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田村隆一詩集『緑の思想』

日没の瞬間 一九五六年冬

小鳥を見た
ちいさな欲望から生れ
ちいさな生にむかって慄えている小鳥をぼくは見た

ちいさな欲望とちいさな生のうえを歩いてはきたが
ぼくには小鳥を描写するごとができない
つめたい空から
地上に落ちてくる ぼくの全生涯より長い瞬間に
するどい嘴と冬の光りにきらめくちいさな眼は
分解するだけだ
    おお どうしよう ぼくは愛を描写することができない
    おお どうしよう ぼくは物を分解するだけだ
太陽を見た
おおきな沈黙から生れ
おおきな死にむかって燃えている太陽をぼくは見た

おおくの死とおおくの沈黙のうえを歩いてきたが
ぼくは太陽を描写することができない
落ちてゆくのには遅すぎる
とどまっているのには速すぎる ぼくの全生活より短い瞬間に
あたらしく生れあたらしく死ぬひとつの太陽は
分解するだけだ
    おお どうしよう ぼくは苦痛を描写することができない
    おお どうしよう ぼくは心を分解するだけだ
ここは この都会でいちばん高い場所 なぜならここは
この都会でいちばん暗いからだ

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