小泉神社

奈良県大和郡山市小泉町

●表門●
祭 神

素戔鳴命
誉田別命

産土大神は古来南之御宮 通俗では牛頭天王社と稱され人皇第百代後小松天皇即ち今を去る事五〇〇年以上明徳慶永年間(室町将軍三代〜四代に亘る)此の地方の守護神として現在の神域に斎き祀られたのが当社の起源である

其の后 天門年間 当地の豪族小泉四郎左ヱ門が社殿を改築せられ 其遷座祭には京都の神祗官領差遺され 祝辞奉上のうえ奉幣之儀を執り行はれて以来現時に及ぶ迄四五〇年間連綿として 古式そのまゝを毎年秋の例祭に 神社独特の五色の御幣を以って奉幣行事を続けておるのは実に神社の誇とする処でその昔を偲ばされる されば往古より此の地方一同の総社として地方住民の崇敬篤く 室町・江戸時代を通じ時の領主より社領の寄進も有り 遠近よりの参詣者絶ゆる事なく 社頭は恒に賑いを呈せりと聞く

其の后 摂津茨木の里より片桐且元の弟貞隆候が領主となり それ以来例祭には片桐石見守より献茶の儀を奉仕に相成り代々崇敬されて来たが明治五年廃蕃により片桐公が上京の砌 小泉城の裏門を当神社に寄贈さる(現在小泉神社の表門で一名袖付門と稱す)

明治二十年社名を小泉神社と改稱 大正九年本殿を社寺保存法により特別保護建造物に指定 昭和二十二年国の重要文化財に指定される

創建は不詳です。奈良県史には1400年代の記録が残るとあり、室町時代以前の創建であることは間違いありません。本殿は室町初期の造営で、国指定の重要文化財となっています。また表門は、以下に記す小泉城の裏門を明治期に移築したものといわれています。



案内板に記述されるように、当社小泉神社は南之宮と称されていました。対して北之宮はどこかというと、当社より北東に約1kmほど離れた九頭明神(祭神は九頭神)がそれであると考えられています。当社境内にも九頭神社があり、その関係の深さを伺わせます。

なお、九頭明神も含めて、当社に掛けられる注連縄は全て「左ないはじめ」となっています。
●小泉神社本殿●
●九頭神社●

当社の創建がどうであったかは歴史の彼方ということでしょうが、案内板にはこの地方の領主小泉氏や、小泉氏の後大名として当地を治め、より深く当社に関わった片桐氏の名が見えます。

片桐氏は清和源氏の後裔で、このことが祭神に誉田別命が含まれる理由なのでしょう。片桐氏においては、豊臣氏の家臣で「賤ヶ岳の七本槍」と呼ばれた内の1人片桐且元(かつもと)の代から奈良にて活動するようになります。織豊から徳川へ政権が変わる時期に片桐且元・貞隆(さだたか)の兄弟が奈良入りをし、兄且元が竜田藩初代藩主に、弟 貞隆が小泉藩初代藩主になり小泉氏の居城であった小泉城(小泉陣屋)を小泉藩の政庁とします。

当社と小泉城の位置関係は、小泉城を挟む形で南之宮(当社)が南西に、北之宮(上記の九頭明神)が北東になり、北・南の名は単純な方角的意味ではなく、小泉城や領地内の田畑との関係から付けられたものではなかったかと推測されます。



案内板の記述をさらに参照すれば、当社は牛頭天王を祭祀して始まった可能性が考えられます。牛頭天王信仰は江戸期に最盛期を迎える信仰ですが、明治期の神仏分離の時、牛頭天王祭祀の多くは廃され、日本神話のスサノオへの祀り替えがなされてきました。

牛頭天王とスサノオは播磨国風土記で同一視されているように、かなり古い時代から両神が同一神と考えられてきました。そのためか江戸期の牛頭天王祭祀社は、古い時代のスサノオ祭祀社が牛頭天王祭祀社へと変化したケース、中・近世に牛頭天王祭祀社として始まったケースなどがあり、さらに祭神スサノオを通俗的に牛頭天王と称したか、京都八坂神社(祇園感神院)から正式に勧請したかなど何通りもの祭祀のパターンが考えられます。
●八幡神社●
●片桐神社 祭神:片桐且元候●

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さて、当社(南之宮)に対応する北之宮(九頭明神)は水神・祈雨神であり、九頭明神には九頭神池(溜池)が隣接していることは農業においての治水面が物心両面から重要視されていたことが分かります。

また片桐貞隆にゆかりのある金輪院小泉庚申堂が近くにあり、金輪院の本尊青面金剛は行疫除疫神の性格を持ちます。当社祭神の牛頭天王(もしくはスサノオ)も強力な行疫除疫神でもあり、同時に武神でもあります。



青面金剛と牛頭天王には現世利益という意味で通じるものがあるでしょうが、加えて、水神への治水祈願や各寺社への五穀豊穣祈願も含めて、それらの祈願はすべてが現世利益であると本稿筆者は考えます。

藩主や領民との繋がりが深いであろうこれらの寺社のネットワークのような立地は、強く豊かな地に住みたいという重要な現世利益を追い求める土地の人たちの気持ちをその存在に現わしていることでしょう。

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