保存書庫について
・阪本龍門文庫は吉野川沿岸の山峡で年中湿気が極めて多く、平地に乏しい人家密集の町つづきで 火災の憂えも少なくありません。その上水害をも考慮する必要があり、古書保存の条件にはむしろ 恵まれておらず、保存書庫の防火防湿に対しても細心の注意が必要です。建てたまま放置しておい ても出来る限り安全を保てるような施設をと、現在の書庫が建設されました。
・床を高くあげて湿気を防ぎ、周囲の壁を厚く堅固にしてコンクリートの表面に何の塗装も加えず、 上壁に空間を置いてコンクリートの頑丈な屋根を別に打つことで、雨と共に夏の暑熱を防ぎ、庫内 の温度の上昇を緩和させました。軒を深くして壁面の濡温を避け、樋をかけずに雨水を流下させる ことで吸湿を防ぐよう、また屋根は勾配を弱くし、ロンプルーフをはりました。
・庫内は外部の湿気が内室へ進入しないよう、コンクリート壁の内部に鉛を張り、断熱材を二重に 張って檜の板壁との間の中空地帯には空気の対流を防ぐためガラスウールを詰め、外部における温 度の変化が速やかに内部に影響しないよう考慮されています。従って室内の温度が一定になった好 条件のときに密閉すれば、室内の温度をほぼ一定に保つことが出来るというわけです。
・入口に小さい副室を用意したのは防火防湿の用意に加えて、日光の直射による古書の損傷を避け るためです。副室も本室と全く同様の設備を持ち、扉は内外ともに堅牢な書庫扉で安全を考えまし た。特に扉枠を取り付ける周囲に留意し、中扉の内側は外気の湿気が好条件ならば上下を簡単に網 戸に入れ替えて外気が通るよう工夫されたガラス戸を取り付け、照明の設備ももちろん漏電等の心 配のないように配慮しました。
・また、書庫入口のコンクリートの踏板(これに金属製のハシゴをかけて昇 降する)の設備等にも防湿が施されています。屋根の勾配等も、流水と太陽の輻射との関係を調節 工夫しました。内壁の檜板は阪本家所有の山林中の良材を使用し、また内部の桐製ガラス戸附書棚 は全部新調で、その桐材には故千代子夫人が阪本家へ嫁がれた際に持参された箪笥長持の良材をも って当てられています。このように書棚の設計には、保管と収納との便宜に数々の留意が加えられ たのです。