2.5V直熱管ハムと直流点火

                                                                                 

 直熱出力管のフィラメント点火については、ハム対策上、5V以上(71A、300B、6B4Gなど)は直流点火、低電圧のためハムが比較的出にくい45や2A3といった2.5V管は交流点火、というのがごく一般的です。じゃあ、中間どこのPX4など欧州4V管はどっちなんだとなると、使ったことがない(正確には高価過ぎて使えない)けれども、やっぱり交流点火じゃあ無理なんでしょうねえ。

 いくら出にくいとはいえ、2.5V管のハムもなかなかの強者で、スピーカーで離れて聞くぶんにはハム・バランサ+負帰還で気にならなくても、夜中にヘッドフォンを付けてとなると、ブンブンうるさいことこのうえ無し、となります。そこで、ヘッドフォンで「無音状態」が得られるには、どの程度の回路設計が必要なのか試してみたのがこのコーナーです。直流点火は「音が痩せる」などとして、SPボックスがミツバチの巣箱化した音を愛でてらっしゃる方もおられるようですが、私にはどうも・・・


 【交流点火の現実】半世紀以上を生きながらえて相当くたびれてはいるものの、「虎の子」の45が10本あります。まずは、交流点火でのハムレベルがどの程度なのか改めてチェックしてみると、下表のとおり個体差が大きいですが、みんな結構「おしゃべり」です。

 チェックに使ったのは、カソードのバイパス・コンデンサをなくして信号を出力トランス1次側から直接カソードに戻すロフチン・ホワイト・アンプ方式(ショートカット方式)のシングルアンプ(右下)。音質的には有利ですがノイズに弱いとされており、通常のカソード・パスコン型より1割前後終端ノイズが増える感じです。このアンプのB電源の残留リプルは0.11〜0.15mVですので、8Ω終端で出てくるノイズの大半がフィラメント・ハムと考えられます。

45 交流点火・無帰還時の8Ω終端ノイズ
個体@ 0.55mV
個体A 0.71mV
個体B 0.82mV
個体C 0.89mV
個体D 0.92mV
個体E 0.92mV
個体F 0.95mV
個体G 1.29mV
個体H 2.42mV
個体I 2.58mV

 現在は特性がそろっていて小細工なしで使えるAGを挿してますが、6dBちょいの負帰還の助けを借りてもGはまだ0.6mV残るため、ヘッドフォンでは耳元に「ブーッ」+「空気のよどみみたいな圧迫感」があります。


 【直流点火の基本回路】おしゃべりを減らす方法は二つ。個体@のような「無口」でなおかつ特性のそろったペアを手に入れる、もしくは直流点火にする――ですが、前者は時間と手間と根気もさることながら何よりも財力が必要ですのであっさりパスし、直流点火でいくことに。目標は傍熱管にひけをとらない8Ω終端でノイズ0.1mV前後(負帰還量6dB)を目指してみます。

 基本構成は下記の2種類。

     

 一般的なAタイプは、残留リプルが多くてもハム・バランサでハムを押さえ込める=整流直後の出力電圧、平滑フィルタ能力とも低めでOK、というメリットがありますが、電流量が増えるほか、大きな巻線型VRがシャーシ内にデンと居座って平ラグ配置に制約を受けるなどのデメリットも。一方、Bタイプのメリット、デメリットはAタイプの逆となります。


 【ヒーター巻線】 一般的な電源トランスのヒーター巻線は「0-2.5-6.3V」「0-5-6.3V」「0-5V」「0-6.3V」の組み合わせです。このうち、交流点火に使う「0-2.5V」は整流出力電圧の不足が最初から明らかなので除外、「0-2.5-6.3V」の2.5-6.3V間で生じる3.8Vのほか、5V、6.3Vでトライしてみました。
                                                           
 使用した電源トランスはノグチのPMC170M。ブリッジ・ダイオードは東芝「10B4B41」(100V、10A)=左側=と、新電元「D15XBS6」(ショットキ・バリア、60V、15A)です。






 【3.8V】 単独巻線の0-3.8Vではないので、当然、負荷を考慮したコイルの巻き足しはなし。無負荷でこそAC3.8Vが得られますが、1.5Aを取り出すと3.5V台に下がります。

 最もシンプルな構成で0.1mVを達成できたのが、ショットキ・バリア・ダイオードとAタイプの組み合わせ(右図)。

 通常型の東芝「10B4B41」では順方向電圧が高いため、整流直後電圧が2.65Vしか得られず、コンデンサを増量、π型フィルタを2段構成にしても結構厳しいです。

 Bタイプは、4段以上のフィルタ、膨大なコンデンサ容量が必要とわかり、途中でギブアップ。

  



 【5V】 0-2.5-6.3V巻線のないトランスも利用でき、A、B両タイプが作れます。

 Aタイプはショットキ・バリア・ダイオードを使う必要はなく、それでも整流直後電圧が出過ぎて10W型の抵抗が必要です。

 Bタイプはショットキ・バリア+フィルタ3段構成となり、抵抗は10W型1個+5W型2個、電解コンデンサ容量も計32900μFと、D51の3重連や豪華3重おせち的な大仕掛けになってしまいました。

 しかし、4700μFを中抜きして2段フィルタにすると、残留リプルが7.6mVに上昇、8Ω出力のノイズも0.2mVに増えてしまいます。

 一方、整流直後の8200μFを10000μFに増量すれば、そこで上昇した電圧分だけ平滑抵抗値を増やせるので、8Ω出力残留ノイズ0.1mVを達成できるはずです。


 【6.3V】 5Vに比べコンデンサ容量を若干減らせるものの、フィルタ抵抗の発熱量が多くて電熱器化するのが難点です。

 抵抗の消費電力はAタイプで約4.8W、Bタイプでは7W近くになってしまい、ブリッジ・ダイオードの発熱もこれまた相当なものですので、正直なところ、これら両ch分をシャーシに収めようという気には到底なれないです。









【簡単なまとめ】 ハム・バランサを入れたAタイプの場合、フィラメント・ハムが8Ω出力に0.1mVのノイズとして影響を与えるのは、フィラメント回路の残留リプルが130〜150mVを超えたあたりからのようで、180mVだと0.13mVになりました。一方、残留リプルを20mVまで減らしていっても8Ω出力のノイズに変化はなし。ということは、使用したアンプには他の要因(B+電源の残留リプルなど)で0.1mVのノイズが生じているということで、そっちを改善しない限りこれ以上フィラメント・ハムを減らしても無意味ということになります。

 ハム・バランサなしのBタイプは徹底的な残留リプル対策が必要で、リプルが10mV残れば8Ω出力への影響は0.3mV、同7mVで0.2mV、同5mVでも0.15mV程度の影響を与えます。0.1mV達成には3mV前半台にまで押さえ込む必要があるという結果となりました。

 また、直流点火すれば、交流点火の時のような真空管のハムレベルの極端な個体差はほとんど見られなくなりました。

 フィルタ抵抗の発熱やコンデンサ容量などを考えると、71A(5V,0.25A)のようなフィラメント電流の少ない球はBタイプ、そうでない場合はAタイプを基本にするのが合理的のようです。(2013.10.05)


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