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田村隆一詩集・補遺
むかし 人情の如く鶯が蹄いた
「ああ 殿様が白い歯で笑ったから落葉が散った」
技術的に想へば夏が過ぎた
坂がだらだらくだり 町人の行為からはじまる夕暮であった
家臣Mが殺ろされたのは たしか鶯の啼く茂みであった
それから サカヤキが青い樹になった
樹の上に一番星が光るので 殿様の行列が音もなく 消えてゆく
効果はサカヤキのそれより軽かった
「カタナでオマヘを斬った」
血が流れてオマヘも歳をとったナ と思ふ
そこで 月がカケる
殿様のヒゲから南方の島が見へた
一個の感情よりも 町人のアタマは島の形をしてみた
*
島は音楽と同じ程度に滅び
むかし 人情の如く鶯が啼いた
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