▲contents
田村隆一詩集『新年の手紙』
村の暗黒
麦の秋がおわったと思ったら
人間の世界は夏になった
まっすぐに見えていた道も
ものすごい緑の繁殖で
見えなくなってしまった
見えないものを見るのが
詩人の仕事なら
人間の夏は
群小詩人にとって地獄の季節だ
麦わら帽子をかぶって
痩せた男が村のあぜ道を走って行く
美しい詩のなかには
毒蛇がしかけてあるというから
きっとあの男も蛇にかまれないように
村の小宇宙を飛んでいるのだ
|previous|head|next|
Copyright(c)1996.09.20,TK Institute of Anthropology,All rights reserved