創作は、柳宗悦の民藝運動に共感したことから始まります。第一部では、沖縄の紅型から学んだ独自の型絵染を、屏風、のれん、着物、帯などで見ます。第二部では、_介が収集した世界各国の美術・工芸品を見ます。高島屋で、19日まで。
 座談会「伝える 承ける 創り出す」とは、何か? 日本とドイツのクリエイターが、バーのようなくつろいだ雰囲気で、アートを語り合うイベントです。アートジャーナリスト・小崎哲哉の司会で、「伝統と革新の街」京都に、美術作家、書家、建築家、劇作家などが集う。カフェのドイツビールも楽しみ。荒神橋のゲーテ・インスティトゥート・ヴィラ鴨川で、31日です。
 「何故人は国を造ったのか」を、一緒に考えてみましょう。現地メキシコで実施された、「トラランカレカ考古学プロジェクト」の全容がわかる、写真展です。4世紀頃に、メキシコ中央高原で最盛期を迎えたとされる、古代メソアメリカ文明の古代都市とは何か?     京都外大・国際文化資料館で、31日まで。地下鉄・太秦天神川駅が便利。
 一番近くて遠い国、それがブラジル。でも、日本人が明治後期から移住を始め、様々な文化を創造してきた国、それがブラジル。仏教も、移民とともに広まりました。2014サッカーワールドカップ開催を記念した「ブラジルと仏教展」で、日系人が150万人暮らすに国に想いを馳せてみましょう。佛立ミュージアムで、2月1日まで。
 イブの息子たち、エロイカより愛をこめて、ツェット、修道士ファルコなど、この華麗なる創造性。漫画家生活50周年を迎える、青池保子の初個展を見逃すな。国際マンガミュージアムでは、原画300枚以上を2会期に分けて、2月1日まで展示中です。17日には、なんと本人によるサイン会あり。
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