"SWING ADDICTION"
<REPORT-PART.3>
by 田家秀樹
page.3
+
←back
"本日のコンサートは休憩はございません"
開演前の客席に流れたそんなアナウンスは「どんなコンサートになるのだろう」とい
う興味を一層倍加した。
つまり、どちらが先に登場するにせよ、いわゆる"転換"という作業が必要になるから
だ。その間、ステージは止まるわけで、普通はそこで休憩になる。それがないというのだ
から、どうやって交代するのだろうと思った。
GLAYが去り、スクリーンは「SWING ADDICTION」になった。ステージはスモー
クが炊かれ、SEのボリュームが上がり、客席がざわめいた。今までGLAYが立っていた
ステージがゆっくりと回転し、後ろからもう一つのセットが出現した。スモークの量が増
え、ストロボが点滅する中で、氷室京介が姿を見せた。黒いコスチュームで統一して
いたGLAYと対照的な白いシャツとジーンズ。スクリーンでアップになった表情は、自
然体の笑顔を見せている。絞り抜いたボクサーのような立ち居振る舞いは、しなやか
な若々しさを感じさせた。
どんなコンサートになるのだろう。そんな興味は、ステージだけではなく、それぞれの
ファンの反応にもあった。GLAYファンにとっての氷室京介、そして氷室京介ファンに
とってのGLAY。中には、さほど接点がないという人たちも多かったはずだ。初めて体
験するそれぞれのステージにどう反応するのだろうと思った。
"サンキューSWING BABY"。客席にそう呼びかけたのは氷室京介だ。"HAPPY
SWING楽しんでくれてるか""KING SWING、楽しんでくれてるか"。GLAYと
氷室京介、それぞれのファンクラブの名前から生まれたのが「SWING ADDICTION
」というコンサートのネーミングである。TERUは"皆さんが氷室さんを支えてくれてきた
おかげで、こうやってステージを一緒に出来ることになりました。GLAYのファンの方々
、みなさんが支えてきてくれたおかげでここにたどり着くことが出来ました。"とそれぞれ
のファンに感謝の気持ちを表していた。そして、そんなステージの想いが伝わった、分
け隔てのない盛り上がりが展開されていった。
限られた時間の中でどこまで自分を表現するか。それはジョイントの醍醐味である。
バンドの成り立ちを見せつけたのがGLAYだったとしたら、氷室京介は、彼が今たどり
着こうとしている地平を切り取って見せたようなステージだった。
誰も作り得なかったビートと言えば良いだろうか。容赦のないくらいにワイルドで破
壊的で、それでいて構築感のある全体像を失わない。音の迷路をしゃにむに突破して
ゆくような挑発的な高揚感は、シンプルな8ビートにはないスリルに満ちた、正真正銘
のロックだった。
バンドサウンドとも違う全員が自己主張する、非常警報のような音のぶつかり合い。そ
の中を突っ走ってゆく氷室京介のボーカルは月の光を反射してきらめく刃物のようだ
。モニターに駆け上り、片方の足をかけてマイクを客席に突き出し、反対の腕で激しく
煽る。ビートの隙を縫って瞬間的に翻す身のこなし。それこそが、ロックボーカリストの
神髄だろう。モニターに足をかけた彼の姿にTERUを思い浮かべたGLAYファンも多
かったのではないだろうか。
氷室京介のステージの最後は「WILD ROMANCE」だった。彼は"俺が大事にし
ている新しい8ビートのロックンロールを贈ります"と言った。
彼はすでに新しい地平に立っている。そんな締めくくりだった。
*
next→