万能「枝雀理論」


えっと、「枝雀理論」とは何ぞや と言うところから始めましょう。

 「枝雀理論」とは亡くなられた落語家・桂 枝雀さんが「笑いとは『緊張とその緩和』である」と言われていた理論に僕が勝手に付けた名前です。
 枝雀さんが言われる前からその様な理論があって別の呼び方をするべきなのかもしれませんが、僕は枝雀さんがテレビで言われていた事が聞き始めなので、ここでは「枝雀理論」と呼ばせていただきます。

 余談ですが この考えを「緊張と緩和」と言われる方がいらっしゃいますがそれは違います。あくまで「緊張とその緩和」です。「緊張」と「緩和」が別々にあるのではなくて、高められていた緊張がある事柄によって解かれる事で笑いが発生するのです。
 漫才で言うと ボケの人が「世間の常識と少しずれた事を言う」事で観客には「何のこと言っているの?」と“緊張”が高まり、相方が「世間の常識とこんな風にずれているんですよ」とツッコミを入れる事で謎解きをして緊張を解くのが“その緩和”です。落語では演者が二人を演じ分けられているんですけどね。


まずは一つの事例から

 テレビで「野生のゴリラに会いに行く」と言う番組を見てしました。現地の森林レンジャーの人に案内されて俳優さんがゴリラの近く、ほんの5、6mの所で観察されているとオスのゴリラが突然、向かってきて俳優さんのすぐ脇を体に触れもせず走り去って行ったのです。するとレンジャーさんはなんと「クックックッ」と笑いだしたのです。
 つまり、レンジャーさんもゴリラが襲ってこないかと緊張が高まっていたところに、ゴリラが突然向かってきて緊張は最高潮に達したのです。 なのにゴリラは脇を通りながら一行の体に触れもせずに走り去って行ったのです。この事でレンジャーさんの緊張は解放され、つまり“緩和”されて笑いだされたのだと思います。これは「笑いとは『緊張とその緩和』である」の最たるものだと思います。


で、その枝雀理論ですがもっと広い範囲に応用できるのです

 「拡張枝雀理論」とでも言いましょうか……。 日本語の『面白い』は「ガハハ」と笑うときにも使いますが、『興味的である』と言うときにも使います。英語で言うところの“interesting”です。日本語の“面白い”とは「緊張とその緩和」をそのまま表した言葉だと思います。

 推理小説が面白いのは作者によって撒かれた謎で“緊張”が高まり、謎解きによって“緩和”されるからです。

 手の込んだ工作などを趣味にされている人は 他の人に「どうしてそんな面倒な事を」と理解を示してもらえない事が多いのですが、本人はそうする事を面白いと感じるからだと思います。
 工作中は本人もすごく“緊張”が高まっているのです。「うまく行くかな、失敗しないかな、このまま進めていいのかな? 」って。でも工作が完成するとそれによって“その緊張”が緩和されるのです。そのときにそれ以外のストレスからも解放されるのです。
 この解放感を味わってしまうとなかなかやめられないですね。完成した時の解放感を味わいたいから また、次の工作を始めるのです。


企業で難しい開発を続けられる技術者さん……

大学で難しい理論の完成を目指される学者さん。どうしてそんな難しい事を続けられるのかと言うと、きっと、それが面白いから。『緊張とその緩和』を味わいたいからだと思います。



2017/08/23



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