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田村隆一詩集・補遺
木
その名前もわからないのに
その大きな木の
その枝が垂れてきて
地上にまで垂れてきて
葉を落とし葉を落とし葉を落とし
紫色の実を落とし 黄金色の実を落とし
その葉はモルト・ウイスキーの色にも似ているし
またべつの葉は夕焼けの色
血液の色
その色が土の色に変るまでには
まだ時間がかかる時間かかる
その時間さえ
透明な空間を
螺旋状にゆっくりと
渦をまいて進行してくるのが
ぼくの眼にははっきり見えるのに
ぼくの眼にはどうしても見えない
その地下水
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