1000円テスター用 の ミリバル・アダプタ

                                                                                                          


 アンプ・ビルダー必携の「三種の神器」といえば、ミリバル(ミリボルト・メーター)、オシロスコープ、低周波発振器+歪率計あたりが相場でしょう。アンプは単純な低周波増幅器ですから、テスターが1丁あればそれなりに組めるとはいえ(何十年か昔は、ほとんどみんなそうやってました…)、アンプの潜在能力をフルに引き出してやるにはテスターだけではまず不可能で、どうしてもそれなりの測定機器類が欠かせません。

 とはいえ、これら一式を揃えるとなるとアンプ何台分かの資金を食ってしまうため、必要性はわかっていても、ついつい真空管やトランス類を優先して買ってしまうことになりがちです。そこで、サブ用にしようと、テスターの直流電圧測定機能を利用したローコストながらそこそこ使いものになるミリバル・アダプタを作ってみました。


 1mV以下の微少電圧から数百Vの高圧まで、交流電圧を広い周波数帯域で正確に測定できるミリバルは、アンプの出力や周波数特性、残留雑音などをチェックするうえで欠かせない測定器です。

 きょうびは1000円足らずで多機能デジタル・テスターが手に入り、なかなか重宝しますが、交流測定機能は直流に比べて相当お粗末で、付け足しの感を免れません。感度が高いレンジでもフルスケール200V程度なので分解能は100mVが関の山のうえ、測定電圧が下がれば下がるほど内蔵する整流ダイオードの順方向電圧による電圧降下の影響がもろに出るほか、周波数特性も悪いため誤差が非常に大きく(下の1000円テスターの場合は1kHz・1Vの正弦波入力で表示は0.7V、10kHz・1V正弦波入力では0.4V)、こと交流電圧に関しては100V電源のチェック程度にしか使えません。

 しかし、直流電圧に関しては遙かに感度の高いレンジがありますので(下のテスターの場合、200mVフルスケール・レンジ)、交流電圧を正確に直流電圧に変換するアダプタを作って、それの出力を直流電圧測定レンジに放り込んでやれば、数mVあたりまでならミリボルト計として実用になります。

 右下が市販のミリバル、左下が1000円デジタル・テスターをミリバルとして使えるようにするミリバル・アダプタです。


























 アダプタは見てのとおり、OPアンプ1個とスイッチング・ダイオード2本、抵抗とコンデンサー各数個で組み上げたごく簡単なもので、部品はパーツ箱を漁って見繕ったポピュラーなものばかりです。C1の無極性電解Cがなければ、普通の電解C(22μF)2個を「+−−+」に直列接続すれば無極性になります。これだけのためにわざわざ定電圧電源を組むのも馬鹿らしいので、別の機器の電源から±12Vを引き出して「借電」していますが、消費電流は数mAですので、006Pの電池(9V)2個でも問題ありません。プラスチックの半カバーはエアコンのリモコンかけの流用で、電源を除いて部品代は500円もあれば十分でしょう。





 前段は反転増幅回路を使った直線検波器で、2本の1S2076AをTL072の仕上がり利得のループに含めることによって1S2076Aの順方向電圧による整流電圧の降下(約0.6V)の影響をキャンセル、入力された正弦波電圧の平均値(実効値×2√2÷π)の2分の1の半波形電圧をR4へ出力します。
 例えば、ミリバルで表示されるAC1V(実効値)の正弦波を入力したとします。これの平均値は1×2√2÷3.1416=0.9Vですから、その半分の0.45V(反転増幅回路ですからR4のアタマにテスターをつなげばDC−0.45V表示)の直流成分がR4へ出力されます。

 後段は、出力された平均値を実効値に反転増幅変換する回路で、正弦波の平均値と実効値はπ÷2√2の関係(平均値を1.11072倍したものが実効値)にありますから、入力交流電圧の平均値の2分の1の直流電圧を入力と同じ実効値電圧に変換するには、後段で約2.22倍に増幅(R4対R5+R6=1対2.22)してやればいいことになります。

 R類は誤差1%級の金属皮膜抵抗を使いましたが、入手できなければより安価でポピュラーな誤差5%級カーボン抵抗でも大丈夫です。但し、その際には配線前にテスターで抵抗値をチェックしてR1とR3ができる限り同じ値(ぴったり10kでなくて、9.85kとか半端な数値でもかまいません)、R2はR1の2倍の値、R5+R6がR4の2.22倍の値になるようにしてください。C2、C4、C5は安いセラミックCで十分で、ダイオードは小信号用ならどれでも使えると思います。


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 上は、低周波発振器から1kHz100mVの正弦波をアダプタに入力、アダプタからテスターのDC200mVレンジに出力させたものです。入力側のミリバル表示と出力側のテスター表示の差は0.4%ですので、実用上の誤差はほとんどないと言えます。各機器の精度の影響で入力電圧が微少になるほど差が大きくなりますが、それでも30mV以上だと入出力の差は0〜2%以内に収まりました。入力周波数を変えて計ったところ、20kHzでの直線性が最も良くて5mVまで下げても差は4%と「なかなか優秀」でした。

 石アンプに比べてノイズの多い真空管アンプでも、残留雑音の測定には0.1mVあたりまで精度が求められますので、グラフからわかりますようにそのレベルの微弱な交流電圧の測定は無理ですが、数百mV以上のレベルで計るアンプ出力や周波数特性の測定などには十分実用になります。AC入力が10V程度までならこのまま使えますが、それ以上の電圧を計る場合は電源電圧やOPアンプなどの耐圧の関係で入力側に−20dB程度のアッテネーターをつける必要があります。


 このアダプタで0.数mVとかのアンプ残留雑音を計るには、できるだけ巻き線比の大きい(1次と2次のインピーダンス比の大きい)シングル用出力トランスを1個用意して測定するアンプの出力端子に下図のようにつないで下さい。





 上図の「適当なOPT」にインピーダンスが1次側10k、2次側8Ωの出力トランス(東栄T−600)を使い、テスターに29mVが表示されたとします。この出力トランスの巻き線比(インピーダンス比の平方根)は1対35.36ですから、このアンプの残留雑音は29mV÷35.36≒0.82mVと計算できます。出力トランスの挿入損失やアダプタ、テスターの精度の関係である程度の誤差は生じますが、大体の目安にはなります。



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