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田村隆一詩集『新年の手紙』
われらにとって夢とはなにか
われらは
われらの夢を見ることができない
ぼくはぼくの夢を見るだけだ
ぼくはきみの夢を見るわけにはいかない
たとえば
あの野原である
一本道だけ見えていてどこまでも歩いて行く
秋とも思えるし春とも感じられる
冬でないことはたしかだ
雪がないからだ 枯葉の音がしないからだ
だしぬけにA女が泣き出す
隣りの部屋の木の寝台の上で
おそらく死んだ母親の夢を見ているのだ
ぼくは彼女の母親を知らない
写真で見ただけだ
そして
夜明けになる
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