全3段直結2A3/45互換アンプ・修正版

                                〜ロフチン・ホワイト・アンプの現代化を目指して〜






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【はじめに】 ここでは、低域特性の問題や音色への違和感など、試作版のいくつかの課題改善に特化して触れています。回路構成など全体像把握のため、まずは試作版に目を通しておいて下さるようお願いします。


【出力段の変更点】 出力トランスをタンゴFW−20SからタンゴU−808に変更したほか、出力管の定電流駆動を止めて固定抵抗によるカソードバイアスに組み直しました。また、出力トランスの1次インピーダンス切り替えスイッチを新設、45を負荷5kΩで駆動して歪みの低減を図りました。

 試作版でも少し触れましたように、私が使ったFW−20S固有の問題かもしれませんが、このトランス、お値段の割に低域特性が芳しくなくて、6dB程度の負帰還をかけているのに0.5Wも食わせれば20Hzあたりから下が全く伸びません。段間コンデンサのない直結回路ですので、低域レスポンスに影響を与えるのは基本的に出力トランスだけですが、予想を超えるひどさに思わず回路構成に何らかの問題があるのでは? と疑ったほどでした。そこで、ドライバ段までの周波数特性を計ってみましたが、当方の測定機器の限界の5Hzまで0dBフラットと全く問題なし。そこで、同じ20W級でも安価なU−808に載せ替えたところ、案の定、20〜30Hz以下の周波数特性や100Hzの歪み特性が大幅に改善されました。

 U−808を使った修正版の方が試作版より負帰還量が若干多いのですが、下図左のように低、高域ともきれいに伸び、シングルアンプとしては申し分ない状態です。

  2A3修正版(U-808)  9.5Hz 〜 110kHz (0dB/-3dB)    2A3試作版FW-20S)  18Hz 〜 95kHz (0dB/-3dB)
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  45修正版(U-808)  22Hz 〜 82kHz (0dB/-3dB)    45試作版FW-20S)  70Hz 〜 88kHz (0dB/-3dB)
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 両出力トランスの違いが歪率にどう現れるか、を比較したのが下図です。

 【2A3】修正版は100Hzの歪みが全出力域で大幅に減りました。基本的には出力トランスの低域特性の良否だと思われます。10kHzについては両者のカーブはほとんど変わらず、1W以下の領域で修正版の方が歪みが少なくなりますが、それも負帰還量の差に見合った程度の減少です。1kHzの場合は、FW-20Sの方がやや低歪みで素直な曲線を描きました。

 修正版は100Hz、1kHzのラインが0.1Wで鋭角的に底を打ったあと少し波打ちながら上昇して行きます。これは、ドライバ管を6922から6DJ8に変更した結果、2A3との歪み打ち消しがうまく「壷に嵌った」ためのようで、10kHzについてはなぜか変化がありませんでした。

 【45】カーブの傾向は修正版、試作版ともよく似ていますが、修正版の方が負帰還量の多さを考慮しても歪みが大幅に減少しました。また、最大出力(1kHz歪み5%)も試作版の2.3Wから2.8Wにアップしており、いずれも出力トランスの1次インピーダンスを3.5kΩから5kΩに変更した結果だと思われます。

  2A3修正版(U-808) ドライバ管6DJ8  NFB6.9dB   2A3試作版FW-20S)  ドライバ管6922  NFB6.1dB
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   45修正版(U-808) ドライバ管6DJ8  NFB7dB    45試作版FW-20S)  ドライバ管6922  NFB6dB
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 修正版を作る羽目になった最大の動機は、試作版の最後に触れましたように、「決して悪くはないんだけれど、どうもしっくりこない音色」への不満です。「具体的にどこがどうしっくりしないんだ」と言われてもうまく説明できないのですが、とにかく「私の耳には心地よくない音色」でした。

 つたない経験と頼りない脳ミソをフル稼働させて消去法でたどりついたのが、「出力トランスの個性もしくは、出力段安定化のため採用した定電流駆動のせいでは?」ということ。

 そこで、試作版の片chのみ定電流バイアス回路を外して固定抵抗カソードバイアスに組み替え(右図参照)、モノラル音源を入れて左右の音を交互に聴き比べたところ、「聴き心地」に明らかに違いが出ました。

 定電流回路はどちらかというとクリアな音色ですが「生演奏の雰囲気が感じにくい」印象です。外した方は、定電流方式に比べややトロ〜リとした音色ですが、受ける雰囲気がより現実に近いというか、とくに人声がそれなりに人声らしく再生されると感じました。

 これはもちろん、各人の「好み」に関わることですので、定電流回路をけなすつもりは全くありません。固定抵抗を使ったカソードバイアスに比べて熱暴走の恐れがより少ないほか、球の差し替えが抵抗値を変えずにできるなど安定性と柔軟性が非常に高い回路ですし、定電流回路の音色を「好み」とされる方もたくさんいらっしゃるのではと思います。

 それにしても、動作条件は図の通りほぼ同じなのに、なぜ音色が違うのでしょうねえ?


【ドライバ段の変更点】 6922から6DJ8に差し替えました。両者の違いは6DJ8の方が若干ヒーター消費電力が多い程度で、特性はほぼ同一です。替えた理由は手持ちの6DJ8の方が6922より左右の利得がそろっていた、というだけのことです。


【初段周りの変更点】  左右の利得バランスを取る役割も果たしている負帰還回路の調整をやりやすくしました。試作版では下側2SK30Aのゲートに繋がる負帰還回路の受け側抵抗を50Ω半固定抵抗に、送り出し側抵抗は2A3側を820Ω固定、45側は1kΩ半固定抵抗にして、まず2A3の負帰還量を受け側半固定抵抗で調整した後、45の送り出し側半固定抵抗の値を変えて45の負帰還量を変えていました。しかし、この方法ですと、2A3の再調整をした場合は必ず45の再調整も必要になって手間がかかります。

 そこで、受け側を27Ω固定にし、2A3の送り出し側も1kΩ半固定に変更しました。これですと、2A3、45のどちらを調整しても相方へ影響を与えないので手間が半減します。

 試作版回路図では省略していた2SK30Aの両ソース間のバランス調整用半固定抵抗(100Ω)も修正版では記載しておきました。


【電源部の変更点】 B電源出力の残留リプルが予想外に多かったので、リプル・フィルターを2段構えにしました。また、出力段定電流回路の廃止に伴い切り替えスイッチが2回路空いたため、出力管のフィラメント電圧調整回路を新設しました。

 試作版での75kΩと33μを組み合わせたB電源120Hzリプル除去能力は、33μのリアクタンスが約40Ωですので計算上では40÷(40+75000)=0.000533倍、すなわち約2000分の1になるはずでした。整流直後のリプルは3〜4Vが見込まれ(実測値は2A3使用時で4.1V、45使用時で2.8V)たので、FETを通った後の残留リプルは1.5〜2mV程度と踏んだのですが、実測では10mV超でフラフラしています。

 このため、ノグチの小型チョーク(1H、150mA)を前段に入れ、そこでの残留リプルを60〜120mVに押さえた上でFETをくぐらせました。それでも実測値で0.2mVを切るのは難しく、0.5mVあたりを中点にして不規則にふらついています。電圧安定用のZDノイズの影響がかなりあるようです。

 使用したノグチPMC−170Mの2.5V巻き線は無負荷で3V強あり、2A3で2.8V強、45で2.9V近く出ました。フィラメント電圧の許容値幅は定格の5%程度のようですし、これだけ高いとただでさえ多い直熱管のノイズがさらに増えるだけでなく、寿命も短くなるので(もっとも、球より先に当方の寿命が尽きそうですが…)、2A3に0.1Ω、45に0.2Ωの電圧ドロップ抵抗を割り込ませ、切り替えられるようにしました。

 MOS FET 2SK2608の消費電力は45で2.4W、2A3なら2.8W。試作版では鉄板シャーシに貼り付けていましたが、鉄はアルミより熱伝導率が低いので相当熱くなりました。修正版では2.5×3.5センチのアルミ放熱板に取り付けたうえで、これをシャーシに密着させて、指でゆうゆう触っていられる温度に下げています。


 毎度ですが、見苦しいハラワタです。初段の下、左右ドライバ段の間にあるのが負帰還切り替え用のSW1、中央右より整流管ソケットと手前のセメント抵抗の間にあるのがカソード抵抗やフィラメント電圧切り替え用のSW2と出力管プレート電圧調整用のSW3です。









































【2A3 基本特性】

2A3修正版 2A3試作版 備考
裸利得 26.6倍(28.5dB) 24.2倍(27.7dB)
負帰還量 6.9dB 6.1dB
最終利得 12倍(21.6dB) 左同
最大出力 4.6W 5W 1kHz歪み5%
周波数特性 9.5Hz 〜 110kHz (0dB/-3dB) 18Hz 〜 95kHz (0dB/-3dB) 1W出力時
5Hz以下 〜 110kHz (-3dB) 8Hz 〜 95kHz (-3dB)
歪率 100Hz  0.18% 100Hz  0.27%
1kHz   0.14% 1kHz   0.13%
10kHz  0.13% 10kHz  0.15%
クロストーク −70dB以下(30Hz〜40kHz) −70dB以下(10Hz〜25kHz) 0dB=3.16V
ダンピング・ファクタ 6.9 6.5 ON-OFF法 1kHz1V出力時
残留雑音 0.26mV 0.31mV 聴感補正なし


【45 基本特性】

45修正版 45試作版 備考
裸利得 19.1倍(25.6dB) 16倍(24.1dB)
負帰還量 7dB 6dB
最終利得 8.5倍(18.6dB) 8倍(18.1dB)
最大出力 2.8W 2.3W 1kHz歪み5%
周波数特性 22Hz 〜 82kHz (0dB/-3dB) 70Hz 〜 88kHz (0dB/-3dB) 1W出力時
7.5Hz 〜 82kHz (-3dB) 17Hz 〜 88kHz (-3dB)
歪率 100Hz  0.36% 100Hz  0.85%
1kHz   0.22% 1kHz   0.46%
10kHz  0.29% 10kHz  0.54%
クロストーク −70dB以下(40Hz〜55kHz) −70dB以下(10Hz〜24kHz) 0dB=3.16V
ダンピング・ファクタ 4.2 3.1 ON-OFF法 1kHz1V出力時
残留雑音 0.36mV 0.5mV 聴感補正なし



【ch間クロストークについて】 修正版で唯一、試作版よりレベルダウンしたのが左右チャンネル間クロストークです。

 下表のように、100Hz以下の低域クロストークが大幅に悪くなりました。悪化の主な原因は、修正版ではLM317Tを使った出力段の定電流回路がなくなったためです。この回路は直流を通しても交流は遮断しますので、交流的にはカソードがアースから浮いた状態になります。つまり、一方のチャンネルの出力トランスで発生した交流信号が地続きのB電源を伝って他チャンネルへ流れて行こうとしても、出力トランスの先が通行止めになっていてアースという帰り道に乗れないため、信号電流がトランスを通過できない(信号電圧が発生しない)から理論的にはクロストークは生じないことになります。

 試作版で約80Hz以下のクロストークがわずかながら悪化しているのは、おそらく出力トランスの漏洩磁束の影響だと思われます。なお、試作版は0.4mV強あった残留雑音退治が不十分な段階で測定したため、−77dBで底を打っていますが、本来は修正版同様に最高で−82dBは確保できていたと思われます。

   修正版左右チャンネル間クロストーク     試作版左右チャンネル間クロストーク

 ch間クロストークの良否は音場感の広がりとか定位の良さなどと深くかかわっており、全帯域にわたって漏れる量が少ないにこしたことはありませんが、それでも10Hzで−60dB(1000分の1)程度は確保されており、B電源左右共用のシングルアンプとしては極上とは言えなくとも、上々の部類かなと思います。

 修正版を組み上げた当初、2A3使用時で10Hzのクロストークは−52dB、20Hzで−60dB程度と計算上のあるべき値より相当悪いものでした。出力段デカップリングのCR値を大きくしてもほとんど改善されないので、もしやと思い片chの出力管を抜いた状態でもう片方のchに信号を入れてやると低域で結構な量が漏れていてミリバルの針を振らせます。オシロで波形を見ると入力周波数に応じたものが入力レベルに合わせて増減しますので、電源トランスの漏洩磁束ではなく出力トランスからの漏洩磁束による起電とわかりました。

 シャーシの取り付け穴の都合で左右の出力トランスがほぼ密着状態だったうえ、U−808の磁気シールド能力も大したことがないためらしく(製品取説によると「コア一部には電磁シールド付」とあります)、再解体せずに可能な2センチ弱の間をあけてやると、8dB前後も改善しました。

 このトランスを使われる場合は3〜5センチ程度は離してやるほうがいいかと思われます。

                          クロストーク悪化の伏兵・出力トランスからの漏洩磁束 2cm弱の隙間で約8dBも改善         



【回路図の若干の補足】 手持ちパーツで組みましたので、電解コンデンサは必要以上に高耐圧のものを使っている部分もあります。C5(100μ)とC10(33μ)は450V耐圧で問題ありませんし、C4(100μ)も400Vで十分です。

 切り替えSWはいずれもAC125V6Aの小型トグルSWです。SW2と3にはDC165〜435Vがかかりますが、定格はON−OFF時の接点溶着トラブルに対する耐圧・電流容量ですので、通電中の切り替えが必要のない本機ではまず問題ありません。

 負帰還は出力トランスU-808の場合は@端子より、FW-20Sの場合はE端子より戻します。

 6DJ8カソードのR6(2kΩ)は半固定抵抗VR4(5kΩ)の発熱を押さえるのが目的ですので、カソード抵抗値が4〜6kΩ程度の範囲で可変できれば、あってもなくても、またどんな組み合わせでもいいです。

 出力段R9(4.8kΩ)の消費電力は約5.6W、R10(3kΩ)は約9Wもあり、一瞬触れただけでアッチッチ!に発熱します(チョンと触れて余りの熱さに指を反射的に引っ込めたところ、指が近くのB+回路に当たって感電したほどです)。通風には十分注意し、他の部品(特に電解コンデンサや配線)は極力遠ざけるほか、合成抵抗の組み合わせには発熱バランスに留意して下さい。本機では5.1k(20W)と91k(3W)並列で4.8kに、2k(20W)と1k(20W)直列で3kにしています。

 ZDはいずれも1Wタイプを使いましたが、電流が微少ですので500mWタイプで十分です。


【まとめ】 試作版での課題はほぼクリアできました。低域でのクロストーク対策や球差し替え時にハム・バランサ調整が必要などいくつかの細かい改善点はありますが、どうしてもというほどのことではないのでここらで一件落着としました。

 それにしても、理由は当方にはわかりませんが定電流バイアス方式が音色に与える影響にはいささか驚きました。北海道のKさんとおっしゃるシングルアンプ党の方からもご連絡いただいたのですが、さまざまな弱点を抱えながらもシングルアンプの音色が好みの方(当方もどちらかといえばそうですが…)はどうも、シングルであれPPアンプであれ、定電流バイアスの音色に違和感を持たれる人が少なからずいらっしゃるようです。(2012・05・25)


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