洞泉寺
奈良県大和郡山市洞泉寺町

宗派 浄土宗

山号 霞渓山

本尊 阿弥陀如来


霞渓山洞泉寺(かけいざんとうせんじ)は郡山城下の細い道の奥に位置しますが、城下町にある寺院としては広い敷地を有します。近年建て替えられた本堂は非常\に美しく、境内も整えられ落ち着いた雰囲気を保っています。当寺の門前はかつての花街であり、もと遊郭だった建物が数軒、今も街並みの中に残っています。

「郷土資料事典 観光と旅 奈良県:人文社」から由緒の部分を引用します。

*******引用始め*******
天正13年(1585)三河国(愛知県)の霞渓山(かけいざん)洞泉寺住職の宝誉上人が、平端村(現大和郡山市)の長安寺に拠って布教中、上人に帰依した郡山城主豊臣秀長が、上人を開山に請じて創建した。
*******引用終り*******



本堂内、中央の厨子の中には本尊の阿弥陀如来立像およびその左右に両脇侍立像が安置されます。本尊および両脇侍は鎌倉時代中期の作で、寺伝により快慶作と伝えられています。国指定の重要文化財となっており、大和郡山市のサイトでその写真を見ることができます。【Link:木造阿弥陀如来及両脇侍立像 大和郡山市】

中央の本尊阿弥陀如来三尊像に対して、向左に五劫思惟阿弥陀如来(ごこうしいあみだにょらい)像が祀られます。五劫思惟阿弥陀如来像は螺髪が大きく発達した如来像で、案内書などで「アフロヘアの仏像」のように解説されることもあるその1体です。【Link:五劫思惟阿弥陀如来 画像検索】

向右の厨子の中にはダキニ天像が祀られますが、厨子の中に収められており通常の拝観はかないません。厨子の手前には、稲荷神社で良く見かける阿吽の狐の像が数体置かれています。日本の仏教のダキニ天の造形は、狐に乗る美しい天女の姿で現されることを付け加えさせていただきます。【Link:ダキニ天 画像検索】
●本堂●

現在の大和郡山市の江戸期の発展は大和大納言豊臣秀長(豊臣秀吉の弟:1540年〜1591年)によるところが大きいものですが、豊臣秀長および宝誉上人に絡んで当寺の由緒を説話的に表した次のような伝承があります。意味的には上記由緒に通じる内容になります。

大和大納言と呼ばれ郡山城を居城とした豊臣秀長の時、長安寺村(現在の大和郡山市長安寺町)の宝誉上人という僧の夢枕に源九郎を名乗る白狐が老翁の姿で現れ、「郡山城の東南に当たる広野原(現在の洞泉寺町一帯)に堂を造りダキニ天を祭祀せよ。そうすれば、あらゆる災厄から城を守ろう。」と告げました。宝誉上人から夢の話を聞いた豊臣秀長は宝誉上人による寺院建立の望みをかなえ、洞泉寺およびダキニ天を祀る祠の建立を許しました。



「源九郎を名乗る白狐」とは一般に源九郎狐とよばれ、源九郎判官義経(みなもとのくろうほうがんよしつね)に関わった狐のことです。仏教のダキニ天も神道の稲荷神も、共に狐をそのお使いとします。源九郎狐も同様の立場だったと考えるのも楽しいものです。

当寺に隣接して源九郎稲荷神社があります。源九郎狐は源九郎稲荷神社に縁があるものとして捉えられるケースが多く、当寺に関連して源九郎狐が語られることはあまり見られません。このあたりについては源九郎稲荷神社の項目もご参照下さい。寺院と神社、今ではそれぞれが独立している様子ですが、かつての両者の関係は深かったことでしょう。

当寺の本堂近くに「源九郎天」の扁額が掲げられた堂があり、この堂のそばに「源九郎ダキニ天」と刻まれた立派な碑が立てられています。当寺のダキニ天像は元々「源九郎天」堂内に祀られていたと聞きます。
●源九郎天の堂●

伝承をもとにするなら、当寺の元々の発祥の事情がダキニ天祭祀にあったとの推測も成り立ちそうな気がしますが・・・

源義経が活躍した時代と豊臣秀長が活躍した時代には400年近い開きがあり、本尊が鎌倉期の作であることを援用するなら、当寺の発祥の事情がダキニ天祭祀にあったと考えることには矛盾が生じそうです。

あるいは、古くからの浄土信仰に密教のダキニ天祭祀がプラスされたと見るべきなのかもしれませんが、それとて推測の域を出るものではありません。



本稿筆者が当寺を参詣した折、本来ならば電話の1本もかけて予約の連絡を入れるべきところ非礼にも突然のおしかけ訪問をしました。当寺をお守りであった方々はこのぶしつけな来訪者すら快くお迎え下さり、当寺の由緒や本堂内部の各尊像のことを詳しく丁寧にお話下さいました。大変気持ち良く参詣をさせていただいたことをここに述べさせていただきます。

優しげな本尊やアフロヘアの阿弥陀如来、また興味深い源九郎ダキニ天、そして当寺をお守りであった方々に出会えたことを喜び、たかが矛盾のごときは、それこそ源九郎狐に化かされただけと笑い飛ばして楽しむことにいたしましょう。
●洞泉寺そばにある源九郎ダキニ天の碑●





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