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"SWING ADDICTION"
<REPORT-PART.1>
by 田家秀樹

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ロック史上最高のデュエットの瞬間がそこにある
 「ANSWER」のプロモーションビデオの撮影は6月の初旬にロサンジェルスで行 われた。ロケの舞台となったのはダウンダウンの使ってない劇場なんだそうだ。残念 ながら僕はその場には同席できなかっただけれど、映像を見るだけでそこがどういう 空間だったのかは想像できる。かつては最新のエンターテインメントのメッカとして LAでも鳴らしていた場所なのだろう。華やかな栄華の名残はゴージャスな装飾や 建築様式にも伺える。それでいて時間の闇に飲み込まれてしまったような空間は、 氷室京介によく似合った。
 一瞬の幻覚。撮影監督は丹修一、彼の起用を提案したのはJIROだったと言う。 GLAYでは、すでに「とまどい」のプロモーションビデオでもおなじみだ。想像力に満 ちあふれたような色彩感覚やストーリー性、タイプの異なる数々の作品は評価が高 い。氷室京介とのコラボレーションは初めてということだった。単なるライブ映像では ない架空の出来事のようなファンタジックさは、彼ならではだろう。
 イリュージョンの中に浮かび上がる氷室京介とGLAY。この世のものとは思えない ジョイントの瞬間が切り取られている。最初に姿を見せるのは氷室だ。彼が歌ったの を追うようにTERUの叫びとGLAYの演奏が登場する。4人の思い詰めたようなまな ざしには汚れがない。お互いの間にあった薄いガラスが砕け散り、5人が一つに溶け 合って行く。粉々に砕け散って飛散するガラス片は、何を象徴しているだろう。
 壁と隔たり。人と人を差別し理解を阻んでいる壁を壊す。それは音楽のジャンル であると同時に世代という壁でもあるのかも知れない。国と国でも良い。民族や宗教 。今の時代を厄介にしている全ての壁を壊すこと。「ANSWER」のテーマでもある「 LOVE IS BEAUTIFUL」というメッセージも、そんな答えだろう。割れたガラスの 破片が宙を舞い、ダイヤモンドの欠片のように輝いている。
 それぞれを隔てていたガラスが消え、GLAYと氷室京介は、一つの生き物のよう に重なり合うのだ。緊張感ではない。外見だけでなく精神的にも重なり合うよう に見えた。それも、激しく声を上げながらそうなるのだ。同じフレーズを歌う氷室京介 とTERUが、あのBOO/WYのシルエットのように重なり合うのだ。それが単なる視 覚的な演出の産物ではないことは、二人の二度と聞けないようなボーカルとアクシ ョンが物語っている。本気、真剣、ガチンコ、渾身。そんな言葉でも良い。たった二人 で世界と対峙しているかのような孤高の連帯感で結ばれた二人の叫びとパフォー マンス。ロック史上最高のデュエットの瞬間がそこにあった。

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