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田村隆一詩集『新年の手紙』

頬を薔薇色に輝かせて ニューヨークの六日間

神は
たった六日間で
ぼくらの世界を創ってしまったというのだから居心地の悪いのも無理はない
おまけに気まぐれで神経質な神は
七日目にその手を休めてしまったのだから
かわりにぼくたちは働かなければならないのさ

「緑の導火線を通して花を駆りだす力は
ぼくの緑の年齢としを駆りだす。木の根を枯らす力は
ぼくの破壊者だ」と歌ったウェールズ生れの天使は
急性アルコール中毒で脳細胞を破壊されたままニューヨークの病院で死んでしまった
その都会の東二十八丁目十四番地のプリンス・ジョージ・ホテルの
熱と悪夢にうなされているぼくらの頭上の部屋で
谷川俊太郎がぼくらの魂について詩を書いていたとは知らなかったよ
    「……それから風邪をひいた田村夫人のために/僕等はプラスチックの箱に/刺身と御飯とお新香をいれて持って帰った/テレビではまだマリリン・モンローが生きていて/それからもちろん旅行者小切手に/くり返し自分の名前を記して/人間は今あるがままで/救われるんだろうか/もし救われないのなら/今夜死ぬ人をどうすればいいんだい/もし救われるのなら/未来は何のためにあるんだろう……」
巨大な冒険と漂流譚の絵本のおしまいに
二枚の写真がぼくらの眼の暗部にむかってひらかれる
左側にはマンハッタン生れの金色の生毛の少年
右側の全頁には八十歳の緑色の老人が大きな手をあげて
ヘンリー・ミラーは二人の・・・自分自身の写真に言葉をつける  
「とにかく、とも・・にこれから何かがはじまろうというのだ」

神が手を休めたおかげで
ぼくらは一日中働かねばならぬ おお 涙の涸れるまで
類を薔薇色に輝かせて
人類の悲惨について考えよ

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