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隣町の青空フリーマーケットで、お皿や子供服と一緒に並んでいたADVANTESTの1/2 5桁DMM R6551。店番のお母さん曰く「(電源)コードが付いてないし、何に使うものか知りません」。目下、断捨離中の身とはいえ、秋月電子のテスターより安かったので、ついつい手が出てしまいました。
1988年に発売されたこの機種、我が家にお迎えするのは手放したものを含めこれで3台目。性能的にはどうかなと思う部分もありますが、発売当時は人気があったみたいで、今でもネットオークションに結構出回ってます。
家へ帰って電源を入れてみると回路自体はちゃんと生きてましたが、ACVレンジのノイズレベルが極端に高くて、このままでは実用にならないトホホな「ジャン測」と判明。さて、どうしたものか・・・
【症状】
AC電圧レンジのノイズレベルがどれだけ高いかというと、右画像のとおり。300mVレンジは入力ショートしても何と80mV前後もあります。つまり、80mV前後以下の信号はノイズに埋もれて計測不能ということ
!! また、このレンジは校正もできません。ADVANTEST機のACV校正は、フルスケール以外にレンジの十分の一レベルでの校正も必要ですが、ノイズがレンジの十分の一レベル(30mV)を超えているため、エラーになってしまうという訳です。 |
【トラブル・シューティング】
トラブル・シューティングには回路図や基板上の各テストポイントの電圧など技術情報が不可欠ですが、残念ながらこれらは一切公開されてません。唯一とも言える参考資料が取扱説明書に載っているブロック図(右画像)ですが、あんまり役には立たないので、正常と異常部分を分ける作業を進めることから始めます。 @DCVと抵抗測定値は正常 → 右図の赤線囲み部以外は問題なさそうだが、最終桁の動きがやや大きい気もするので電源ノイズは要チェック。 AACVも測定値自体は正常 → 赤線囲み部の基本機能自体は問題なし と推測できます。となると、ACVレンジング・アンプもしくはAC/DC変換器(赤線囲み部)の半導体などの劣化が進んでノイズを出しているか、パーツに問題はないけれど、この部分が拾った電源ノイズが増幅されて出力されている可能性が高そう。 |
背面(画像右側)のねじ2個を外して鉄板製カバーを抜き取ると、中身はこんな感じ。画像下側のシールド板に囲まれて縦置きされている基板がACV関連部、右下コーナー付近が電源部になってます。
【電源部のチェック】
電源はメイン回路用のDC±12Vとロジック回路用のDC+5Vで構成されてます。いずれもブリッジ整流直後に470μF〜1000μFの電解コンデンサを入れてリプルを軽減したあと、3端子レギュレータで定電圧化して供給するというごくオーソドックスな回路です。
それぞれの3端子レギュレータ出力端子のDC、AC電圧をチェックしてみたのが右表。 問題を抱えている本機は、正常動作品に比べ、残留リプルと思われる交流成分が極端に多いことがわかりました。メーカー許容値は不明ですが、これらは低い方が良いに決まってますので、原因を探ることにします。 |
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シンプルな回路なので、考えられるのは@ブリッジ整流ダイオードの劣化Aブリッジ整流直後の1000μF電解コンデンサの劣化B3端子レギュレータの劣化C3端子レギュレータ出力にぶら下がっている出力コンデンサの劣化・・・・といったところですが、DC電圧自体は正常かつ安定しているので@Bの可能性は低そう。そこでまずAのコンデンサ容量を実測してみましたが、異常なし。
となると、Cのレギュレータ出力コンデンサが怪しそうです。
+12V、-12V、+5Vとも3端子レギュレータの出力ライン〜GND間に表面実装用の小さな33μF/25Vアルミ電解コンデンサが取り付けられてます(画像左下 赤矢印)。これは、リプル成分や出力ノイズを減らす役割を担ってますが、実測してみると3個とも封入されている電解液が完全に蒸発(ドライアップ)して、容量がほぼゼロに近い状態になってました。
3個ともリードタイプの33μFに交換してノイズを測ってみると、+12V出力=0.45mV、-12V出力=0.48mV、+5V出力=0.47mVと、正常動作している別のR6551並みのレベルに下がりました。この結果、AC300mVレンジの残留ノイズは当初の五分の一近くまで激減して17mV余りに(画像右下)。
これまでの使用経験から判断すると、R6551という機種は残留ノイズが多いと思わざるを得ないのですが、それでも17mVは異常で、まだ他に原因があるはずです。
【AC基板部のチェック】
ということで、次はAC電圧測定部分に不審なところがないかどうかチェック。
AC基板(画像左下)はメイン基板に垂直に差し込まれているだけなので、簡単に抜き取れます。基板中央右寄りの三方をシールド板で囲まれているのが、レンジング・アンプの初段部分。昔懐かしい低雑音オペアンプTLO70CPが使われ、次段のLT1037との組み合わせでレンジ毎に減衰・増幅率を変えながら、各レンジのフルスケール出力を360mVに統一してAC/DCコンバータへ放り込む仕組みです(※回路図がないので部分実測などからの推定)。
ここは最もノイズを拾い易い部分なので、TLO70CPへの±12V電源ラインにはプラス側、マイナス側とも10Ω+6.8μFのフィルタが組み込まれてます(画像右下 赤矢印)。 コンデンサは、ドライアップしてた電源部と同じ表面実装アルミ電解タイプなので、かなりヤバそう・・・・
実測してみると案の定、両方とも0.3μF〜0.5μFの間を激しく変動していて寿命がとっくに尽きてました。この状態ではフィルタ効果が得られないどころか、電源ラインに割り込んでいる10Ωが電源インピーダンスを押し上げ、かえってノイズを拾いやすくなっていると言えます。
ハンダごてが入りにくくてラインが剥離するなど悪戦苦闘の末、なんとか6.8μFを交換。これでダメなら、粗雑な脳ミソではオペアンプなどノイズを発生しそうなパーツを個別点検するしか手はなさそうです。 さて結果はというと、残留雑音は1.2mV(右画像)まで下がりました。 |
【正常それとも異常?】
残留雑音が1.2mVまで減ったことで、校正もできるようになりました。その結果、AC3mV位まではかなり正確な測定値が得られます。でも、この機種にとってこれが正常な状態なのかどうか、正直言ってよくわかりません。なぜかと言うと・・・
・「正常かも」の根拠=右画像上が修理後の本機、下がもう1台のR6551。いずれも入力ショートのうえAC300mVレンジの残留ノイズを比べてみると両方とも1mVを少し超えてます。手放してしまったもう1台もやはり、1mVを切れませんでした。 製造後30年近く経っていても3台とも同レベルの数値が出ているということは、この機種としてはこれが正常な状態とも思えます。 ・「異常かも」の根拠=新旧あれこれ10台以上のDMMと付き合ってきましたが、ACV最小レンジの残留ノイズがこんなに多い機種は他にはありませんでした。比較的新しいメーカー校正済みAgilent34401Aは0.0002mVですし、1970年代製という博物館級のHP3465Bですら0.02mV。 それを考えると、1mV超はどうも納得しにくい数値です。 |
こうした疑問は残るものの、普通の電子工作に支障があるレベルではないのでこれで打ち止めとしますが、R6551をお使いのどなたか、実情をご教示いただけると幸いです。 (2017.04.09)