楽聖の森

 

「神聖なる森」と名付けられた
ウィーン中央墓地の一隅に
名だたる楽聖たちが眠っている

天使や女神をあしらった墓石は
黄泉の国というよりも
天国に属するように見える

数知れぬ楽曲で世界を癒してくれた
音楽家たちへのお返しなのか
花の風とともに
小鳥たちがやって来ては鳴き交わす

慰められた人々に代わって
綾なす美声を捧げてくれるのだ

たぶんここは天国に近い場所
そんなことを思いながら
訪れた人々は
ひととき楽園の森に憩う

俳句~百千鳥

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ウィーン中央墓地はおよそ2.5平方キロの広大な敷地で、約33万基の墓が存在するのだという。
その中に「ehrenhain 32A」という地区がある。
この地区には、誰もが知っている音楽家が並ぶハイライトと呼べるような場所がある。

メトロノームの形をしたベートーヴェンの墓の横にはモーツァルト、その横にはシューベルト。
シューベルトは「敬愛するベートーヴェンの横に埋めてほしい」と生前から話していたのだという。
けれども、ベートーヴェンとシューベルトの間にはなぜかモーツァルトが配置されている。

そして、モーツァルトの場合は墓ではなく記念碑だ。
その理由は、当時共同墓地に埋葬されたため、彼の遺体がどこにあるのかわからなくなってしまったからだとか。
現在は「ザンクト・マルクス墓地」という場所に埋葬されている。

生涯に600曲以上の作品を残し、35歳という若さで病死したというモーツァルト。
その死因については毒殺説もある。
そして、最後に葬られたのが共同墓地…想像すると、寂寥を感じる晩年だ。

きらびやかな楽曲で彩られた映画「アマデウス」で見たモーツァルトは、破天荒でお調子者、陽気で楽しい音楽家だった。