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はじめに

      双曲幾何って、なんですか? 私たちの目的は、双曲的非ユークリッドの世界を目で見て楽しもうとするものです。「百聞は一見にしかず」です。 見聞だけではなく、想像をたくましくして探検します。 想像は、私たちの最強の武器です。

      双曲的非ユークリッドの世界では、360の見渡す範囲に、ユークリッドの世界の360分の何倍もの風景が見られます。 三角形をどんなに大きくしても、その面積は円周率の値を越えることができません。 角と長さが、異質なものではなく、たがいに依存しているのです。 多くの秀でた数学者が、この事実を信じませんでした。 自分で証明もしていながらですよ。

      まず、だ円的非ユークリッドの世界といわれているものを、ちょっと覗いてみます。 そこでは、無限遠を取り込んで描くことができます。
つぎに、ロバチェフスキーらが発見した双曲的非ユークリッドの世界へ入ります。 そこには、ミステリーな沢山の絵があります。 そして、いつの間にか、もっと奇怪な射影幾何にふれることになります。 円の接線がその円の中心を通るとか、無限に伸びている直線の長さがゼロだとか。
最後に、8字ノット(結び目)というものに触って、空間を特徴づけている双曲幾何がどんな機能をもったものかを経験します。 四面体のすべての面をもう一つの四面体に、形を変えせずに貼ってしまいます。 不可能を可能に。 そこでは、自分と同じ人間に出会うとか、全宇宙をコーヒーにして呑んでしまうとか。

      著者の私は、数学者ではありません。 ただの愛好家です。 私は、非ユークリッド幾何を興味本位の時代おくれのものだと思っていました。 実際、クラインが双曲幾何から神秘性を拭い去ってしまいました。 ところがその後、サーストンによって双曲幾何の新しい神秘が掘り起こされたのです。 今日、双曲幾何はトポロジーや結び目の基本になっているだけでなく、物理、化学、生物、そして芸術などにも浸透しつつあります。
      私たちは、名画を描けなくても鑑賞することはできます。 誰にでも真の数学を楽しむ権利があります。 たとえ数学理論を展開できなくても。 観光旅行に行って景色を見るのに、その地方の法律やルールは関係ありません。 どんな山があり、どんな川が流れているかを見ればよいのです。

      この作品は、双曲幾何を知っていて書いたのではありません。 どんなものか見てやろうと、手当たりしだいに追って行っただけのものです。 ときには、先人達のアイデアを無批判に受け入れています。 とにかく、双曲的非ユークリッドの世界は、あまりにも奇怪で、魅惑的で面白い。
さあ、アカデミック遊覧飛行に出かけましょう。 無限の彼方も一望に!

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