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田村隆一詩集『死語』

迷宮 光晴先生に

六月の雨がおわりかけたのに
あなたが 突然
この世からいなくなってしまったから
ぼくの胃腸の調子がすっかり狂ってしまった
頭はもともとおかしいから
あなたに恨みごとを云う筋あいはないのだが
胃腸まで狂ったとなると この世から
あなたがいなくなったせいだ

一本のくだ
肉色の粘膜状のうごめく形象の先端から
褐色の神経質な括約筋が防衛している出口まで
迷走神経にとりかこまれながら
一本の管は
迷宮のなかを渦動状にからみあい
まるで二匹の蝮みたいにからみあい
生物としてのぼくを支えている
その一本の管だって
あなたが迷宮からだしぬけに姿をくらましたものだから
狂ってしまった

おお ラビランス
ぼくは水を飲み
泥を排泄しながら
木の十字架
木の寝台にだらっと横たわり
水を飲み
泥を吐き

ぼくはぼく自身を排泄するために
いっそのこと逆倒して生きるべきだった
ぼくを裏返し
迷宮に
夏の光りを浴せかけ
暗い咽喉部を涙のようなものと降下していって
魂に形があるなら
この手で鷲づかみにしてやりたい

水を飲み
泥を吐き

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