ぺるけさんの
トランス+真空管バッファ式USB DAC
                               〜 タムラ TK113 Ver. 〜




 







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 ぺるけさんの「トランス+真空管バッファ式USB DAC Version2」を、タムラのライントランスTK113で作ってみました。トランス式USB DACよりもスケールが大きくて、そこはかとない色香の漂う音色という印象です。ケース加工や各パーツの組み込み順にかなり神経を使いますが、出て来た音を聴けば製作作業の疲れも吹っ飛ぶんではないかと・・・ なお、完成後にチャンネル間クロストークが気になって、LCローパスフィルタの配置場所を一部変更しました。


【回路など】

 回路図はぺるけさんオリジナルをそっくり拝借しました。異なるのは、ライントランスとそれに伴うLCフィルタの抵抗値のみ(赤字部分)です。

 TK113はタムラのTKシリーズの中のひとつで、少なくとも2000年までは生産されてましたが、現在は廃番。カタログによると、周波数特性は20Hz〜30kHz±1.0dB、最大使用レベル10dBm。御覧のように、いろんなインピーダンス比で使用可能ですが、ここではもちろん600Ω:600Ωとして使います。

 実測したところ、高域の周波数特性のうねりが最も少なくなるLCフィルタの抵抗値は700Ωでしたが、E24系列にはない半端な数値なので680Ωで設定しました。               770
                         750




【製作の栞】

 製作は以下の手順で進めると、途中でドライバーや半田ごてが入らないなどのトラブルに悩まされることなく、割とすんなり完成させられます。

以下の画像はクリックで拡大します。

 @  ・まずは、ぺるけさんが公開されてる図面に従って、本体ケースと電源部カバーケースに必要な穴を開けます。

 ・少しでも狂いが出るとまずいのはカバーケース取り付け用のねじ穴4ヵ所、AKI.DAC固定用のねじ穴2ヵ所とUSBプラグ差し込み穴との整合性、トランスの固定用ねじ穴と端子用穴の位置関係で、これらは特に注意が必要。

 ・全部開け終わったらカバーケース、AKI.DAC、トランス、2枚の平ラグ、真空管ソケットが問題なくネジ止めできるかチェックし、修正が必要なら済ませておきます。



 A  
 ・本体ケース上面に電源部基板固定用のスペーサ4本(10mm)を、ケース内面にAKI.DAC用のスペーサ2本(10mm)と2枚の平ラグ用のスペーサ4本(10mm)をそれぞれ取り付けます。

 ・AKI.DAC用はメス面を残してDAC基板をビス止めできるようにした方が、ナット止めより遙かに作業効率がいいです(ナット止めだと電解コンデンサにつかえてナット回しが入らない)。


 B  ・電源部基板を組み上げ、完成したらDC15Vを繋いでチェックしておきます。無負荷状態で2SC3423のコレクタに約105V、エミッタから4.7kΩを介したV+OUTに約100Vが出ていれば正常です。



 C  ・線出しした電源部基板を本体ケースに固定、カバーケースの電源スイッチなどと結線し、6DJ8ヒーターとLED回路も配線します。直列になった2管ヒーターの両端電圧が12.3V前後あり、LEDも点灯するのを確認した後、カバーと本体ケースをビス止めします。

 ・本体ケース内がスカスカなこの段階でカバー止めしておかないと、後から取り付けるのは大変です。 


 D  ・ライントランスを取り付けます。TKシリーズはトランス本体にネジ穴がなく、専用の固定金具が必要なので、オークション等で入手の際は金具がついているかどうか要注意です。


 E  ・Rch、Lch、GNDの計3本を線出ししたAKI.DACを取り付けます。


 F  ・2枚の平ラグを完成させます。ケースの側面と側面側端子(画像の最上列と最下列)の間に半田ごてを入れる余裕があまりないので、側面側端子に可能な限りの線出しをした後、ケースに組み付けます。


 G  ・AKI.DAC、電源部、平ラグ、トランス、6DJ8の各ブロック間をもれなく結線します。

 ・アース母線は、トランス交換がしやすいようにと、2個の3P立てラグの空き端子を利用して張りました。


 これにて無事完成です。


【基本特性】

 手持ちの東芝6DJ8(4本)、Sylvania6DJ8(4本)、International6DJ8(2本)、Philips JAN 6922(2本)による特性データは以下のとおりです。

実測値 備考
出力電圧 1.83〜1.94V   0dB.FS時。 真空管の個体差ややあり
周波数特性 グラフ参照   帯域=80kHz。真空管の個体差ほとんどなし
歪み率特性 グラフ参照   帯域=80kHz。真空管の個体差かなりあり
残留雑音 54〜56μV   帯域=80kHz。 真空管の個体差ほとんどなし


 ・出力電圧  真空管の個体差によるバラつき幅は約6%。これは耳ではっきり左右の音量差がわかるレベルなので、不幸にして使用真空管間にバラつきが大きい場合は、SRPP回路の負帰還量を調節して左右レベルをそろえてやる必要があります。

 メーカー別の実測値は東芝(1.939V、1.937V、1.929V、1.891V)、Sylvania(1.920V、1.873V、1.864V、1.849V)、International(1.908V、1.885V)、Philips(1.845V、1.832V)でした。

 ぺるけさんの公開値は1.75Vで、本データはそれより5〜10%程高めです。これは主としてTK113での信号減衰率の低さによるもので、この手のライントランスの損失は普通10%前後ですが、TK113の場合は実測値で4%しかありません。これはいささか不自然な値ですが、真相はTK113のインピーダンスが600Ω:600Ωながらも、DCRは1次側40Ω、2次側44Ωと巻き線比(カタログに記載なし)は1:1より少し大きいようで、その結果、SRPP回路への出力電圧がぺるけさん作例よりも高くなっているためと思われます。

 ・周波数特性  右グラフのとおりで、真空管の個体差は測定誤差程度のものしか認められませんでした。










 ・歪み率特性  真空管の個体差が最も顕著に現れました。大別すると、グラフ左下(A)のように小出力では多かった歪みが出力上昇とともになだらかに減少、0.4V辺りからはそのまま横ばいになる「L字」タイプと、グラフ右下(B)のように小出力でのカーブは(A)タイプと変わらないものの、0.4V辺りからは大きく上昇に転じる「U字」タイプが認められます。

 「L字」タイプは、目一杯の0dB.FSに達しても歪みはほとんど増えない訳ですから、特性的にはこちらが圧倒的に有利です。

 ※下グラフは両極端を選びました。他のやつは程度の差こそあれ、両者の間のどこかに収まります。



 ところで、「L字」タイプのカーブ、なにか見覚えがありませんか? そう、AKI.DACを使ったトランス式USB DACの歪み率カーブと同じパターンです。

 本機は増幅率が1以下のトランス式USB DACにSRPP回路をくっつけて実用レベルの出力を得る構成なので、似てないと困るのですが、念のためTK113出力(0dB.FSで0.612V、1kHz)の歪みを測ってみたところ、同じ傾向のカーブが得られました(右グラフ)。

 こうしてみると、「U字」タイプの場合はSRPP回路で余計な歪みが生じているということですが、これは回路設計の問題ではなく、明らかに真空管の個体差が原因で、おそらくはバイアス−1.1V前後での個別真空管の直線性の優劣や初速度電流領域のバラつきなどが大きく影響していると思われます。


 さて、実測した6DJ8や6922計12本がどちらに分類されたかというと、残念ながら「U字」タイプが9本を占め、「L字」タイプは甘めの1本を加えてもわずか3本でした。単なる偶然かもしれませんが、優秀な3本は東芝が独占。今や存亡の危機にある同社ですが、昔は「いい仕事」をしていたのかも・・・


 ・残留雑音  B電源にDC-DCコンバータ、ヒーターはスイッチング電源ですが、残留雑音は63μV(帯域700kHz)、55μV(帯域80kHz)、43μV(帯域30kHz)と、トランス式USB DACと同等もしくは僅かに少ないくらいで、高周波成分の影響はまずなさそうです。


【おわりに】

 トランス式USB DACより手間とコストがかかりますが、それに十分見合うだけの魅力あふれるUSB DACです。 (2017.09.07)



                    〈以下は主な更新部分〉

 ただ、気になったのはチャンネル間クロストークの悪さ。特に中〜高域での悪化が著しく、1kHzでも-60dBを確保するのが関の山で、10kHzになると-40dB、20kHzでは-35dBを割ってしまいます(右グラフ)。

 1kHzでの他チャンネルへの信号の漏れは千分の一程度ですが、10kHzでは約百分の一に増え、20kHzともなると約五十分の一と、ジャジャ漏れ状態。出てくる音はいい感じなのですが、それでも一直線に悪化するこの奇妙なクロストーク特性の影響を受けているはず、と考えた方が自然です。

 原因はどこにあるのか? タムラのライントランスのシールドは強力ですし、左右チャンネルの抵抗やコンデンサが接近したり配線がまたいだりした位では発生しそうにもない漏れ具合なので、容疑者はLCフィルタを構成している2個の2.7mHインダクタ以外にはちょっと考えにくいです。


 ※ グラフはR→Lのみ載せてますが、L→Rもこれにぴったり重なり、差があってもせいぜい0.5dB程度です。


 2個の2.7mHインダクタはAKI.DACの横、10P平ラグに1cm弱の間隔で並んでます(赤矢印)。2個のコイルが至近距離にある=トランスそのものですから、交流信号が入れば電磁結合で漏れが生じるのは当然でしょう。

 では、どうすればいいか? 手っ取り早いのは2個の間隔を広げ結合力を弱めてやることで、実験してみると7〜8cm位まで遠ざければ漏れはほとんどなくなりました。

 手直し作業としては、10P平ラグの端にあるRチャンネルのLCフィルタ{2.7mHインダクタ、0.01μFコンデンサ、750Ω(半固定)抵抗}を6P平ラグ側に移します。6P平ラグには空き端子がひとつもないので、スペーサ固定部分を利用して5P立ラグを立て、そこにLCフィルタ部品を組み込みます(下画像参照)。

 当然ですが、AKI.DACのRチャンネル出力ラインとLCフィルタのRチャンネル出力ラインは10P平ラグから外して5P立ラグに繋ぎ替え、5P立ラグ上のコンデンサと抵抗のアースはアース母線と結びます。なお、5P立ラグ側インダクタは足を折り曲げて水平に設置することで軸線をLチャンネルインダクタと直行させた方が、漏れが最大4dB程度少なくなります。

 RチャンネルのLCフィルタを移動した後に測定したチャンネル間クロストーク特性が右上グラフのピンクライン。当初に比べ中高域の状態が大幅に向上、20kHzでは0dB.FSで33mVもあった漏れがわずか0.6mVにまで激減してます。カーブの状態はなかなか素直で、L→Rもほとんど同様でした。


【再度のおわりに】

 フィルタの移動前と後での周波数特性、歪み率、残留雑音の変化は、測定誤差程度でした。また音に関しても、大きな変化はないように感じますが、全体として雑味のようなものが減って音場の空気感が良くなった、個々の音の響きがよりシャープになったかも、というのが目下の印象です。

 なお、トランス式も含めUSB DACのチャンネル間クロストーク特性について、ぺるけさんは何も触れておられません。万事に抜かりのない氏のことですからノーチェックということは考えにくく、きっと「音に影響がない」との判断で公開されていないのだろうと勝手に推察する次第です。
    (2017.09.19)


【データの再更新です】

 チャンネル間クロストークは上記の手当てで十分改善したんですが、せっかくですのでもう少し追い込んでみました。

 片チャンネルLCフィルタ移動方式を元にいろいろ実験してみてわかったのは、@インダクタの取り付け角度を変化させてR→Lを最適化するとL→Rが悪化、その逆の現象も起きるというシーソーのような動きが見られるAアルミ底板の有無がR→LとL→Rで逆の影響を与える。底板を付けるとR→Lの高域クロストークが最大6dB以上も向上する反面、L→Rは同程度悪化するB100Hz以下の帯域のクロストークは全く変化がなく、この帯域のカーブはAKI.DACキット由来のものと考えられるCLCフィルタ関連の配線の引き回しはクロストークにほとんど影響を与えない・・・の諸点。

 こうしたことから、R→LとL→Rのチャンネル間クロストークカーブが最終的にほぼ同じになるよう揃えるには、底板なしの20kHzでL→RのクロストークがR→Lを6dB程度上回るようになる両インダクタの角度を見つけたうえで、底板を取り付ければいいことになります。

 そのためには、Lch側の2.7mHインダクタは直立状態から40度位傾け、Rch側の2.7mHインダクタは直立状態から95度位傾けるのが良さそう。この状態で底板を取り付けると、R→L、L→Rとも100Hzで -80dB、1kHzで-84〜-86dB、10kHzで-81〜-83dB、、20kHzで-78dBと極めて良好な結果が得られました。




  ※ Lchのインダクタ角度













    ※ Rchのインダクタ角度

 (2017.10.20)


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