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田村隆一詩集『新年の手紙』
ある詩人の肖像
今日 六十歳のあなたの写真を見た
韻律にきびしく鍛えぬかれ
生の中心から燃えあがる炎に焼けただれ
深く大きな皺が刻みつけられた顔面は
まるで岩だ ペロポネソス戦役の提督だ
その鷲の眼は
恐怖と不安と人間の崩壊を観察してきた
あなたの攻撃目標は
部分で全体ができているにすぎないと
みくびっている全体主義者
部分のなかに全体がふくまれていないと
信じこんでいる部分主義者 だから
あなたの偉大な耳は沈黙の声を聞く
「ぼくらは互いに愛しあわねばならぬ
さもなければ死だ」W・E・オーデン
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