〈ST出力管「45」〉
古典直熱3極管のひとつで、ナス管の「245」として1929年に発売され、1933年に画像のようなST管「45」になりました。フィラメント規格は2.5V1.5A、プレート損失10W、A1級シングルで出力1.6W程度と、おなじみの2A3の半分ほどの規格です。
45を使うことにしたのは、これまであれこれさわってみた出力管の中で最も「いい音」が出る球だったからです(但し、PX4とかDA30とかベラボーなお値段の欧州古典球などには到底手が出ないので、決して45がベストというつもりはありません、念のため)。
「いい音」とはどんな音なのか、個人の好みもあって一概に決められないのは当然ですが、私の場合は「楽器がその楽器らしく聞こえる音色」。45が作り出すのは透明度の高いしっかりした芯の外側に柔らかなベールをまとった気品のある音とでもいうのでしょうか、まあ、300Bがマリリン・モンローだとすれば、45はグレース・ケリーといったところでしょうか(古い! 歳がバレそう……)
基本的に中古(大古?)球に頼らざるを得ないし、パワーが小さい、近年は値段が高騰している、バイアスが深い(−50V程度)のでドライブが結構難しいなどのネックもありますが、それらをすべて足してもお釣りがたっぷり返ってくる音色を出す名球だと思っています
直熱3極出力管の45を高μ電圧増幅管の6Z−DH3Aで直結ドライブ、無帰還で動作させる、いわゆる「ロフチン・ホワイト・アンプ」です。無帰還シングルアンプ共通の泣きどころ、低域の緩さなどいくつかの不満はあるものの、いわゆる「音楽」再生能力の高さではプッシュプルアンプにない不思議な力を持っており、ch間クロストーク改善のための左右別電源化などの改造を経て、15年以上たった現在も我が6畳間の現役です。
〈ロフチン・ホワイト回路〉
ロフチンさんとホワイトさんという2人の米国人によって1929年に発表された回路です。簡単に言えば、電圧増幅段と電力増幅段の2段構成、その段間結合を特性劣化の原因となるコンデンサーやトランスを使わずに直結とするもので、素直な音色や応答性の良さなどが当時のアンプビルダーたちを熱狂させたそうです。
ただ、前段のプレート電圧がそのまま出力管のグリッド電圧になるので、出力管のフィラメント(カソード)電圧をうんと高く(グリッド電圧+バイアス電圧)しなければならず、必然的に出力管のプレートには45の場合で通常の2倍近い400数十Vが必要になるのと、適正動作に追い込むためには各段の電圧・電流調整がかなりめんどうくさいです。また、2段構成という制約から、前段にはどうしても12AX7のような内部抵抗の高い高μ管や5極管を使わざるを得ないうえ、直熱3極管の場合は負帰還をかける利得余裕もほとんどないので、典型的なカマボコ型周波数特性となって広帯域な現代アンプの水準からすればややもの足りないところがあります。
「魅惑の真空管アンプ」の著者、故浅野勇さんによりますと、この回路でそれぞれの球が持つ本来の姿を十分引き出せるのは50、45、2A3など古典直熱3極管に限られ、それ以外の球はRC結合と大差ない結果しか出ないそうです。
〈設計と製作〉
回路図はこちら。 故浅野勇さんが設計された有名な2A6−2A3というラインナップのロフチン・ホワイト・アンプをベースに45仕様としたものです。高域特性の悪化を防ぐためには、V1にできるだけ内部抵抗の低い球を使いたいところですが、45をフルスイングさせるには35V.rmsのグリッド入力が必要で、これを単段で生み出すには内部抵抗が高いものの60倍前後の増幅度が得られる12AX7か、その同等管を使わざるを得ません。ここでは見た目のバランスを重視してST管ラジオ球の6Z−DH3Aの3極部(規格は12AX7の片ユニットと同じ)を使っています。
RCAなどのデータでは、45のA1級シングル動作例はプレート電圧250V、バイアス−50V、プレート電流34mA、交流負荷3.9kです。45のグリッドに前段のプレート電圧130V前後がもろにかかるため、これにバイアス分の50Vを加えた180V前後がフィラメント電位として必要で、回路図のR4(5.1k、20W)でかさ上げしてやります。プレート電流(34mA)だけだと173V程度ですが、ここには他にブリーダー抵抗R3(24k、3W)からの数mAも加わるため180V程になります。従って、実際のプレート電圧はこれに250Vを加えた430V程度が必要です。本機の場合、交流負荷5kで動作させていますので、プレート電圧260Vあたりが最適動作となり、実際にはプレートに445V位を供給せねばなりません。
電源トランスは手元で遊んでいた山水のP-44Bを2個使いましたが、B電圧が高すぎてR6、R7で50Vほど落としてますので、350V巻き線のある例えばノグチのPMC−170M(巻き足しがあるので、実際にはAC360V位出ます)あたりのほうがより使い易いかと思います。
整流には必ず傍熱整流管が必要です。直熱整流管や整流ダイオードだと、電源ON直後から高いB電圧が出ますが、6Z−DH3Aは傍熱管なのでカソードが暖まって動き出すまでに10数秒かかります。その間、電源ON直後から動き出している45のグリッドにはB電源の高圧がもろにかかることになりますので、45のバイアスが浅くなって過大なプレート電流が流れ、プレートが赤熱して球だけでなく人間の寿命も縮まります。
傍熱整流管だと、規定のB電圧が出るまでに時間がかかる(5AR4だと約25秒)ので、その心配はまったくなくなります。直熱整流管や整流ダイオード使用の際には、必ず出力管のフィラメント回路もしくはB電源回路にスイッチを付け、主電源ONから20秒ほど待って手動かリレーでONさせて下さい。プレート電流を直読するフルスケール100mAの直流電流計を入れていますが、いちいちテスターを当てなくても動作状態がひと目でわかる便利さと、流用したジャンクシャーシの穴隠しのためで、これが無くても動作への影響はまったくありません。
〈調整〉
RC結合の普通のアンプと違って、調整はちょっとめんどうです。要は、初段管が最適動作するプレート電圧=出力管が最適動作するグリッド電位になればいいのですが、2管(左右共通電源なら4管)が1カ所のB電源から取り出した電圧・電流の微妙なバランスの中で動作してますので、どこかの電圧値をいじれば、別のところのバランスが崩れるなど、うまく追い込むのに結構苦労します。
R−ch | L−ch | |
利得 | 6.58倍(16.4dB) | 7.07倍(17.0dB) |
最大出力(1KHz、歪率5%) | 1.8W | 1.75W |
歪率(1W、1KHz) | 0.55% | 0.6% |
周波数特性(1W、−3dB以内) | 10Hz〜29KHz | 9Hz〜30KHz |
D.F(1KHz、1W時、ON−OFF法) | 1.63 | 1.68 |
クロストーク(0dB=1V) | 61dB以上 | 63dB以上 |
残留雑音(聴感無補正) | 0.9mV | 0.7mV |
〈2A3への差し替え〉
2カ所ほど抵抗値を変え、出力トランスの1次インピーダンスを2.5kに切り替えるだけで簡単に2A3仕様になります。出力管フィラメント電位かさ上げ用のR4を3k、30〜40Wのものに、ブリーダーのR3を51k、3Wに交換すれば大体OKですが、球のばらつきがありますので微調整は必要です。実際のプレート電圧−フィラメント電圧=約250V、プレート電流約60mA、フィラメント電圧−グリッド電圧=約45Vを目安に歪率が最小になるポイントを探してください。
2A3には、音色の重さというかだるさというか独特の癖があって、私はどうも好きになれませんが、2A3のロフチン・ホワイト・アンプはRC結合アンプと比べてそれが薄まり、音のキレが良くなって好印象を受けました。 低域は45仕様よりやや伸びますが、60Hz付近の+0.4dBをピークに20〜200Hzにわたってなだらかな膨らみがあり(故・浅野さんの作例でも同様の膨らみが出ています)、これが2A3特有の音を作り出しているのかも知れません。高域の−3dB減衰ポイントはせいぜい19kHz確保がやっとで、45に比べ10kHzも悪くなります。2A3はミラー効果も含めた入力容量が45よりはるかに大きいためで、こればかりはこの回路ではいかんともし難いです。
2A3仕様の周波数特性グラフはこちら 2A3仕様の歪率グラフはこちら