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タムラのTK-20は、音色を確かめてみたかったトランスのひとつでしたが、新品(ノグチトランスで1個9950円)は決して財布に優しいとはいえません。ほぼ半年かけてオークションで1個ずつ手に入れてる間に、ぺるけさんがローパスフィルタ(LPF)をRCからLCに変更されたので、両方試してみました。
このトランス、実測してみると高域から超高域にかけての広い帯域がかなり持ち上がるタイプなので、フィルタ値の設定に注意が必要ですが、音はいいです。RCとLCでは残留雑音や歪み率に結構差がみられ、そのせいかどうか出てくる音色がはっきり違っていて、LC版は現在の常用機「USB-DAC
TD-1 Ver.」に取って代わるかも・・・です。
【TK-20の基礎データ】 TK-20は現行生産品で、メーカー公表値は ・インピーダンス 600ΩCT:10kΩ ・周波数特性 20Hz〜20kHz(±0.5dB) ・最大使用レベル 10dBm となっており、重さは実測約100gでした。 各巻き線の直流抵抗値(DCR)は個体Aが@−B間=42.07Ω、C−E間=891.2Ω 個体Bが@−B間=42.80Ω、C−E間=907.0Ω でした。 |
トランス単体での周波数特性と歪み率はこんな感じです。
右グラフは2次側負荷10kΩ、送り出し側インピーダンス50Ωのデータですが、送り出し側インピーダンスが下がるにつれて数kHzから上の帯域がどんどん持ち上がってきます。 トランスはLPFと共にAKI.DACから出る高周波ノイズを有効にカットする役割を担っており、10kHz歪み率に大きな影響を与えるノイズの遮断能力の点では40kHz前後からダラ下がりになる多くのトランスに比べてやや〜かなり不利なカーブです。 |
※上グラフは特性ラインの傾向を見やすくするため縦横比を2:1にデフォルメしています。 |
右グラフは、トランスの2次側出力を一定に保った状態で周波数を変化させ、トランス単体での歪み率がどう変わるかをみたものです。 200Hz以上だと周波数の変動にかかわらず歪み率は一定で、100Hzでも0.01%を割ってます。さすがにそれ以下だと周波数が下がるにつれ歪みが急増しますが、出力電圧が変化しても幅広い帯域で歪み率の差が少ないなど、優れた特性のトランスだということがわかります。 ※測定条件は、送り出し側インピーダンス50Ω、2次側負荷10kΩ、80kHzローパスフィルタ。 |
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【LCローパスフィルタの設定】
本機の製作に取りかかった時、ぺるけさんのHPを拝見するとTK-20を含むタムラの600Ω:10kΩトランスについて、LCローパスフィルタの推奨値を2.2mH+0.012μF+620Ω〜680Ωとされていました。TK-20のようなハイ上がりの周波数特性だと推奨値では多分厳しいだろうと思い、大川電子設計のHPにあるフィルタ計算ツールでフィルタ単体でのざっくりした傾向を探ってみることに。
シミュレーションでは、620Ωだと左上のように高域が相当持ち上がってしまい、TK-20の周波数特性もハイ上がりなので、両者を組み合わせると理屈上はさらにこの傾向が加速されることになります。 330Ωまで下げると、LPF自体はほぼフラットなのでTK-20の特性以上にハイ上がりになることはなさそうです。 もちろん、実装すればいろんな要素が複雑にからんできて机上値とはかなり違った結果になります。AKI.DAC+LCフィルタ+TK-20のセットを仮組みして300〜500Ωの範囲で最適値を探ってみると、400Ωあたりで一番素直な周波数特性が得られそうです。 1kHz2V出力を0dB基準とした場合、5kHzが+0.01dB、10kHzが+0.02dB、15kHzで-0.29dB、20kHzは-1.24dBとなかなかいい感じの減衰ぶりとなりました。歪み率も低中高各帯域のバランスがよくとれています。 |
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【回路図など】
AKI.DAC-U2704キットの変更部分は、C14→1000uF/10V、 C11・C16・C17→220uF/10V、 C5・C6→470uF/10Vです。
ローパスフィルタのインダクタは太陽誘電の2.2mH(最大電流49mA、DCR18Ωタイプ)。VR1とVR2は、高域の周波数特性チューニングの際に半端な抵抗値を簡単に出せるよう多回転型の1kΩ(B)半固定抵抗を使いました。R3は、C14(U2704キット)の足を切らずに残しておき、その+側に接続します。その抵抗値はLEDの種類に合わせて適当な範囲で。
【ついでにRCフィルタの設定】
LCフィルタとRCフィルタではデータや音色がどう違ってくるのかを確かめるため、RCフィルタも作ってみました。 ぺるけさんの推奨値は75Ω+0.039uF。その設定で十分だとは思いますが、TK-20のハイ上がり特性や歪み率のバランスなどを考慮して数種類の組み合わせを試した結果、個人的には47Ω+0.068uFが気に入ったので採用しました。 AKI.DAC-U2704キットは、LCフィルタ用に変更したものがそのまま使えます。 トランス2次側の仮負荷抵抗R2、R3は12kΩに減らします。 |
【ハラワタ】
ケースはタカチYM-180(180×130×40mm)。解体してしまっていたトランス式USB-DAC TpAs-4S.Ver. のケースを追加加工して再利用しました。 平ラグの両端部分がLCフィルタ、中央部分が比較用のRCフィルタで、画像はLCフィルタでの結線となってます。 |
【基本特性】
項目 | 条件 | LCフィルタ版 | RCフィルタ版 |
最大出力 | (0dB.FS時) | 2.18V | 2.10V |
残留雑音 | (帯域制限 1MHz) | 0.085mV | 0.223mV |
(同 80kHz) | 0.063mV | 0.137mV | |
(同 20kHz) | 0.041mV | 0.042mV | |
周波数特性 | WaveGene+ミリボルト計 | 別グラフ参照 | 別グラフ参照 |
歪み率特性 | WaveGene+自動歪率計 | 別グラフ参照 | 別グラフ参照 |
残留雑音のほとんどはAKI.DAC-U2704キット由来の高周波ノイズですが、これに対してはLCフィルタがRCフィルタの2倍以上高い遮断能力を示しました。タムラトランスを使った場合、RCフィルタでも帯域制限1MHzなら普通は0.1mV程度になるのですが、その2倍も残っているのはやはりTK-20の幅広いハイ上がり周波数特性が影響しているようです。
・周波数特性 LCとRCの間に大きな差は認められません。強いて挙げるなら、LCが15kHzあたりまでほぼフラットさを保ち、その先がかなり急激に減衰するのに対し、RCは11kHzあたりから減衰が始まるもののその度合いは緩やか。AKI.DAC-U2704キットのC5、C6を470uFに増やしてますが、LC、RCとも出力が1.5Vを超えたあたりから5Hzをピークとする超低域の共振が認められ、LCの方が僅かですが強めに出ます。
・歪み率特性 下グラフは20kHzのローパスフィルタを入れてのデータで、LC、RCとも極めて低歪みで推移し、その差は無いに等しい状態です。これだけを見るといかにもおいしそうな結果ですが、現実にはあまり意味がありません。
USB-DACの出力に含まれているかなりの量の高周波ノイズを20kHzの多重ローパスフィルタでしっかりカットすればこうなるというだけで、実際問題としてUSB-DACとアンプの間に20kHzで-3dB+α減衰するこんなフィルタを入れて音楽聴く人なんていませんよね。
レコードなどやむを得ない場合を除いてプリアンプは使わない(使いたくない)主義なので、USB-DACと真空管パワーアンプを直結してます。パワーアンプの周波数特性は100kHzで-3dBくらいに設定してますので、その程度のフィルタをかけたものがUSB-DACから出力されると考えた方が現実的だと思います。そこで、オーディオ・アナライザ内蔵の80kHzローパスフィルタをONして歪み率を測定したのが下グラフ。
グラフの読み方はTK-20単体での歪み率グラフと同じで、WaveGeneの出力を一定に保ちつつ周波数を変化させるとUSB-DAC出力の歪み率がどう変化するかをチェックしたものです。 100Hz-1kHz-10kHzといった通常のポイント歪み測定では読み取れない結構激しい凹凸のあることがよくわかりますが、それはさておき、現実の使用環境に近いケースだと、LCとRCでは歪み率に一応差がつきます。 両者ともおおむね0.0数%で推移しますが、大きいところでは2倍以上もの差がつくとみるか、たかだか0.05%しか違わないじゃないかとみるか――は考え方の問題ですので、それぞれで判断して下さい。 |
【簡単な〆】
データ上は、残留雑音以外、LCフィルタとRCフィルタの間に極端な違いは見られません。ただ、どっちが好ましいかというのはさておき、音はかなり違ってきます。どう違うのかは作ってのお楽しみで、手間も費用もほとんどかからないのでぜひ両者を聴き比べられることをお勧めします。
(2014.10.13)