▲contents
田村隆一詩集『四千の日と夜』
再会
どこでお逢いしましたか
どこで どこでお逢いしましたか
死と仲のいいお友だち わたしの古いお友だち!
この都会の真昼
影という影は灰色の戸口のなかに消えてしまって
わたしたちの悩ましい記憶も都会の大きな幻影のなかに失われてしまって
あなたは想い出すことができない
わたしの微笑
わたしはどこかであなたに囁いたことがある
「苦悩は微笑する」
僕には死火山が見えます
僕には性的な都会の窓が見えます
僕には太陽のない秩序が見えます
わたしの手のなかで乾いて死んだ公園の午後
わたしの歯で砕かれた永遠の夏
わたしの乳房の下で眠っている地球の暗い部分
どこでお逢いしましたか どこで
僕は十七歳の少年でした
僕は都会の裏街を歩き廻ったものでした
驟雨!
僕は肩をたたかれて振り返る
「あなた 地球はザラザラしている!」
|previous|head|next|
Copyright(c)1996.09.20,TK Institute of Anthropology,All rights reserved