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田村隆一詩集『緑の思想』
秋津
おれの耳のなかで
歯科医の機械針が電気ドリルのような
ひびきをたてた
あたらしい屍体をうずめるために
凍てついた土を掘りおこしているのだ
突然 おれは目まいにおそわれる
まるでウイリアム・アイリッシュの探偵小説に
出てくるような
すごく荒涼とした高架鉄道のプラットフォームから
何千何百という黒い鳥が
おれのレインコートのように落ちてゆく
そういえば
おれはどこにいても高さを感じたっけ
一篇の詩を書くだけで
おれは高所恐怖にかかるのだ
眼がさめたのは秋津
池袋西武線の秋津
まっ赤な冬の陽がいまにも地平線にしずみそうな
武蔵野の小駅で
おれははじめて魂の色を見た
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