つれづれに・京都あれこれ (2007年発表分)【出典:万葉集(大伴家持)】

冬の中であなたを抱く(2007年12月)

   「消残りの雪にあへ照る あしひきの山橘をつとに摘み来な」

 北風に向かってぐんぐん歩いたら、涙がぼろぼろこぼれてきちゃった。悲しいから?つらいから?いいや、寒さで涙腺がゆるんだだけさ。だけど、そのまま歩いていたら、何だか思い出しちゃった。去年のこと?5年前?ううん、ちょうど12年前。ぼくがぼくだとわかった時。世界の中で、ぼくがただ一人、ぼくの外で、世界が気味悪いくらい閉じているとわかった時。ぼくは、顔を覆ってぼそっと叫ぶかわりに、んんっと歩き出すことにしたんだ。それから何年も過ぎちゃったよ。頭はすかすかで、体はよたよた。変わらないのは、ふんと立っているただ一人のぼく。だからうんうん歩くのさ。頭を上げて、泥を跳ね上げて、ちょっぴり切なく歩くのさ。
 萬屋!! 南座はもう新年。今年の顔見世興行は、その信二郎さん改め錦之助演じる富樫と幸四郎演じる弁慶の山伏問答が見もの。菊五郎の権太、仁左衛門の椀久と宗俊、藤十郎の娘道成寺、我當の景親、詩人ご贔屓時蔵さんの維盛もいい。恒例の舞妓はんが桟敷席に並ぶ、花街総見も華やいでいいものです。
 もうすっかり恒例、春は東山、冬は嵐山の花灯路。8日から17日まで、嵐山、嵯峨野一帯の夜が灯りに包まれます。野宮神社から大河内山荘までの散策路両側の竹林、渡月橋周辺の山裾と水辺、夜の大覚寺、二尊院、落柿舎、常寂光寺、野宮神社、大河内山荘、天龍寺、宝厳院、時雨殿、法輪寺と歩くと、ああもう、ただうっとり。
 今年のおけらまいりは、新装の門をくぐってどうぞ。八坂神社の西楼門が、94年ぶりに修理されました。応仁の乱で焼かれた後、15世紀末に再建されたこの門、耐震補強、瓦の新調、壁の白塗りはもちろん、全体に赤く丹塗りが施され、見違えるようになりました。こいつは春から縁起がいいぞ。
 伝統は大切にしたいもの。大谷大博物館では、「拓本でみる京の梵鐘」展が開催中です。日本三名鐘のひとつ平等院の梵鐘、現存最古の年号・戊戌が刻まれた妙心寺の梵鐘、三絶の鐘・神護寺の梵鐘などが紹介されています。方広寺の梵鐘もあり、大阪冬の陣の遠因となった「国家安康」の銘文が見られます。22日まで。
 鐘といえば、日本三大梵鐘の大鐘がある知恩院。大晦日は、16人の僧侶が子綱を引っ張り、1人の僧侶が親綱にぶら下がって、撞木を鐘にぶつけます。その撞木、撞く度に先端が欠けていくので、この度12年ぶりに台湾製の特注杉を使用して新調されました。さあ気持ちも新しく、エーイ、ヒトーツ、ソーレ。
あふれる想いを結び(2007年11月)

   「八千種の花はうつろふ ときはなる松のさ枝を我れは結ばな」

 11月は誰そかれ時。あなたはだあれ。やあ、どこかでお会いしましたか。いいえ、たった今。どちらのどなた。あなたのわたし。何のことだか。確かにあなた。やはりどこかで。それは今。なるほど会ったはず。あなたとわたしと。でも、覚えていないな。いいえ、あの時。思い出せないんです。それはわたし。遠い昔のような。いいえ、それは今。昔がないと、今もないでしょう。今のわたしは、わたしの今。あなたの昔は、わたしの昔。だから、誰だかわからないんでしょう。わかりすぎるほどなのです。いいえ、そんなはずは。わかりすぎるから、わからないのです。そうすると、あなたは。そうです、わたしは。あなたはだあれ。やあ、会いましたね。
 11月は野菜だ。京のふるさと産品価格流通安定協会では、聖護院だいこん、みず菜、賀茂なす、えびいも、堀川ごぼうなどの21品目を、「京のブランド産品」として認めていますが、9〜11日に開かれる京野菜フェアーでは、その試食販売が楽しめます。場所は、エーコープ京都。来年1月には、京野菜検定もあります。
 おっと、次は手芸か。16日と17日はみやこめっせで、手芸の祭典「手づくりめっせin kyoto」が開かれます。今年は、225にのぼる色とりどりのブースを始め、手芸作家・中山富美子さんのトークショーと作品展、モタイクニコさんのファッションショーなど、盛りだくさん。伝統工芸の実演販売も見逃すな。
 さあ、映画に行こう。かつて千本通一条上ルにあった、千本座をご存知ですか。あの牧野省三が1901年から経営し大繁盛した、日本最初の映画館です。ここをモデルにした映画、「オリヲン座からの招待状」が今月から公開されるのに合わせ、西陣千本商店街の町おこしが始まっています。嵯峨芸術大生が描いた、店主のポスターは見ものです。
 毎秋恒例、非公開文化財の特別公開も見逃すな。市内16の社寺と冷泉家で、貴重な文化財を見ることができます。この際、観光ルートにない所に行ってみましょう。車折神社の富岡鉄斎筆掛軸、遍照寺の康尚作十一面観音立像、尊勝院の本尊元三大師像、黄梅院の茶室「昨夢軒」など、どうですか。11日までです。
 それならいっそ、火祭りも終わって静かな、くらま温泉。京の奥座敷に潜んで、ミネラルたっぷりの単純硫化水素泉に癒されましょう。その時便利なのが、叡電の「鞍馬・貴船散策チケット」。露天風呂「峰麓湯」の利用はもちろん、鞍馬寺への入山、近辺料亭での食事割引ができます。
恋う人を呼び続けて(2007年10月)

   「高円の秋野の上の朝霧に 妻呼ぶを鹿出で立つらむか」

 10月はファッションの季節。夏の終わりが続いている様でもあり、冬の初めが近づいている気配もあり、人それぞれの秋が楽しめます。半そでTシャツでも、コットンセーターでも、ボアつき革ジャンでも(そらないわ)、それぞれの秋です。9月が終わったとたんに、襟を広げていたサラリーマンの白いワイシャツが、しきたりのようにネクタイで引き締まるのも、まあいいものです。詩人思うに、季節の色合いを着るのが一番です。でも、いくら科学が進歩しても、萩の淡い紫、女郎花の滲んだ黄、彼岸花の悩める赤は、出せないんですよね。
 なんと、セーラー服の元祖は京都だった。あのリカちゃんも着ている福岡女学院よりも、平安女学院が1年早く、1920年に導入していたとか。調べたのは、制服・体操服販売会社のトンボ。英国海軍の水兵服から、女学生の制服として定着したこのセーラー服、福女も平女も張り合っているわけではありませんので、念のため。
 もうセーラー服でもない年の人は、着物。「きものパスポート」をもらうと、年内いっぱい特典が受けられます。着物で行くと、文化博物館や植物園が入場無料、その他の寺院・神社や飲食店でも、割引や記念品提供などのサービスあり。着物がない人は、京都駅ビルで、格安レンタルと着付けサービスを受けましょう。
 着物に似合うのが、お茶。京都南部の山城地域では、様々なイベントが行われます。7日は京田辺で茶まつり、14日は宇治田原のふるさとまつり、20日は宇治公園・塔の島でお茶まつり、21日は城陽・荒見神社で茶まつりなど。10月中は各会場で、宇治茶の郷スタンプラリーも開催中です。
 着物といえば、昔々の日本ですが、ずっと遡った16世紀、「信長さま・秀吉さまご推奨」で「天下をとった絵師」といえば、狩野永徳。その特別展覧会を、国立博物館で見よう。定番の唐獅子図屏風、国宝の洛中洛外図屏風、檜図屏風と花鳥図襖を始め、初公開の洛外名所遊楽図屏風と吉野山風俗図屏風は、見逃せません。16日から11月18日まで。
 歴史先入観のない外国人は、衣装コスプレの夢を見るか?最近人気があるのが、時代祭。江戸、安土桃山、吉野、室町、鎌倉、藤原、延暦と続く歴史は知らなくても、馬車、牛車を含めた総勢2000名、2kmの行列は、理屈なしに楽しめます。ゆっくり見たい人は、御苑、御池通、平安神宮道の、どこかの観覧席でどうぞ。10月22日です。
いつの間にか命は(2007年9月)

   「秋の野に露負へる萩を手折らずて あたら盛りを過ぐしてむとか」

 いつでもと思っているうちに、いつかできなくなっている。口をあけて笑う、目をじっと見つめる、近づいて空気を嗅ぐ。知らず知らず、していることがある。わかったような微笑、繰り返す相槌、決して縮めない距離。お前はまだ草原にいるか、好きな花があるか、摘む勇気があるか。広野が恐ろしいか、原色がまぶしいか、もう夏が来ないと思っているか。雑草を踏みしめるべし、棘を腕に受けるべし、蔓を足に絡めるべし。叫びをぎんぎん響かせろ、血管をぶちぶち膨らませろ、汗をびゅんびゅん吹き上げろ。お前の命はここにある。
 確かに、今年の8月は暑かった。京都市の7月の平均気温と日照時間は、平年を下回ったのに、梅雨明け後一気に気温が上昇し、8月の猛暑日は18日、真夏日は28日を数えました。エアコン、扇風機が想定以上に売れたようです。詩人はコンビニエアコンを買いましたが、あれは気をつけないと冷風は来ても室温が上がってしまうんですよね。
 さあ、9月はファッション。京都市下京区の大丸ミュージアムKYOTOで、「華麗なるハリウッド映画衣装展」を訪ねよう。「マイ・フェア・レディ」、「タイタニック」、「ラストサムライ」など、実際にオードリーやディカプリオが身に付けた衣装約40点はもちろん、デザイン画や写真を見ることができます。9月17日までです。
 まだまだ暑い9月は、ピカソで汗を流そう。「やっと子供の様な絵が描けるようになった」と本人が話した晩年、南仏・ヴァロリスの作品を中心に約140点、美術館「えき」の、「ピカソ展−子どものような純粋な心で」でどうぞ。10月8日まで。「顔」や「闘牛」などの陶芸、「パイプを持つ男」などの油彩、「顔」が描かれた丸皿などに注目。
 いや、秋は二条城。9月22日から11月25日まで開催される、二条城お城まつりはイベントがいっぱい。9月だけでも、23日の火縄銃の実演、28日の裏千家による大茶会、29日の井上隆平バイオリン演奏、29日から始まる狩野尚信生誕400年記念特別展など、盛りだくさん。土日祝は、人力車のガイドさんもいます。
 京都の秋に、萩は欠かせません。鈴虫が奉納され献句の短冊が吊される梨木神社や、東山の霊山観音で行われる萩祭りは見逃さないように。それ以外に、鷹峯の常照寺、一乗寺の詩仙堂、黒谷の真如堂、浄土寺の迎称寺、嵯峨野は二尊院の萩の花道、洛南の城南宮などで、清楚で可憐な花が見られます。
飽きることなく今を(2007年8月)

   「うるはしみ我が思ふ君は なでしこが花になそへて見れど飽かぬかも」

 夏の空は海の色。恐る恐る顔を浸けて、そっと目を開けたときの色。優しそうで、笑っていそうで、奥から手が出てきて連れて行かれそうな色。ぎらぎらしていて、じりじりしていて、すっかり染まってしまう色。でっかいようで、ずしんとくるようで、じっとこちらを見ている色。んんっと押さえつけられそうで、うつむいて歩いていたら 下からじろりとひと睨み。だけど退屈なときは、雲の学芸会でおなぐさみ。あれあれ、あんなところに象さん、戦艦、大遊園地。すっかり忘れていた、あのときの私。恐れを知らない、たわいない私。過去から来て、未来で待っている、生まれたての私。
 夏はでっかく行こうぜ。文化博物館では、「世界遺産「ナスカ展」〜地上絵の創造者たち〜」が開催中です。ペルーから借りたナスカ文化の遺産展示はもちろん、幅10mのスクリーンで体験するバーチャル地上絵は見逃せません。11日にはアンデス文明講演会、9月1日にはサンポーニャとケーナのコンサートもあります。
 おっと、古い話なら古い本で探せるよ。出町柳で電車を降りて、下鴨神社の納涼古本まつりに行こう。11日からの4日間で、38店が参加して自慢の古書を並べます。毎日先着500人に、主催の京都古書研究会特製うちわがプレゼント。11日と12日には、昔懐かしい紙芝居の実演があります。
 夏の恒例なら、五条坂の陶器まつり。暑い中、五条通の両側歩道に約500店が並んだ壮観は、行かなわかりまへん。京焼、清水焼はもちろん、九谷焼、有田焼など全国各地の名品が見つかるのがいいんです。今年は、繊細で優雅な品が目立つとか。値段は交渉しだい。10日までですよ。
 夏は妖怪だってば。第1回は境港で始まった世界妖怪会議、第12回の今年は太秦の映画村で開催です。25日からの2日間では、妖怪バンド、妖怪縁日、妖怪百鬼夜行と、何やわからんけど、面白そうなイベントが一杯。水木しげる、荒俣宏、京極夏彦、多田克己の4氏によるディスカッションもすごそうです
 8月は、松上げでしめておきましょうか。元々は洛北の山村に伝わるお盆の精霊送りですが、今は火災予防、五穀豊穣祈願も兼ねています。15日は花背、24日は雲ケ畑と広河原、25日には小塩と続きます。点火された松明が夜空に輝くさまは、豪快さと夏の終わりの寂しさを感じることができます。
波間に揺れる舟として(2007年7月)

   「青波に袖さえ濡れて漕ぐ舟の かし振るほとにさ夜更けなむか」

 織姫さん、彦星さん、1年ぶりの逢瀬はどうでしたか。不思議なもので、1年ぶりでも20年ぶりでも、会った途端に会話が始まる人がいます。懐かしむこともなく、すぐに時間が共有されるのです。きっと、違う場所で違う時間を過ごしていたとしても、同じ感じ方で生きていたのでしょう。同じ濃さで、動いていたのでしょう。その反対に、懐かしいだけの人ならば。ただ、昔の話だけが続く人ならば。ああ、そこには失われた思いがある。過去と呼ばれる、飾られた悲しみがある。私の知らない、他人の自分がいる。
 京都の夏は電車で探して、バスで回ろう。京都市観光協会が作成した、「京の夏の旅」中吊りポスターを、今JRや地下鉄で見ることができます。延暦寺大書院や平安神宮尚美館などの貴賓館巡り、広隆寺の弥勒菩薩半跏思惟像、高山寺の鳥獣人物戯画、妙心寺退蔵院の瓢鮎図を見学する教科書コースなど、どれも楽しそうです。
 バスが出る前に早起きをして、ハスの花を見よう。蓮の寺で有名な花園・法金剛院では、「観蓮会」が今月29日まで開かれています。平安時代末期にできた回遊式の庭園で、約80種類の花を見ることができます。白、ピンク、赤などの可憐な色は、まさに極楽浄土の花。またこれが、雨に良く映えること。
 花を見るより、動物の世話? 岡崎の動物園では、4月から獣舎を開放する「動物のお宅拝見!」を続けています。カバ、キリン、トラと来て、今月14日はゾウさんです。8日には、七夕スペシャル企画「あなたの夢叶えます」として、アシカ、カバ、ゾウ、バクなどへの、餌やりやブラッシングができました。
 いやいや、夏はビール大ジョッキどす。ビルの屋上とは違う、ちょっと変わったビアガーデン、上七軒歌舞練場の日本庭園へようこそ。1日汗をかいた後に、落ち着いた庭園で癒されながら、芸妓はんや舞妓はんのおもてなしを受けるのはたまりません。9月8日までの営業で、夜は11時までです。
 となると、衣装は浴衣。毎年恒例、函谷鉾町の京都中信本店では、祇園祭に合わせて、職員さんが浴衣姿で営業をしています。自分も浴衣を着て、宵々々山に繰り出したい人は、14日に府庁の旧本館へどうぞ。先着200人が、好きな浴衣を選んで着付けをしてもらえます。返却不要ですが、有料です。
雨でもし逢えたら(2007年6月)

   「さ百合花ゆりも逢はむと思へこそ 今のまさかもうるはしみすれ」

 梅雨の季節こそ、大きな傘、軽いジャケット、頑丈な靴で、しっかり歩こう。上を向いたら柔らかい雨、下を見たらかわいらしい花、横を見たら幸せそうな人。固く結んだ口を少し緩めて、ゆっくりと風を吸い込んでみよう。強張った耳をほぐして、遠くからの呼ぶ声を聞いてみよう。そうして、目よ。お前は何を見る、何を感じる、何に出会う。そう、6月は美と花に出会う月。
 20世紀初頭、舞台芸術の天才と呼ばれ、ロシアバレエに革新をもたらせた人がいます。そのディアギレフの世界を、当時のままの衣装、素描、写真などで紹介する「舞台芸術の世界」展が、国立近代美術館で開催されます。ピアノコンサート、ダンスパフォーマンスや、講演会もあります。7月16日までです。
 お隣の京都市美術館では、新人の登竜門としてお馴染みの「京展」が、21日まで開かれます。今年は、日本画、洋画、彫刻、工芸、書、版画の6部門で、全国各地から835点の応募があり、入選作は455点でした。型にはまらない、あっと驚くような発想と斬新さは、いつも楽しみです。
 さらに隣の京都会館では、五花街の合同伝統芸能特別公演です。16日と17日だけ、祇園甲部の「都をどり」、宮川町の「京おどり」、上七軒の「北野をどり」、先斗町の「鴨川をどり」、祇園東の「祇園をどり」が、一度に見られます。公演が終わったあとの夜に、老舗の料亭で京料理を楽しむ趣向もあります。
 祇園の楽しみは、祇園祭の山鉾巡行。見るだけでなく、一度曳いてみませんか。20年以上前に始まった、この「曳き手ボランティア」。住所、国籍に関係なく、氏子や町衆でなくても、18〜40歳の男性なら参加できます。今年はもう締め切られましたが、24日には事前オリエンテーションが行われます。
 梅雨に似合う花は、あじさい。大原の三千院、伏見の藤森神社、宇治の三室戸寺などで、それぞれ自慢のあじさい園が公開されます。変わったところでは、「沙羅双樹の寺」と呼ばれる、妙心寺塔頭の東林院。雨ですぐ散ってしまう、沙羅の木に咲いた白いはかない花(実はナツツバキ)を、見ることができます。
薫風に見つける永しえ(2007年5月)

   「山吹の花の盛りにかくのごと 君を見まくは千年にもがも」

 桜の季節が終わり、都では山吹、つつじ、杜若などが、新緑に輝いています。5月は調整の月。4月の緊張の後に慌しい連休で待ったをされ、気温と体温の上昇に気持ちがついてきません。そんな時、もっと頑張ろうと自分を奮い立たせる必要はないのでしょう。気力は既に、内に秘められています。放出よりも充電、発散よりも考察。となると、科学。日常のふとしたところに科学心を向けると、世界の不思議が見えてきて、自分とは何かが見つかります。さあ今、京都に科学はどこにある?
 春の最後を楽しませてくれたのが、遅咲きで有名な仁和寺の御室桜。ちょうど目の高さくらいで花が咲いて、その様はまるで花の渦。応仁の乱後に植樹された、この貴重なサトザクラを後世に残すため、生態調査が始まります。樹勢調査、土壌調査、DNA鑑定を行い、クローン培養で万一の枯死に備えます。
 西本願寺では、宝物を電子画像で保存する試みです。書院のふすま絵、障壁画、天井画など約2400点を、デジタルアーカイブ技術で保存し、将来修復する際の基礎データとします。ここで使われるのが、5億画素のデジタルカメラ。顔料の成分、色落ち過程、塗り方の使い分けなどが、高密度に分析されます。
 次は、「葵プロジェクト」。かつて上賀茂神社一帯に自生して、神社の象徴とされたフタバアオイを復活させる試みです。既に賀茂小学校の児童達が、ビオトープで株を増やし、境内に移植することを始めています。また、徳川家康縁の「葵使」にちなみ、静岡市の久能山東照宮に葵1株を奉納しました。
 葵祭の行列が到着するその上賀茂神社では、11世紀以来続いている競馬(くらべうま)会神事が5月5日に行われ、12頭の馬が「右方」と「左方」に分かれて健脚を競いました。「左方」が勝った年は豊作だと言われていますが、結果は「左方」の3勝2敗1分けでした。さて、馬と農業の因果関係の分析は?
 では、大原女が頭に載せた、柴の力学的考察は?5月16日〜31日までの、「大原女まつり」で確かめよう。時代行列、しそ苗植え体験、大原女衣装による散策など、何かが見つかることでしょう。毎土・日・祝日には、三千院、浄蓮華院、蓮成院で、お香の香りに包まれてコンサートが開かれます。
花の降る中我は行く(2007年4月)

   「ふふめりし花の初めに来し我れや 散りなむ後に都へ行かむ」

 桜は、別れと出会いをもてあそぶ、豊満な女神。花が咲く頃に人は別れ、狂乱の満開に人は出会い、やがて散る風に思い出を知る(某詩人)。ちょっと気障でしたが、やはりこの季節に似合うのは、弾き語りよりカラオケ、そぞろ歩きより新歓コンパ、珈琲より日本酒。浮かれて酔っ払った方が勝ちとまでは言いませんが、硬いことは抜きの気分になるのは仕方がありません。今年は開花予想が右往左往しましたが、京都ではちょうど入学式や入社式の時期と重なりました。新人たちが、浮かれすぎず、高ぶりすぎず、世の中と自分を信じて、生き方を見つけられんことを。
 花見に行くなら、自転車タクシー。ドイツ生まれのこの「ベロタクシー」、2002年から新風館周辺でのみ営業していましたが、人気は今ひとつ。4月1日から規制が緩和され、新風館から半径3キロまで運行区域が広がりました。これで西は二条城、南は京都駅、東は平安神宮から銀閣寺まで、行けるようになりました。
 その平安神宮がある岡崎、疎水沿いの桜を見るなら舟。5月6日まで行われている、「岡崎桜回廊十石舟めぐり」でどうぞ。蹴上から乗り込み、仁王門通沿いに動物園、美術館、みやこめっせを通り過ぎ、北から西へ、冷泉通の夷川ダムまでの25分間です。岡崎公園一帯の「桜まつり2007」も、イベントが盛りだくさんです。
 4月4日から8日まで一般公開される京都御所へは、地下鉄が便利。今春のテーマ「御所の年中行事」のとおり、正月歌舞「踏歌節会」、「新茶御口切り」、「七夕」などの催事が、人形によって再現されます。7日の雅楽、8日の蹴鞠も見逃さないように。御苑では、ゆったりと桜が楽しめます。
 御所を出て、今出川通から出町まで行って、鴨川を歩いてみよう。北大路の「なからぎの道」まで来れば、「鴨川茶店」に出会えます。花見団子と煎茶の茶席、琴や尺八の演奏、特産品即売コーナーなど、楽しさいっぱい。啓発コーナーでは、環境問題を考えて見ましょう。4月7日と8日の2日間です。
 桜が終わったら、京都駅からバスに乗って「鳥羽の藤」を見に行こう。京都市上下水道局鳥羽水環境保全センターの一般公開で、120メートルの藤棚回廊が楽しめます。樹木当てクイズ、クイズラリー、災害用備蓄飲料水「京の水道 疏水物語」の配布などのほか、水処理施設の見学もできます。4月28日と29日です。
ひばりよ都を潤せ(2007年3月)

   「ひばり上がる春へとさやになりぬれば 都も見えず霞たなびく」

 3月の第2週は寒が戻りそうですが、今年は暖かい3月です。梅はもちろん、連翹、沈丁花、辛夷まで、すっかり花開いています。こうなると大変なのが、開花予想。天気予報はかなり正確になりましたが、こちらはまだまだ。まあ、あわてずに花が開くのを待ちましょう。この季節、花粉には困りますが、もっと気になるのが西からの飛来物。地球の回転で防ぎようがないのですが、最近は砂以外の汚染物があるので要注意です。
 春はお雛さんから。京都国立博物館では、4月8日まで「雛まつりとお人形」展が開催中です。寛永雛、元禄雛、享保雛、次郎左衛門雛、有職雛など江戸時代の雛人形などとともに、今年は旧家から寄贈を受けた、江戸時代後期の幅3メートルの御殿飾りがお披露目されます。御所人形などの京人形も飾られます。
 今年も来たぞ、花灯路。清水寺、円山公園、八坂神社から青蓮院までの散策路に、約2400本の行灯が灯されます。更に、円山公園内の小川には青竹の灯籠が置かれ、周辺の青蓮院や高台寺が華やかにライトアップされます。これはもう、行くしかないでしょう。と言いながら、東大路を渡り飲みに行く詩人でした。
 酒は本で学べ。8世紀に渡来系氏族の秦氏が創建したとされる、松尾大社を紹介する本ができました。醸造の祖神として、酒造会社などから信仰されている大社ならではの、酒にまつわる神事や祭神がわかりやすく解説されています。写真、年表も充実していて、楽しく学べます。
 次は映画だ。太秦では、16日から21日まで、嵐電・帷子ノ辻駅、太秦駅から大映通り商店街一帯が、映画一色に染まります。この京都太秦シネマフェスティバル、映画ポスターによる電車車両のラッピング、映画村での戦国祭り、東映と松竹の撮影所探訪、映画づくりフォーラムなどが予定されています。
 最後は厳かに。向日町の向日神社と言えば、奈良時代創建で、「延喜式」記載の乙訓郡19座の1社ですが、4月8日まで同神社保管の宝物が公開中です。今回は重文を含めた棟札8枚が初めて公開されるほか、「日本書紀」神代紀下巻、麒麟の彫金が施された「赤地錦玉巻太刀」などが展示されます。
梅にうつろう心(2007年2月)

   「うぐひすの鳴きし垣内ににほへりし 梅この雪にうつろふらむか」

 北と南で、極端に天気が違う日本列島です。京都はなにやら春めいてきましたが、まだまだ寒の戻りがあります。寒いときは背中を丸めないで、堂々と胸を張って歩くか、いっそのこと走り出すとすかっとします。師走を過ぎて新しい年になっても、走る人は走っています。先月、全国都道府県対抗の女子駅伝が終わったかと思えば、2月も木津川マラソン、全国車いす駅伝競走大会、はたまた第1回京都議定書マラソン&ウオーキングと、色々続きます。さてさて、走る話題と言えば。
 今年も来ました、京都駅ビル名物「大階段駆け上がり大会」。4人1組で、171段、全長70メートル、高低差35メートルを駆け上がり、時間を競います。45歳以上の人と女性を一人含めば、後はどんな格好でどう走ろうと自由。走りに自信がある人も、目立つのに自信がある人も、勝負は2月17日の土曜日だ。
 地下鉄東西線が、順調に延びています。平成19年度の開通に合わせて、京都市交通局では新駅の名前を募集中。西大路御池交差点西側の仮称「西大路」と、天神川御池交差点西側の仮称「天神川」です。わかりやすく親しみやすいもので、他駅の名称と調和する名を、みんなで考えよう。2月20日締め切りだ。
 35年間の夢、京都縦貫道の全線開通も近いぞ。未整備区間だった、京丹波町の「丹波綾部道路」26・6キロが2014年度に完成し、久御山町から宮津市までが99・6キロで繋がります。更に、大山崎JCTで名神高速道路と接続されることで、まさに京都の「背骨」となるのです。
 梅の季節に間に合うように、完成しました。梅宮大社の境内南側にある、入り母屋造り本瓦葺2階建ての、楼門です。約180年ぶりとなるこの修復作業では、2階屋根裏から昔の棟札も見つかりました。これで、同大社ゆかりの仁明天皇、生誕1200年である2010年に、臨むことができます。
 おっと、こちらは1000年か。千玄室・裏千家前家元ら有識者8人の呼びかけで、京都府、京都市、京都商工会議所、宇治市などにより、「源氏物語千年紀委員会」が設立されました。京都文化博物館での「源氏物語大展」、高校生らによる百人一首かるた大会、京都工芸・美術ビエンナーレ展などが企画されています。
愛おしさを雪にこめて(2007年1月)

   「白雪の降り敷く山を越え行かむ 君をぞもとな息の緒に思ふ」

 インスタントラーメンよ、永遠に。百福さんに合掌。詩人はラーメンが大好きですが、インスタントラーメンには随分お世話になっています。今や、全国名店のラーメンまでインスタント化されていますが、おそらく今まで一番食べたのはチキンラーメンでしょうね。またあの独特の味が、ご飯に良く合うんです。栄養がどうのこうのではなく、小さいときから食べ親しんだものが体に一番、というのが詩人の持論です。
 今年は、亥年。猛進ではなく、着実な前進を期待します。都府内の、亥年生まれ人口総数は22万5986人で、府内総人口の8・5%を占めます。中でも、いわゆる団塊の世代の昭和22年生まれが、4万9301人と最も多く、その次は昭和58年生まれの3万9556人です。
 初詣を済まされた方も、もう一度どうですか。洛南保勝会による「伏見五福めぐり」が、15日まで行われていますよ。御香宮神社、長建寺、藤森神社、大黒寺、乃木神社(もちろん順不同)を回って、かわいい猪が書かれた色紙に授印を集める趣向です。全部集めると、記念に猪の土鈴がもらえます。
 回るついでに、おいしいものをいただきましょう。御香宮神社では、7日に七草粥が振舞われます。西院の春日神社でも、同じ日にいただけます。15日には下鴨神社で、神事の後に小豆粥と大豆粥が接待されます。逃した方は、8日から31日までに妙心寺塔頭・東林院で、法要「小豆粥散飯式」に参加しましょう。
 次は買い物。大型店を出すには、なかなか土地が見つからない京都市内でも、新設届出が相次いでいます。京都駅八条口では、東京の不動産業者により、100以上の専門店が集まるショッピングスポットが計画されています。それ以外でも、西院駅前、四条河原町周辺などで、話が進められています。
 未来と伝統の共存は、京都ならでは。京都国立博物館では、新春特別展覧会「京都御所障壁画」と銘打って、京都御所のふすま絵約二百面が公開されています。御所の御殿の多くは江戸時代の再建ですが、この展覧会はなんと、再建152年目での初公開となります。2月18日までです。

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