mansongeの「ものぐさ本舗」第5号

こんな晩に…



 むかしむかし、一人の聖(ひじり)僧が、ある晩、百姓家にやって来て、「どうか、一晩だけ泊めて下さらんか」と言った。身なりから察すると、たんまりと金子を持っていそうなので、欲の皮が突っ張った百姓は「さあさ、どうぞ、お泊まりください」と、喜んで泊めた。

 そうして、その夜中に「お坊さん、お坊さん、枕がおはずれですよ」と言って、聖が頭を持ち上げたとき、押し切り包丁で首を切り落としてしまった。そうして、聖を殺して奪った金で、立派な家を建てた。

 それからまもなく、その百姓に男の子が生まれた。生まれつきの唖(おし)で、一言も口を利けなかった。その子が十二、三才になったある満月の夜、子どもが気むずかしい顔をしているので、父親が「どうした、小便でも出るのか。どれ、いっしょに行ってやるから、さあ」と言うが、立ちもしない。

 親父が「どうした、このガキ、親の言うことも聞かないで。そら、おれがいっしょに行ってやるから。な」と言うと、すっくと立ち上がって、外に出た。そしたら、「お父ちゃん、ちょうど今夜みたいな晩だったね」て言うんで、親父がハッと思って子どもの顔を見たら、あの聖僧とそっくりの顔で、じいっと睨んでいた。
(宮城県の昔話)



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