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田村隆一詩集・補遺

私の島はあなたの島ではない

古い音楽が僕の胸をウツ!

夜の形のまま
僕の村は暮れる
村長は昔の想ひ出を繰り返へすやうに
彼の窓をひらく
光がその窓から流れる外側に
僕が昔のやうにゐる
村長の手のヒラは人生を思った

「道になら赤い花が咲いてゐる
咲いてゐる道が長いほど
お寺がこの村にもある」
鍋や花が僕の唇を濡らすなら
「僕は黙らねばなるまい」とも思ふ
あの日 僕の語った言葉は
遠い村民の唄にもなってゐた
唄は夜の形ではない
「樹を枯らしてはならん」
こんな形かもしれない

だから村長の手のヒラは人生を思った

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