『EDEN』〜episode1〜




オレ達が産まれる ずっと前から、変化は起きていた。
風も雲も太陽も… 変わった事は何も無いのに、気が付いた時には 人にだけ「女」と言う性別が産まれ無くなっていた。 
何処に有るのか知らないけれど、天国と言う場所から神様が覗き込んだ時、「忍」だけが好き勝手に殺し合っていて  何時まで経っても悔い改める事の無いオレ達に、愛想を尽かした結果なんだろう。
皆、どうして良いのか分らなかったから 何もしなかった。
何人かが「忍」を辞めたが、何も変わらなかった。
「忍」を辞めた誰にも、救いの道は現れなかった… 
「女」が産まれ無くなった理由を他里の奴等は、ウチの一族の所為にしたがっていた。
オレの里には、九尾の人柱力と大昔、中途半端に終わった「月読計画」で産まれた十尾が居るから、言いたくなる気持ちも分かる。
その内、何処かの誰かが禁術に手を出して オレ達は、以前の様に増え続ける事が可能になった。それが良かったのか 悪かったのかは、正に神のみぞ知るってヤツだ。

森の中に漂う殺気に 先ず最初に草叢に潜む虫達が 最後に大型の獣が、気配を消して行った。
黒い衣にプロテクターを着けた少年の銀糸が汗で額に張り付く。直、後ろに控えた黒髪の少年は、 微かに上下する目の前の細い肩だけを見詰めていた。

『…オレだって、もう12だし 自分の結婚相手位 自分で探します。フガクさんの気に入る相手じゃ無いかも知れないけれど もう、決めた事だから。』
(イヤ、眼の周りにゴーグルの跡が付いてるし…サイズ、合っているのか?それ。 ウチの一族は、無駄に美形揃いだから、オビトみたいなアホは苦労するな〜 フツウの家に産まれれば、お茶目な二枚目君として、お茶の間の人気者になれたのに…)
自分を見つめる真っ直ぐな眼差しから視線を反らす様にフガクは、首を僅かに右に回し、ポスター程の大きさに引き伸ばされた写真を眺めた。貼られている場所が、ベッドを押し付けた壁なのが気になったが お年頃なので敢えて触れない事にしてあげた。
『あの方に似て物凄い美人になるな…』
『えっ!ちょっ… コイツは、関係ねェし! つーか、コイツが誰なのか知っているのかよ!』
フローリングの床に正座していたオビトが勢いよく立ち上がる。その様子を見て、フガクが鼻で笑う。
『生憎、自分の一族以外の人間には、興味が無くてな』
『なんぢゃそりゃーーーーっ!!! 畜生、任務から帰って来たらビックリすんなよ!一族、云々言ったって アイツに帰る家を作ってやりたいオレの気持ちは ジイさんの名に懸けて変わらねェからな!』
人差し指で、フガクを指すと足音荒く廊下へ飛び出した。満開の桜の木の下 銀糸に薄紅色の花びらを乗せた “ 美人”が微笑む。遠く過ぎ去った日の記憶は、果てしなく甘い。膝の上には、朱塗りの弁当箱 きっと、三代目辺りを誑し込んだ戦利品だろう… 涼しげな目元 真珠を思わせる肌の色と艶 下唇の方が少しだけ厚いのも同じだと思った。
『アナタに恋い焦がれなかった忍なんて この里に居ません』写真に触れながら、フガクはそっと呟いた。

(二人…否、三人か?)顔の半分以上を覆う口布の下で僅かに息を切らしながら銀糸の少年が、辺りを探る。

『んー… どうして、カカシは そんなに暗部に入隊したいのかな?』
自らの立場を激しく主張する長衣を着た恩師の言葉に、カカシは何を今更と呆れ返った。
『四代目が壊した火影岩の修繕費を師であった父が肩代わりして、その借金が、家と土地を売っただけでは足り無いので より高級な賃金を稼げる部署に異動したいだけです。気にしないで下さい 父の形見の刀だけは貰えましたから。』
カカシの言葉に、ミナトは深く溜息を吐いた
『カカシ…一度だけでも良いから、肩の力を抜いて生きてご覧? 君が言う借金の殆どをフガクさんが助けてくれたし オレや先生だって、少しだけれど払ったよ? 君からの返金を、うちは一族は、一度も受け取らないよね?誰かが、君に金銭の催促をしたのなら、教えてくれないかな?』
カカシは黙って首を横に振るだけだった。
『先輩が暗部に行くのなら僕も、ご一緒します。』
木遁で出した蔦で頭の天辺から爪先迄、覆い 顔の部分だけ丸く出したヤマトが、火影室の天井からぶら下がりみょーん、みょーんと揺れていた。
『ヤマト お前…家位、木遁で出せるだろう』
みょよ〜んと、揺れるヤマトを眼で追うカカシにミナトが微笑む
『ん!アルファーファーだよvカカシ 癒しの空間だよ。猫君にじゃれ付いても良いんだよ!ほらっ!此処に、猫耳と尻尾が有るよv可愛いね!』
自分が褒められた訳でも無いのに、瞳をキラキラさせながら、回転を始めたヤマトをカカシは無視した。
『…先生、マイナスイオンの事ですか?今のコイツと何の関係が… あっ!思わず、先生って呼んじゃいましたよ。』
悔しそうなカカシを、ミナトとヤマトが嬉しそうに見ていた。



(兎に角、オレは この任務を成功させて、暗部に行く。金で うちは に縛られるのは御免だヨ 毎回、監視役のバカと組ませられるのも、今日が最後でショ)カカシは、父の形見の刀を強く握りしめた。



風が止んでいるのに、木の葉が揺れた。 火薬の匂いに混じる血の匂い(来た!)カカシの背後でオビトが印を結ぶのが、チャクラの流れで感じ取れた。
「バカ!仕掛けられて、直に喰い付くな!!」
カカシの叫び声を掻き消す様に、豪火球が敵の一人を包み込んだ。