吉外井戸のある村 M'S CLINICAL SOCIOLOGY
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■「トロイの木馬」ー北朝鮮の策謀が始まった■
昨年9月の「日朝共同宣言」から、来月でもう1年になる。拉致被害者5人の帰国はあった。しかしその後、北朝鮮の核開発疑惑、そして核開発を自ら認めることによって、問題が複雑化していた。だが、北朝鮮がついに動き出した。1つは対米向けの「6か国協議」の受け入れ表明である。もう1つが、日本向けの「拉致被害者の家族を帰国させてもよい」というカードによる日本への揺さぶりだ。
もちろん、これらを鵜呑みにすることはできない。あくまで北朝鮮の生き残り戦略から出た策謀であるからだ。「6か国協議」とは朝米2国間協議を引き出すためのつくろいとしての枠組みであるし(米政府も8月1日、北朝鮮と2国間で非公式協議を行なうことを認めた)、拉致被害者家族の帰国も当然、日本から経済援助を引き出すための好餌である。
ただし、家族の帰国は「無条件」に北朝鮮の一方的な「厚意」でなされる可能性も高い。なぜなら、この「家族」とはあくまで日本に帰国した5人の家族にすぎないからだ。これらの家族を帰したところで、北朝鮮には拉致被害者とその家族がまだまだいるのだ。数人の家族の帰国で日本政府と日本人に恩に着せることができるのなら、安い「贈り物」である。テレビなどでど派手に取り上げてもらえれば、これほどよい対朝イメージ宣伝はない。当然、日本国内の北朝鮮シンパも動きやすくなり、彼らによる「日朝交渉再開キャンペーン」の環境作りにもなる。つまり、拉致家族の帰国とは実は「トロイの木馬」である。
これら2つのことが策謀であることは、その情報伝達の怪しげさからも、そう判断せざるを得ない。「6か国協議」の受け入れは、まずロシア政府から明らかになった(7月31日)。だが、その前に中国には伝達され、それが胡錦涛主席からブッシュ米大統領にも伝わっている(7月30日。アメリカへの正式伝達は8月1日)。そして韓国にも「直に」8月1日伝えられた。「6か国」の内、日本にだけ直接連絡はない。ロシアと韓国への恩着せが込められている。
家族帰国の件についてはいっそう手が込んでいる。まず、韓国の新聞「大韓毎日」(インターネット版)が、「北朝鮮が蓮池・地村さんの家族(子ども)を近い将来、日本に帰す意向があることを30日、日本と韓国の北朝鮮消息筋を通して、日本国内の支援団体に伝え、さらに31日には正式に日本政府にこの意向を伝える」と31日に報じた。北朝鮮の何者かがリークしたわけだ。
これを受ける形で、日本政府は31日、非公式な打診(裏交渉の1つとして)があったことは認めたが、これをもっての拉致問題終結は受け容れられないとした。同日、拉致家族会の横田さんが会見を開き、奇妙な事実を披露する。29日、とあるNGOから電話が入り、情報の内容は明らかにせず、拉致被害者5人に「重大な情報を直接、伝えたい」と述べたという。横田さんは政府を通すように言って電話を切ったそうだ。
すぐに、その「NGO」[注1]とは、北朝鮮やアフガニスタンに燃料などを送っている東京の人道支援団体「レインボーブリッヂ」で、横田さんに連絡したのは小坂浩彰事務局長だと判明した。28日に北朝鮮で子どもたちと会い、手紙を預かったという。小坂氏は「人道支援で年数回訪朝」しているそうだ。また、「両親が日本にいることは言わないでほしい」と北朝鮮側から頼まれ、テレビの会見では「北朝鮮の人々はとても良い人たちだ」と何回も述べていた。どう考えても北朝鮮とは「特別に親しい」間柄だ。それに、横田さんの指摘の通り、どうして真っ先に政府を通じて申し出なかったのか。これは明らかに北朝鮮の策謀と言わざるを得ない。
[注1]「NGO」。すべての団体をそうだと言うつもりはない。だが、何と偽善や欺瞞を多く含んだ言葉か。「NGO」とさえ言えば「善玉」と決めつける価値づけを行なっているのはマスコミだ。言うまでもないが、「NGO」という言葉の意味に善も悪もない。
北朝鮮の策謀は、同時に韓国に対しても仕掛けられている。韓国の「太陽政策」推進派への援護射撃だ。「6か国協議」の受け容れが、(日本と違って)「韓国には直に伝えられた」と韓国新聞は囃し立てている。また、韓国向けの非難放送が1日から「中断」された。これで、関係3か国である米日韓国すべてに「宥和」策謀が仕掛けられたことになるわけだ。
最後に、まことにタイミングよく31日に起こった、「脱北者」と見られる10人がタイの日本大使館に駆け込んだ事件について述べておこう。彼らは、日本とは縁もゆかりもないのに「日本へ亡命したい」と言っているらしい。彼らは複数の家族らしく、タイに入国した時期や経路、また北朝鮮内の出身地もばらばらだという。2日現在の報道では、大使館側は「解決には時間がかかる」と述べているが、これは筆者の憶測を強める。
すなわち、もしかしてだが、彼らも北朝鮮から送り込まれた「トロイの木馬」かも知れないという疑念だ。彼ら自身が日本国内で破壊工作なぞをするというわけではない。しかし彼らが日本国内に居さえすれば、内外でいろいろ政治工作は可能だ。まず、国内の北朝鮮シンパが日本社会の中で孤立し自立できない彼らを「擁護」し、「人権問題」として日本政府の亡命家族への定住政策を一々まずいと非難してくれる。次に、朝日交渉での取り引きあるいは駆け引きとして、直接に亡命支援をしていると非難の言葉を浴びせることもできる。要するに、日本政府には解決困難な問題を1つ送り込むことになるのだ。
うまい話にろくなことはない、と言うではないか。甘い話に乗ってはいけないし、「人道」という言葉だけに踊らされてはならない。また、必ず次は強攻策に出てくる。北朝鮮は硬軟順繰りに揺さぶりをかけているのだ。日本政府と日本国民の採るべき道は、昨年、拉致被害者5人を救ったように取るべきものは取って、脅しに動じず守りをしっかりと固めることだろう。
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