吉外井戸のある村
M'S CLINICAL SOCIOLOGY

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2001年9月11日の「ジハード」
〈WTCビル北棟炎上〉〈WTCビル南棟に激突〉〈国防総省炎上〉〈ビン・ラディン氏〉

 21世紀のヴィジョン(夢)は「2001年宇宙への旅」として期待されていた。しかしその実相は、イスラム原理主義派の組織によるものと見られる、米国中心都市のビルへの連続ゲリラ・アタックによって幕を開けることになった。2001年9月11日の朝、ニューヨークのワールドトレードセンタービル2棟、ワシントンの国防総省(ペンタゴン)ビルが、ハイジャックされたボーイング社製中型旅客機を使った自爆攻撃によって破壊された。とりわけ、高層のワールドトレードセンタービル2棟は、その後白煙を立てながら崩落し、完全に倒壊して瓦礫と化してしまった。

 これは「戦争」である。宣戦布告のない、それどころか相手を特定すらできない「戦争」である。これが21世紀の「戦争」なのである。生中継のテレビを見て投げつけようのない怒りを抱え込まされた米国民の気分で言っているのではない。わが国で6年前に起きた猛毒サリンを同時多地点散布した東京地下鉄内無差別テロ、そしてそこから明らかになっていったオウム教団の一連の「陰謀」に対して、私たちはどう考えたのであっただろうか。「内乱」である。つまり、あれも「戦争」だったのである。

 今回のアタックは「第二の真珠湾攻撃」ではない。なぜなら、米国本土(聖域)への直接攻撃であったからだ。まさにブッシュ大統領がMD(ミサイル防衛システム)計画で守ろうとしていたものが、まんまと襲撃されてしまったのである。倒壊したワールドトレードセンタービル2棟は、世界に屹立する米国経済のシンボルタワーであった。そして、その一角を文字通り叩き潰されたペンタゴンは言うまでもなく世界最強の軍事超大国の指令センターであった。外敵による本土への直接攻撃は、独立建国以来、実に二度目のことである。その一度目とは1812〜14年のイギリスとの第二次独立戦争であり、その時、大統領府は焼け落ちている(その後、そこは白塗りにされ「ホワイトハウス」と呼ばれることになる)。

 「戦争」首謀者として、早速、オサマ・ビン・ラディンという人物の名が挙がっている。彼が本当に首謀者であるかどうかは全く予断を許さない。以下ここでは犯人探しではなく、イスラム原理主義派の組織によるものと見られる今回のアタックの「思想」について、私の考えを若干述べてみたいと思うだけである。それにしても、ワールドトレードセンタービルとは、彼らにとってはよほど米国のシンボルであったと見られる。なぜなら、1993年にも一度アタックされているからである(地下駐車場で爆弾が爆発)。この時も、死傷者1,000名を数えた。

 イスラム原理主義派にとり、米国とは「反イスラム国家」なのである。これはあらかじめイスラム教に反する国家ということではない。そうではなくて、放置すれば自分たちが滅ばされてしまう不倶戴天の敵であると言うことだ。そういう「反イスラム」への戦いを彼らは「ジハード(聖戦)」と呼ぶ。だから、ジハードとは相手が死ぬか自分が死ぬかのいずれかしかない。

 私は前に、アフガンのイスラム原理主義派タリバーンがバーミヤン大仏を爆破したことに関して一文をものしたが、そこにはこう書き付けていた。
 前述の通り、ラディンやタリバーンが今アタックに関わりがあるや否やは不明である。しかし、このイスラム流の「永久革命」理念、つまりジハードとして米国に挑戦する者の仕業であり、それを全うしようという意図に基づくものであることはおそらく間違いないだろう。中身はともあれ一人の「浪漫主義者」としてその心情に熱きものを感じつつも、私は次のように断定せざるを得ない。

 このジハードは「虚無への供物」であると。「虚無」とは「観念」の別名であり、それはフェミニストに言わせれば男の頭が生み出す産物である。「神風特攻隊」など自爆攻撃とは自陣内論理のヒロイズムであり、実はニヒリズムであり、まさに虚無への供物なのである。イスラム原理主義派のために一つだけ「弁神論」を記しておけば、このジハードは「アンチ・ヒューマニズム(反人間中心主義)」の戦いであり、アッラー神に捧げられた戦いであるということだ。

 ユダヤ-キリスト教信仰は初めはともあれ、現代においては「ヒューマニズム(人間中心主義)」に堕していることは事実である。タリバーンについての稿で用いた言葉を使えば、ジハードとは「人間の歴史」に対する闘争である。しかしながら、それは最早アナクロニズムであり、そうであるからこそニヒリズムでしかあり得ない。

 彼らの「虚無」としてのヴィジョンを示そうか。「冷戦」終結後、1991年のいわゆる湾岸戦争から彼らの「ハルマゲドン」は始まった。アッラー神預言者ムハンマドの聖地メッカを擁するサウジへ「悪魔」アメリカは侵入し、以降現在に至るまで駐留を続けている。そしてそこで、イスラエルを支援し、パレスチナとアラブのイスラム教徒を抑圧する戦争機械として機能し続けている。「アメリカ」と名がつくものすべてを地上から抹殺し、「神の時間」を取り戻すことが彼らの唯一の勝利である。アメリカという反イスラム国家は、彼らにとっては言わば「バーミヤン大仏」と同様、神に不要な偶像にすぎない。

 最後に、ブッシュ大統領父子の因果について触れておきたい。今も述べたように、この「ハルマゲドン」を開いたのは父ジョージであった。そしてそのツケは他人のクリントンにではなく、息子のジョージに巡ってきたわけである。全く因果応報とはこのことである。ジハードは始まったばかりである。正規軍側からの「テロ」だという論理と、ゲリラ側からの「ジハード」だという論理は、平行線のように永遠に交わらない。21世紀は、決して睡らない悪魔のような「パルチザン」(K・シュミット)の世紀でもある。

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