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田村隆一詩集『四千の日と夜』

細い線

きみはいつもひとりだ
涙をみせたことのないきみの瞳には
にがい光りのようなものがあって
ぼくはすきだ
    きみの盲目のイメジには
    この世は荒涼とした猟場であり
    きみはひとつの心をたえず追いつめる
    冬のハンターだ
きみは言葉を信じない
あらゆる心を殺戮してきたきみの足跡には
恐怖への深いあこがれがあって
ぼくはたまらなくなる
    きみが歩く細い線には
    雪の上にも血の匂いがついていて
    どんなに遠くへはなれてしまっても
    ぼくにはわかる
きみは撃鉄を引く!
ぼくは言葉のなかで死ぬ

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