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田村隆一詩集『緑の思想』
悪い比喩
蒼白い商業と菫色の重工業は
朔太郎の抒情詩で終ってしまったが
戦争から帰ってきた青年たちは
砂漠と氷河の詩を歌ったっけ
むろん かれらだって
砂漠で戦ったこともなければ
氷河を見てきたわけでもない
仲間が死んだのは南の海だ
砂漠も氷河も悪い比喩だ
比喩は死んで死隠喩になったけれど
「死んだ男」はいまだに死なぬ
古いアルバムの鳶色の夢のなかで
夭折の権利を笑っているのさ
道造や中也とそっくりの
瞬時に溶けよ
人類の眼
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