▲contents
田村隆一詩集・補遺

稲妻に関するノート

夏から秋へ
水平状に稲妻が走ることがある
あれはいったい
どういう放電現象なのか
ぼくの窓から地平線は消えてしまったのだから
火山 砂漠 都市の大火災 原子雲さえ
失ってしまったのだから
雷雲が発生するはずがない

樹枝状の稲妻
垂直状の稲妻
放光状の稲妻
それはみんなぼくの少年時代から青年時代にかけて
ぼくの記憶をつらぬき焼きつくした美しいデザインにすぎない

いま 閉ざされた闇のなかを
水平状に走る稲妻
そのイデオロギーの意味を
ばくは知りたい

previousheadnext
Copyright(c)1996.09.20,TK Institute of Anthropology,All rights reserved