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田村隆一詩集『新年の手紙』

村の暗黒

麦の秋がおわったと思ったら
人間の世界は夏になった
まっすぐに見えていた道も
ものすごい緑の繁殖で
見えなくなってしまった

見えないものを見るのが
詩人の仕事なら
人間の夏は
群小詩人にとって地獄の季節だ
麦わら帽子をかぶって

痩せた男が村のあぜ道を走って行く
美しい詩のなかには
毒蛇がしかけてあるというから
きっとあの男も蛇にかまれないように
村の小宇宙を飛んでいるのだ

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