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田村隆一詩集『四千の日と夜』
皇帝
石の中に眼がある 憂愁と倦怠にとざされた眼がある
その人は黒衣をきて私の戸口を過ぎる 冬の皇帝 淋しい私の皇帝! 白皙の額に文明の影をうつし欧州の墓地まで歩いて行く 太陽を背中に浴びて あなたの自己処罰はいたいたしい
花を! あなたは手を差しのべる 理性と進歩の時代の果てに世界の冬がはじまろうとしております 欧州の美女は幻影にすぎず誰があなたの手に接吻をするでしょうか 鳶色の運命に乾ききったあなたの手のひらに発芽状態があるのでしょうか
花を! 花のごとき傷痕を!
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