ぺるけ式USB-DAC


 












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 当たり前と言えば当たり前なんですが、タムラ製のライントランスでも型番によって結構な音色の違いがあります。TpAs、TpC、TK、TDといったタイプを試してみる中で常用機がほぼ決まってきてるとはいえ、凡人の常で「もっと自分に波長の合う音が出るヤツがあるんじゃないか」との思いを捨て切れません。

 ネットオークションを見てたら、TpBタイプでインピーダンス1.2kΩ:3kΩというのが目につきました。増幅度が低くてトランス式USB-DACには向かないと見られたのか、リーズナブルな価格設定なのに入札はゼロ。画像をチェックすると、1次側は巻き線が分割されたsplitタイプなので300Ω:3kΩとして立派に使え、巻き線比は√10=3.16倍となって、トランス損失を差し引いても1.6V前後の出力が期待できます。

 この値段ならダメもと、と落札して作ってみたのがこれ。データも音色も優秀で、ご意見番のカミさんとも「TK-20 Ver.よりいい」で一致しました。


 さて、このトランスは1967年製!! タイトルは「TpB-3」としましたが、正式な型番は「TPB  1.2KΩ:3KΩ」というわかりやすいけど長ったらしいものです。あいにく当時の資料を持ち合わせてませんが、1980年代のライントランス製品リストには同じインピーダンスと巻き線構造を持つものが「TpB-3」として掲載されており、どうやら同じものが名称変更され、2000年までには製造終了になったようです。

 80年代のカタログによると、「TpB-3」の仕様は以下のようなものです。

 ・インピーダンス  =1.2kΩCT(300Ωsplit):3kΩ
 ・周波数特性    =30Hz〜20kHz(±0.25dB)
 ・最大使用レベル =13dBm

 ちなみに寸法は42×35×18mm、重さ約100gと現行品のTpBシリーズと同じで、TpAsシリーズの2倍のサイズです。


【トランス単体データ】

 左グラフは300Ω:3kΩ設定でのトランス単体周波数特性。±0.25dBの帯域は7.5Hz〜33kHzとカタログ公称値を大幅に上回っていて、申し分のない特性です(1V出力時)。

 トランスでの損失があるため、実質的な増幅度は約2.82倍でした。


 ※測定条件=送り出し側インピーダンス50Ω、トランス2次側負荷3kΩ。


 


 左グラフは300Ω:3kΩ設定でのトランス単体歪み率特性。TK-20トランスとそっくりの特性で、非常にいい感じです。ただ、100Hz以下の低域はTpC-203やTD-1にはちょっと及びません。


 ※測定条件=送り出し側インピーダンス50Ω、トランス2次側負荷3kΩ。




【回路図など】

 トランス1次側巻き線は並列接続、2次側負荷抵抗を3.3kΩとし、入力インピーダンス50kΩのアンプを繋いだ時に300Ω:3kΩとなる設定です。


 ローパスフィルタのインダクタは、まだ市場(千石電商)に在庫がある太陽誘電製680uH(DCR約4Ω)の2個直列。VR1と2は25回転型半固定抵抗の500Ω(B)か1kΩ(B)が便利です。


 高域の周波数特性を極力フラットに保ちつつ、実際の使用状態で低・中・高域の各歪み率にあまり差が出ないようチューニングした場合のVR1と2の抵抗値は380Ωですが、インダクタやコンデンサ(0.033uF)の容量誤差の程度によって±数十Ω位の幅が出ます。


 AKI.DAC-U2704キットで半田づけする電解コンデンサや抵抗のうち、変更するのは右図の赤マル部分の計8個です。


 LED用の電源は、C14(1000uF/10V)を半田づけする際、キット基盤の裏側に突き出た電解コンデンサのリード部分を2本とも切らずに残しておき、そこから±5Vを引き出します。



【基本特性】

 ・最大出力= 1.71V (0dB.FS 1kHz)


 ・残留雑音= 0.063mV (帯域制限 1MHz)
            0.043mV (  同    80kHz)
            0.035mV (  同    20kHz)


 ・周波数特性= 下グラフ参照


 ・歪み率特性= 下グラフ参照









 0dB.FS時の周波数特性は5Hzで-0.5dB、20kHzで-0.7dB。

 グラフからは読み取りにくいですが、超低域の6Hzにごく僅かなピーク(高さ0.2dB)が出てます。AKI.DACキットとトランスの共振によるもので、AKI.DACキットの電解コンデンサC5、C6を2200uFに増量すれば消えますが、このままでも全く問題ないです。

 高域側は6kHzから12kHzにかけてがごくごく僅か+側に膨らんでいるものの、ピークの8kHzでも+0.03dBと測定誤差の範囲です。



 グラフ左下は、DAC出力に含まれているAKI.DACキット由来の高周波ノイズを20kHz多重ローパスフィルタでほぼ除去した場合の歪み率。全体の傾向はTK-20.Ver.にそっくりですが、TpB-3の方が少しだけ低歪みになっています。

 残念ながらこの低歪み、実際の音楽環境には適用できません。なぜかって? みなさん、DACをアンプに繋ぐとき、その間に20kHzが-3dB+α落ちになるローパスフィルタを挿入しますか?

 そこで、実際の使用環境に近い形でデータを取ったのが右下グラフで、オーディオアナライザ内蔵の80kHzローパスフィルタをONして測定したものです。高周波ノイズが十分除去されていないため歪み率が高くなっているだけでなく、周波数によってかなり凸凹しており、こちらの方もTK-20.Ver.より少しいいかなという感じです。

 これがどうして「実際の使用環境に近い」のか・・・ですが、このUSB-DACの歪み率を左右しているのは基本的に波形そのものの歪みではなくて、波形とともに出力される高周波ノイズの多寡です。オーディオ測定の際に用いられる歪み率の中身、いわゆる「THD+N」のうちのN(ノイズ)部分になります。ということは、周波数特性の-3dBポイントが100kHz前後の真空管パワーアンプなら、結果的には100kHzローパスフィルタと同等程度の高周波ノイズ除去効果がある、との考え方ができるのではないかと思います。
 



【簡単な〆】

 とっくの昔に生産終了してますし、1.2kΩ:3kΩというインピーダンス比なので数もそう多くは作られなかったと思いますが、これは「めっけもん」でした。データでみると、歪み率はTK-20と同等かちょっと良い位、回路インピーダンスが低いためでしょうが高域チューニングもTK-20よりやりやすく、わりと簡単に素直な特性が得られます。特にありがたかったのはお値段で、オークションでの取得コストはTK-20の半分以下でした。

 さて、肝心の音色ですが、全帯域にわたってしっかりとした歯切れの良い音を出してきます。中でも秀逸なのは中域の再現力の高さで、直近にあった藤原真理リサイタルとCD収録の同曲比較では、あれこれ作ってみたUSB-DACの中で最も彼女のチェロの音に近い音色を響かせてくれました。高域も水準以上の伸びやかできれいな音だとは思いますが、TD-1に比べるとちょっと弾力と艶が落ちるかなという印象です。低域については、TK-20もTD-1もTpBも音量、音質とも似たような感じ(すみません、駄耳では正確に聴き分けられない・・・)です。  (2014.12.19)

 

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