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電源部が共有になっているぺるけさんの「トランジスタ式ミニワッター Part4」を左右独立電源にして、同じタカス基盤に詰め込んだものです。狙いどおり、低域のチャンネル間クロストークが大幅に向上してます。もっとも、増幅部の回路定数はぺるけさんオリジナルのままなので、音が変わる訳でも何でもない(はずな)んですが、いわゆる「プチ・ぜいたく」の類といったところですか。
【回路図】
ぺるけさんの回路図を拝借して一部改変しました。オリジナルからの変更点は330μHインダクタをDC15Vの+側に入れたのと、R-ch用の0.47Ω/1W分岐を±側とも抜いただけです。
これと同じものを左右それぞれに作ります。ただし、電源パイロット用のLEDとその電流調整抵抗の3.6kは2組も要らないので左右どちらかのチャンネルのみに設けます。
【配置図】
ぺるけさんオリジナルから増えるのは電源部のもう1セット分。タカスIC-301-74基盤上で新たに高感度リレー、2SC3964、330μHインダクタ、3300μF×2、1000μF、0.47μF、12Ω、220Ω、510Ω、3.3kΩ、3.9kΩのスペースを確保する必要があります。
オリジナルの配置ではどうにもならないので、増幅部を含む全てのパーツを数日がかりであちこち動かし回って、なんとか最も良さげな(本人としては・・・)配置にたどりつきました。
図中のジャンパー線のうち青線は裸銅線、それ以外は絶縁されたビニール被覆線などを使います。初段2SK170-BLだけでなく次段2SA1680も接着剤で貼り付けて熱結合させたので、クネクネ曲がった絶縁ジャンパー線が必要となりました。出力段を基盤外側ギリギリまで追い出しているのは、張り出している−側の3300μF/16V2個が出力段からの熱であぶられないようにするためです。
【基盤の加工】
タカスIC-301-74基盤には縦のラインが10本あり、増幅部への電力供給ラインなどに使いますが、左右独立電源にすると数が足りません。そこで、両チャンネルとも1本ずつラインを切断して最低限必要なラインを生み出し、それでも足らないところ(L-chの+15Vラインなど)は被覆線を走らせてカバーします。
アースのDとHラインの隣を走るラインが加工場所。ここを1本につき2カ所切り離し、V+と出力ラインに利用します。
銅箔の削り取りには、普通のカッターナイフでは刃が大き過ぎて周囲の銅箔部分を損傷する恐れがあるので、百円ショップでも売っている刃渡り4mm程度のクラフト用ナイフ(画像右端)でチビチビ削るほうが安心です。ここは導通があっては絶対ダメなので、土台部分までしっかり削ったあとテスターで非導通なのを確認しておきます。
【ジャンパー線】
基盤加工を終えたら、いよいよ「胸突き八丁」のジャンパー線取り付け。製作過程で最も手間暇がかかるうえ、取り付け穴を間違えたりハンダ付け不良が起きやすかったりするので要注意です。
裸銅線は、距離が長くて電流量も多いところは直径0.55mm線、それ以外は直径0.35mm線を使ってますが、全部を0.35mmで配線しても問題ありません。直径0.28mm線は加工は楽ちんですが、折り曲げ部分の強度に不安が残るのと、取り付け穴間の距離が長いとたるみが出やすいし抵抗値も高くなるので見送りました。
絶縁が必要なラインは、0.55mm裸銅線に熱収縮チューブを被せてますが、0.18〜0.2sqの被覆より線でも一向にかまいません。
※ R-chのJ4列・17行目の穴から上へ伸びて220Ω/1Wと繋がるジャンパー線が配置図と画像では1行分ずれてます。これは220Ω/1Wを取り付けやすいように製作途中で手直ししたためで、もし参考にされるんでしたら配置図の方が正解です。
※裸銅線はたいていのホームセンターで数メートル巻きのものが「結束・園芸用」「電気用軟銅線」などの用途で売られてます。
【電源部の組み立て】
ジャンパー線が片づいたらお次は電源部の組み立て。ここで特に注意が必要なのは@2SC3964の取り付け方向A電解コンデンサの極性を間違えないB3300μFと4700μFは背丈があるのでケースに収まる高さに、の3点位でしょうか。
2SC3964は2個とも下画像の赤矢印面が印字のある側になります。完成したら、DC15V電源アダプタを繋いで+7.5V前後と−7.5V前後の電圧がちゃんと出ているのを確認しておきます。
【増幅部の組み立て】
電源部の動作が左右とも正常なのを確認できたら、増幅部の組み込みに移ります。まずは、トランジスタ類の下ごしらえから。
アンプの動作を安定させるため、初段の2SK170-BL(右画像下)、次段の2SA1680(同上)とも印字のある平坦面を向かい合わせにして接着剤で貼り付け、熱結合させます。 手っ取り早いのは瞬間接着剤ですが、接着面がずれた時に修正がかなり大変で、下手すると指から離れなくなってしまいます。 エポキシ系接着剤は完全固定されるまで十数分かかりますが、最初の数分間は自由に修正可能なので、こちらを使った方が仕上がりがきれいになります。 こうやって熱結合させると、基盤に取り付ける際にトランジスタの向きを全く気にする必要がない、というメリットもあります。 |
出力段はトランジスタ毎に左右chで放熱板の取り付け方向が異なるので要注意。右画像の上段がR-ch用、下段がL-ch用です。 共通するのは、トランジスタの型番などが印字されている面がどれも手にとって見える向きに配置することで、L-chの2SA1931とR-chの2SC4881は放熱板の「コの字」の内側に、L-chの2SC4881とR-chの2SA1931は「コの字」の外側に組み付けます。 M3鍋ねじは長さ8mmでないと、基盤に載せた時にねじの先端が隣のねじ頭とぶつかってトランジスタの足が所定の位置にうまく収まりません。 放熱板は千石電商などで売っているLSIクーラーの「1919-9」で、多分、ぺるけさん頒布のものと同じだと思います。 |
あとは、基盤の所定の穴ぽこに半導体やCR類をハンダ付けしていくだけ。回路図の順番に従って取り付けていくよりも、基盤の列もしくは行に従って空間を埋めていく方が作業が大幅にはかどります。
【入出力ラインとアース】
基盤に部品が載ったら、0.18〜0.2sqの被覆より線で入出力やバス・ブースト、電源ラインの配線を作ります。
モノのない時代に育った当方、「もったいないオバケ」が取り憑いてるせいでついつい部品の足は長めに(後の再利用に備え)、コードは短めに(節約のため)となってしまいますが、ここはチャンネル間クロストーク対策であちこち動かす可能性があるため、十二分に余裕を持たせた方がいいです。
それぞれのラインがどこへ繋がるかは二つ目の画像を参照して下さい。
ケースへのアースポイントはヘッドホンジャックの(−)端子なので、ヘッドホンジャックは非絶縁型にしてます。従って、入力のRCAジャックはケースから絶縁して取り付けます。ヘッドホン用の分圧抵抗はぺるけさんの定数通り8.2Ωと10Ωに。
RCAジャック〜基盤〜音量調節VRを結ぶアースライン(黒)は必ず左右別々とし、しっかり捩ったうえで基盤の所定の位置にハンダ付けしないとチャンネル間クロストークが20dB前後も悪くなってしまいます。
【全体の組み付け】
ご覧のように、フロント、リアとも基盤との隙間がほとんどないので、パネルの下側へはハンダごてが入りません。そこで手順としては、
@RCAジャックとスピーカー端子を結線せずにリアパネルに組み付ける
ADCジャック、BBスイッチは結線した後でリアパネルに組み付ける
Bリアパネルをネジ止めする前に斜めに倒し、RCAジャックとスピーカー端子に結線する
Cヘッドホンジャック、電源スイッチに結線した後、フロントパネルに組み付ける
D同時にボリュームとLEDをフロントパネルに組み付け、パネルをねじ止めした後、両者に結線する
【DC実測と調整】
パーツの誤配置や結線ミスが無いのをチェックした後、2SK170-BLソースに入っている10Ω半固定抵抗をほぼ中点に設定します。不測の事態に対処しやすいよう、どちらか片チャンネルのみにDC15Vアダプタを繋ぎ、出力段エミッタの0.68Ω間にDCVレンジにしたテスターを繋いだ上で電源スイッチを入れます(テスターは2台あったほうが安心)。
ここの電圧がぺるけさんの設計値0.07V±0.02Vに収まっていれば、あとは余裕を持って各部の電圧をチェック。これをかなり(あいまいですが・・・)外れていればどっかでチョンボしてますから、すぐ電源を切って点検し直しとなります。
下は小一時間放置後の無信号時データ(室温24℃)で、左右のばらつきはごく僅かでした。
かなりめんどうなのが初段の10Ω半固定抵抗を回して行うDCオフセット調整。温度変化に非常に敏感なので、上蓋を開け閉めするたびに安定するまで結構待たねばならないうえ、何度も微調整を繰り返す作業を余儀なくされます。 そこで、本機ではこの手間を省くため、半固定抵抗の調節ねじの真上部分の上蓋に小穴(2.5mm)を開け、ミニドライバを差し込んで調整することにしました。 これだと待ち時間なしに一発で決まり、大変楽ちんです。 |
【基本特性】
ほとんどの項目はぺるけさんオリジナルのトランジスタ式ミニワッターPart4と同じです。データ上、明らかに変化があるのは左右チャンネル間クロストーク、DCドリフト、消費電力の三つ。
電流はぺるけさんの基準値(約0.37A±20%)よりかなり増えました。これは、左右独立となった電源部の自己消費が50mA強増加したのに加え、出力部半導体の個体差(アイドリング電流が多め)によるものです。
DCドリフトが1作目(0.3mV〜0.5mV)よりうんと少なくなってます。次段2SA1680の熱結合が1作目はアルミ箔を巻いただけだったのに対し、今回は初段同様に接着剤でしっかり貼り付けたことによる効果が大きかったのでしょう。
左右チャンネル間クロストーク、特に低域のクロストークが大幅に向上しましたが、これは左右独立電源となったことで電源部を介しての信号漏れが事実上皆無に近くなったためです。
※ 実測値に幅がある部分は左右チャンネルの違いです。
項目 | 実測値 | 備考 |
利得 | 5.89倍〜5.90倍 | 1kHz、8Ω負荷 |
最大出力 | 1.63W〜1.65W | 1kHz、8Ω負荷、THD1% |
残留雑音 | 19.3μV〜19.5μV | 帯域制限80kHz、入力ショート |
DCドリフト | 0.08mV〜0.1mV | 室温変化 10℃あたり |
電流量 | 約0.48A(7.2W) | 無信号時、両チャンネル分 |
周波数特性など | グラフ参照 |
・周波数特性 NormalがBassBoostをOFFにした状態。低域の伸び、高域の素直な減衰ぶりとも上々で、電源共有版との違いは見られません。 |
・歪み率特性 こちらも電源共有版との違いは見られません。右下グラフは出力を固定した状態で周波数によって歪み率がどう変化するかを見たもので、低域から中域にかけての歪み率はまったく変わらず、出力トランスが介在する真空管アンプ、特にシングルアンプにはなかなか真似のできないところです。
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・左右チャンネル間クロストーク特性 太線が本機、細線が電源共有機のデータ(1W出力時)。電源部を介しての信号の回り込みがほとんどなくなったことで特に低域の改善ぶりが著しいです。 もっとも、両機のデータともかなり気合いを入れて最良値まで追い込んだ結果なので、普通の配線状態ではもう少し(6〜10dB程度)悪くなると思います。しかし、両者の差はほとんど変化しませんでした。 データとしてはともかく、音楽を聴く上でここまでやる(左右独立電源化する)必要があるのかどうか、については難しいところです。 測定データは良くなるだろうけど音は変化しないはずとほとんど確信を持ってスタートしており、その考えは今も原則変わりませんが、いろいろ聴き込んでみるうちに、単に気のせいとは思えない何かに引っかかってます。これについては、もう少し時間をかけて老いくたびれた頭の中を整理してみます。 |
【音の変化はある、ない?】
上のグラフからわかるように、低域側ではch間クロストークが最大-20dB程度改善されています。つまり、一方のチャンネルから他のチャンネルへの信号の漏れが、電源共有機の十分の一まで減っているということですね。
さて、ひとくちに「十分の一の減少」とはいっても、-40dB(百分の一)が-60dB(千分の一)になるのも、-80dB(一万分の一)が-100dB(十万分の一)になるのも「十分の一の減少」。ch間クロストークが-40dBと-60dBのアンプなら我が駄耳でも違いが感じられますが、-80dBとか-100dBといった微少レベルの違いを人間の耳が果たしてちゃんと認識できるのかとなると、基本的には難しいんじゃないかと思ってます。従って、以下の判断は「気のせい」である可能性も大いにあります。ハイ。
交響曲や協奏曲といった「にぎやかしい」ものでは、電源共有機との音の違いはまったく感じられません。小編成の室内楽になると「違うといえば違うような気もする」かな・・・ですが、正直なところ、よくわかりません。
一番「違い」(らしきもの)が分かりやすかったのがバッハ「無伴奏チェロ組曲」のようなソロの器楽曲。電源共有機よりも音の滲みが少なくて音像が引き締まり、よりすっきりした感じを受けます。ただ、その分だけ量感や押し出しがやや落ちたような気分に襲われ、全体におとなしくなった印象です。
【おわりに】
電源共有機からの追加費用はDCアダプタを含め2000円弱。それに見合うものがあるといえばある、ないといえばないの「プチ・ぜいたく」でした。
(2015.11.04)
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