▲contents
田村隆一詩集『四千の日と夜』
細い線
きみはいつもひとりだ
涙をみせたことのないきみの瞳には
にがい光りのようなものがあって
ぼくはすきだ
きみの盲目のイメジには
きみは言葉を信じない
この世は荒涼とした猟場であり
きみはひとつの心をたえず追いつめる
冬のハンターだ
あらゆる心を殺戮してきたきみの足跡には
恐怖への深いあこがれがあって
ぼくはたまらなくなる
きみが歩く細い線には
きみは撃鉄を引く!
雪の上にも血の匂いがついていて
どんなに遠くへはなれてしまっても
ぼくにはわかる
ぼくは言葉のなかで死ぬ
|previous|head|next|
Copyright(c)1996.09.20,TK Institute of Anthropology,All rights reserved