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田村隆一詩集『新年の手紙』

詩を書く人は

詩を書く人は
いつも宙に浮いている
どこにいったいそんな浮力があるのか
だれにも分らない

詩を書く人は
ピアノを弾く人にすこし似ている
かれの頭脳がキイを撰択するまえに
もう手が動いているのだ

手がかれを先導する
手は音につかまれて遁れられないのだ
それで手はあんなにもがいているのさ

音が手をみちびき
手は音から遁れようとしながら
かれを引きずって行く どこへ

いったいどこへだろう 詩を書く人の姿が見たかったら
きみは全世界のいちばん高い所からとびおりるのだ
逆さまに
落下するその逆さまの眼に
闇のなかで宙に浮いている詩を書く人の姿が
もしかしたら見えるかもしれない

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