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田村隆一詩集『言葉のない世界』

夏の光り

おれは
ヨット乗りの絵描きと
上野駅の殺風景な構内で
神が到着するのを待っていた

午後六時三分の上野着で
神は千三百米の高原から
ワラビとシイタケを両手にぶらさげて
汽車からおりてくるはずだった

おれとヨット乗りは缶詰ビールをやたらに飲み
七時十五分まで待った
大西洋を十九日で横断したのは一瞬の出来事だったが
神が汽車に乗りおくれた一時間は
ちょっとながすぎるぞ
とヨット乗りはぼやいた

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