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田村隆一詩集『四千の日と夜』

腐刻画

 ドイツの腐刻画でみた或る風景が いま彼の眼前にある それは黄昏から夜に入ってゆく古代都市の俯瞰図のようでもあり あるいは深夜から未明に導かれてゆく近代の懸崖を模した写実画のごとくにも想われた

 この男 つまり私が語りはじめた彼は 若年にして父を殺した その秋 母親は美しく発狂した

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