6月15日
                                                      (画像をクリックすると、大サイズで見ることが出来ます。) 

    AM6:45 桃の木小屋出発
              前夜、かなり激しく降っていた雨は、随分小降りになった。
              同宿の二つのグループには先行してもらい、一番最後に小屋を後にした。
              川の向こう岸にそそり立つ、平等ーを眺めながら、急な坂道を下る。
              まもなく落差130mのニコニコ滝が現れる。
              雨が続いているせいか、水量は、非常に多い。
              このあたりは、特に狭くて急な道が多く、まさに峡谷と言う感じがぴったりだ。
              吊橋も随所にあるが、どの吊橋も比較的新しく、しっかりしているので、
              安心して渡れる。
              

    AM8:25 シシ渕到着
              今回のもう一つの目的地である、シシ渕に着いた。
              深い紺色の水に、静かに身を沈める大きな岩と、川の両岸に切り立った岩とが
              独特の景観を作り出している。
              ここまでの大杉谷は、岩盤を駆け下りるような急な流ればかりだったが、
              この場所は、川幅も広く、流れもゆるやかでゆったりしている。
              ここ数年、奥吉野の川や渓流、滝などを多く撮影してきたが、
              どこか今まで見た風景とは違う気がする。
              川や水の美しさなら、下北山の前鬼川の方がはるかに透明で美しいし、
              滝なら、同じ下北山の不動七重の滝や、天川の双門の滝の方が、豪快で迫力がある。
              にもかかわらず、ここ大杉谷にはどこか他と違う雰囲気が漂っている。
              厳しい自然と、アクセスの悪さで、入山者が極端に少ないために、
              人の匂いがほとんど感じられないためだろうか。

    AM11:00 千尋滝到着
              この登山の最後の滝になるであろう、千尋滝に着いた。
              落差135m、大杉谷中最高落差の滝である。
              しかし、下半分は、手前の樹林に隠れてしまって、ほとんど見えない。
              何とか全景を写せる場所はないか探してみたがだめだった。
              せっかくの大きい滝なのに残念だ。
              この滝の真正面にも避難小屋があるので、少し早いが昼食にすることにした。
              桃の木小屋で作ってもらったお弁当。ご飯に梅干と佃煮。卵焼きが一切れ。
              それだけのお弁当だが、何と美味いこと。小屋のスタッフの方達に感謝。
              考えてみれば、この避難小屋と言い、吊橋と言い、途中危険な個所には必ずある鎖と言い、
              地元の方々が大変な苦労をして造られたのだろう。
              そのおかげで私のような、登山の素人でも安心して入山することができる。ひたすら感謝だ。

    PM12:06 千尋滝出発
              ここから終点の登山口までおよそ2時間。
              川もすっかり広くなって、それまでの急流が嘘のよう。
              川沿いの道を、小さなアップダウンを繰り返しながら、ひたすら歩く。
              時折霧が流れてきて、幻想的になるが、どちらかと言うと単調で退屈だ。
              そろそろ疲れも出てきて嫌になってきた時に、最後の関門の大日ーが見えた。
              川底からの高さ約160mの一枚岩がそびえ立ち、目を凝らしてみると、
              その岩の中央に、岩盤を削ってつけた道が、水平にのびている。
              「本当にあそこを歩くの」と一瞬たじろいだが、よく見るとしっかり鎖が打ち込んである。
              「まあこれなら大丈夫だろう」と、いつものお気楽な楽観主義者に戻り、ちょっと休憩。
              それよりも、宮川ダムが近いせいか、川の水の色が、今までとは一変していた。
              エメラルドグリーンでありながら、川底まで見えるような透明感。
              その深い色合いに目を奪われてしまった。          

    PM2:25 大杉谷登山口(宮川第三発電所)到着
              本来ならここから、宮川村営の観光船に乗って、ダムを下り、ふもとの大杉のバス停に着くのだが、
              船の最終便は、午後1時40分発なので、私たちのように撮影に時間がとられていると、とても間に合わない。
              そのため、今回は、東大阪市の岩田さんのご好意で、登山口まで車で迎えに来ていただくことになっていた。
              しかし、約束の時間は、午後4時。まだ1時間半もある。じっと待っていても仕方がないので、林道を下ることにした。
              一本道なので行き違いになることはないだろう。
              ただ、このことが、思いもよらない楽しい出会いをすることになった。


    番外編  大杉谷山荘 
              登山口より歩くこと30分。観光船の第二乗船場近くの林道沿いにこの山荘はある。
              飲み物を分けてもらおうと山荘に入って行くと、どこかで見たよう記憶が・・・・
              「すいません」と声をかけると、むくっと起きてきた(お昼寝中だった)髭面のご主人。
              その顔を見てすぐに思い出した。1年程前、あるテレビの番組に出演されていたのだ。
              一人っきりで、牛ややぎ、犬、猫などと一緒に暮らし、山荘を営業していると。
              独特の風貌と自然のままに生きる姿に鮮烈な記憶が残っていた。
              飲み物をもらい、少し話し出すと、日頃あまり人と話していないせいか?次々と話が弾み、終わらない。
              車を待っていることを話すと、行き違いにならないように道路で話をしようと、
              おもむろに椅子を抱えて、下の道路へ。
              その後は、昔の大杉谷の話や、大雨の話に、ヒルの話。
              とにかく、次々にいろんな話が出てきて、とどまるところがない。
              私にとっては、おもしろい話ばかりなので、退屈せずにひたすら聞き役に回っていた。
              ヒルの話では、実際に枯葉の上を、がさがさ歩いてヒルを何匹も登場させてくれた。
              その中でも特に秀逸だったのが、大雨の話。
              この辺りは、気象庁の降雨量の正式の観測点ではないので、正確な記録はないが、
              大台ケ原なんか全然問題にならないくらいの雨が降るそうだ。
              試しに降雨量を計ってみようと、わざわざ気象庁に電話して、正確な降雨量の測り方を聞いたそうである。
              数年前の近畿地方を直撃した台風の際には、300oまで計れる入れ物を一晩で、3回ひっくり返して、
              4回目の途中で寝てしまって、気が付いたらすでに溢れていたと言う。だからトータルで1500oは降ったはずだと。
              大台ケ原で、1日に1100o降ったのが日本記録で、世界第3位の記録だから、ここは世界一だと胸を張っておられた。
              これは、随分自慢のことのようだ。(数字は全てご主人の話)
              そんな楽しい話を聞いているうちに、1時間ほどがあっという間に過ぎ、迎えの岩田さんの車が来た。
              時間があれば、この山荘でもう一泊して、ゆっくりご主人の話を聞いていたいところだが、
              そういう訳にもいかず、山荘を後にした。
              
              素晴らしい風景に出会い、静かな渓谷を満喫し、そして最後に個性的な生き方をしておられる人と話が出来て、
              私にとっては、忘れられない2日間になった。

 

大杉谷作品集へ                   


このホームページの写真の著作権は、すべて梅本隆にあります。無断転用は、堅くお断り致します。  
       Copyright 2001 TAKASHI UMEMOTO Allright reserved.